メタボリックシンドロームは近年注目を集めている疾患群のひとつであり、定期的な健康診断が行われるようになってきました。このメタボリックシンドロームも、マグネシウム不足が関係していると、東京慈恵会医科大学教授 /糖尿病・代謝・内分泌内科 診療医長の横田邦信先生はおっしゃいます。両者はどのように関係しているのでしょうか? 先生のご研究に基づいたお話をしていただきました。
日本におけるメタボリックシンドロームの基準は、第一に腹囲が男性で85㎝、女性で90㎝を越えていることが必須項目となります。加えて、以下の3点のうち2点以上が当てはまると、メタボリックシンドロームと診断されます。
厚生労働省の統計データによると、メタボリックシンドローム患者数は、予備軍を含めておよそ520万7000人(2012年)といわれています。
患者数は食生活の欧米化に伴って、今後も増加していくことが予測されます(特に中高年)。また、40~74歳では、男性の2人に1人、女性の5人に1人が予備軍を含めメタボリックシンドロームとして疑われています。
日本のメタボリックシンドローム診断は、第一に「腹囲が一定数以上であること」だと先ほど述べました。しかし、実はこの診断基準を必須項目として用いているのは、世界でもごくわずかなのです。
本来のメタボリックシンドロームの疾患概念の病態は根底にインスリン抵抗性が存在することです。インスリン抵抗性とは、インスリンの効き目が悪くなっている状態のことを指します。その結果血糖値が下がりにくくなっている状態です。
わが国におけるメタボリックシンドローム診断の問題点、特に、腹囲の必須項目としての妥当性の問題点が以前から指摘されています。2010年の厚生労働省の調査で、腹囲が基準値未満のグループと基準値をオーバーしているグループ双方から、前述した三つの危険因子がすべてそろっている方をピックアップして調査したところ、両群間で動脈硬化性血管合併症の発症頻度に大きな差がなかったことが分かっています。
つまり、腹囲が基準値未満で肥満ではないと診断された方であっても肥満と診断された方と比較して合併症のリスクに差がないことから腹囲基準のあり方に疑問が生じているのです。
メタボリックシンドローム発症のリスクに関しても、マグネシウム不足が関係してくるといえるでしょう。
マグネシウムの摂取が不足すると、代謝促進の原動力が減るためエネルギー代謝が鈍くなり、糖代謝異常が生じます(インスリン抵抗性の増悪によります)。また、メタボリックシンドロームに特徴的な脂質代謝異常も引き起こすことが分かっています。
加えて、マグネシウムは細胞内のカルシウム濃度を調整・あるいはカルシウムと拮抗する働きを持っているため、マグネシウムが不足するとカルシウムが細胞内に過剰蓄積し、高血圧を引き起こす原因のひとつになります。このように、マグネシウムが不足することでメタボリックシンドロームの危険因子となる異常状態をすべて説明できることができるのです。
若いときから意識して推奨量のマグネシウムを摂取している方は、メタボリックシンドロームのリスクが最大31%低下することも2006年に臨床栄養疫学研究が報告しており、その論文が高血圧の治療ガイドラインにも引用されています(He K, et al., Circulation 113:1675-82.2006. )。 また、マグネシウムを一日100㎎多くとるごとに、メタボリックシンドロームのリスクが17%低下することも分かっています。(Dibaba D, et al., Diabetic Medicine doi:10.1111/dme.12537,2014. )
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
社会保険診療報酬支払基金東京支部 医療顧問、東京慈恵会医科大学 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 客員診療医長
日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医
東京慈恵会医科大学・同大学大学院卒業後、富士市立中央病院内科医長、横須賀北部共済病院内科部長、東京慈恵医科大学准教授、同附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科診療医長、同大学医療保険指導室長、同大学教授(大学直属)を経て2017年定年退職し現在東京慈恵会医科大学客員教授、糖尿病・代謝・内分泌内科客員診療医長。糖尿病や生活習慣病にはマグネシウムが深く関係しているという観点から、医学的に糖尿病やメタボリックシンドローム発症のメカニズムや治療法を説く。日本社会全体に貢献している医師の一人。(横田先生が共同設立してマグネシウムに関する新しい情報を提供している(MAG21研究会):http://mag21.jp/ )
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