原因
水痘帯状疱疹ウィルスが原因です。水痘帯状疱疹ウィルスは小児期に初感染した後、顔面神経の膝神経節に潜伏感染します。
潜伏感染した水痘帯状疱疹ウィルスが免疫力低下により再活性化するとハント症候群が発症します。顔面神経自体に障害を来すものを末梢性顔面神経麻痺といいますが、ハント症候群は末梢性顔面神経麻痺の約15%を占めます。
症状
顔面神経麻痺により顔の表情が作りにくくなります。額のしわがなくなる、開眼時に眼裂が拡大し、閉眼時に眼輪筋が収縮せずに閉眼しない、鼻唇溝の消失、口唇が健側によるといった症状をきたします。朝の洗面時や食事時に口に含んだ水や食べ物が口の端からこぼれる症状で気づくこともあります。顔面神経は涙や唾液の分泌、味覚にも関わっているため、眼の渇き、流涙、口渇感、味覚障害を生じることもあります。
耳鳴り・難聴・めまいといった内耳障害をきたします。外耳道および耳介周囲に帯状疱疹とよばれる痛み、かゆみを伴う赤い発疹・水泡を認めます。
上記がそろったものを完全型とします。または両方を欠くものを不全型とします。まれですが、飲み込みや発声に関わる他の脳神経にもウィルス感染が伝播し、重篤な症状を合併することがあります。
検査・診断
顔面神経麻痺の程度を評価します。本邦で最も用いられている柳原法は40点法です。10点以上を不全麻痺、8点以下を完全麻痺、あるいは20点以上を軽症、18~10点を中等症、8点以下を重症とします。
難聴、耳鳴り、めまいといった内耳障害の診断に聴力検査や平衡機能検査も行います。帯状疱疹の診断は皮膚や粘膜の視診により行います。外耳道の発赤など外耳炎症状を呈する非典型例や、遅れて帯状疱疹が出現する症例もあるため注意が必要です。顔面神経は中耳内を通っています。顔面神経の障害部位診断目的に味覚検査やアブミ骨筋反射測定も行います。
また、複数回の血液検査によって、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化を確認することができます。誘発筋電図検査や神経興奮性検査でより顔面神経麻痺の程度を測定するとある程度の予後予測ができます。いずれの検査法も発症7~10日以内でないと正確な診断はできません。
治療
ステロイドホルモン剤と抗ウイルス薬による薬物治療を行います。神経麻痺の原因は炎症性神経浮腫と考えられています。ステロイドホルモン剤の抗炎症、抗浮腫効果は投与量に依存します。このため顔面神経麻痺の重症度により投与量は異なります。
早期に投与するほど有効で、遅くとも10日以内が望ましいとされます。抗ウィルス薬はウィルス増殖を抑制する薬剤で、増殖したウイルスを殺すことはできません。そのため、麻痺発症3日以内の投与が必要です。
麻痺発症8日以降の抗ウィルス薬投与や、麻痺発症14日以降のステロイドホルモン剤投与は効果が期待できないため推奨されません。麻痺の程度によって治癒率が変わります。高度麻痺例で、誘発筋電図検査や神経興奮検査の反応が乏しい場合には神経減荷術と呼ばれる手術を行います。
手術至適時期は2週間以内と考えられています。
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