去る2018年5月16日(水)〜18日(金)、国立京都国際会館(京都市左京区)にて第26回日本乳癌学会学術総会が開催されました。本学会では、連日プレスリリースが実施され、注目演題の概要や乳がん領域におけるトピックが発表されました。座長は大会長である戸井雅和先生(京都大学大学院医学研究科外科学講座 乳腺外科学教授)が務められました。本記事では、日本大学医学部病態病理学系腫瘍病理学分野の増田しのぶ先生の発表をお伝えいたします。
近年、ゲノムは乳がんだけでなく、肺がんや大腸がんなどのさまざまながん診療において、なくてはならない存在となっています。たとえば、乳がんのサブタイプ分類や、特定の遺伝子を標的とする分子標的薬など、ゲノム医療*は日常診療に欠かせません。そのほか、保険適用ではありませんが多遺伝子解析(オンコタイプDXなど)によって患者さんに遺伝情報を提供することも可能です。
また、2018年4月から、がんゲノム医療中核病院・連携病院の施設認定も開始され、がんゲノム診療はますます発展していくことが予想されます。
ゲノム診療(医療)…ゲノムは遺伝子「gene」と集合を意味する「-ome」からなる造語で、DNAに含まれるすべての遺伝子情報のことをいう。ゲノム診療(医療)とは、それを網羅的に調べて、その結果をもとに診断や治療を行うことを指す。
このように、がんゲノム診療のあり方が変化していくなかで、私は主に以下の6つの課題があると考えています。
特に、がんゲノム医療に関連する人材育成は重要な課題であると考えています。現在、上図
にあるように、各学会や団体でゲノムに関する資格認定がされています。
そのなかで、乳がんに関連するものとしては「遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構」です。また、日本病理学会でも分子病理専門医(暫定)が発足していて、2018年5月現在、73名の分子病理専門医が誕生しています。分子病理専門医には、主にゲノム情報の品質管理などの役割が課せられます。
また、乳がん診療一連のマネジメントのなかに、ゲノムの有益性が取り入れられる可能性があると考えています。たとえば、治療前、手術中、術後の経過観察などそれぞれの場面において、リキッドバイオプシー(血液などを使って診断や治療効果の予測を行う検査)や腫瘍などの検体の採取を行い、遺伝子変異をモニタリングします。
このような臨床経過のなかで遺伝子変異をみることで、再発や転移の観察をすることができるのではないかと考えます。
現在の遺伝子検査の感度は、従来に比べて格段によくなってきています。そのようななかで、がんの診断基準は大きな課題のひとつです。
病理学的にがんであると診断するときには上図のように、ある臨界点から右側をがんと診断していました。しかしながら、実際にはがんになる前から遺伝子不安定性などが起こっていることがわかっているため、検査の感度を上げてさらに早期にがんと診断するべきではないかといわれています。
しかし、一方で、アクティブサーベイランス(積極的な経過観察)や手術を行わなくてもいいような低リスクの乳がんに対して不必要な治療が行われている現状もあり、このような過剰診断・過剰診療を防ぐためには、検査の感度を下げる必要もあるのではという議論もあるのです。
それでは、がんの診断基準はどのようにすればよいのでしょう。Danforth先生の論文によると、がんの可能性がまったくない検体にも、染色体レベルの異常や構築の変化などが起こっていることから、遺伝子変異があることが必ずしもがんを発症しているとは限らないといわれています。そのため、単に遺伝子変異をみるのではなく、臨床的な意義が高い遺伝子異常は何かについて明らかにする必要があります。
つまり、検査の感度が高ければ高いほどよい、というわけではなく適切な診療を行うためには、どのような場面でどのような方法を使うべきかを検討する必要があります。たとえば、経過観察におけるリキッドバイオプシー、低リスクのがんにおけるアクティブサーベイランスなど、治療を選択する際の判断の軸をいくつか組み合わせることが大切です。
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