インタビュー

パーキンソン病に似た症状が特徴の線条体黒質変性症とは? 多系統萎縮症の病型を解説

パーキンソン病に似た症状が特徴の線条体黒質変性症とは? 多系統萎縮症の病型を解説
髙橋 祐二 先生

国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部長

髙橋 祐二 先生

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この記事の最終更新は2018年08月06日です。

多系統萎縮症(MSA)は、脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)と呼ばれる病気のひとつです。日本では、最初に現れる主な症状から、線条体黒質変性症(せんじょうたいこくしつへんせいしょう)、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群の3つの病型に分類されています。

このうち線条体黒質変性症では、最初にパーキンソン症状が現れます。今回は、国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部長の髙橋 祐二先生に、多系統萎縮症のひとつである線条体黒質変性症の特徴や治療についてお話しいただきました。

脊髄小脳変性症:脳の一部が障害されるために歩行時のふらつきなどの症状が現れる神経の病気の総称

パーキンソン症状:歩行や動作が遅くなるなどパーキンソン病と似た症状

多系統萎縮症は、脊髄小脳変性症のひとつです。脊髄小脳変性症とは、脳の一部、特に小脳や脊髄と呼ばれる場所が進行性に障害されることによって、歩行時のふらつきなどさまざまな症状が現れる神経の病気の総称です。

提供:PIXTA

多系統萎縮症は、最初に現れる主な症状から以下の3つの病型に分類されます。

  • 線条体黒質変性症:動作が遅くなるなどのパーキンソン症状が最初に現れる主な症状である病型
  • オリーブ橋小脳萎縮症:起立や歩行時のふらつきなどの小脳症状が最初に現れる主な症状である病型
  • シャイ・ドレーガー症候群:立ちくらみや失神、尿失禁などの自律神経障害が最初に現れる主な症状である病型

どの病型であっても、病気の進行とともに徐々に他の病型を合併していきます。そのため、発症初期の主症状は異なりますが、最終的には程度の差こそあれすべての病型の症状が現れる点が特徴です。

MSA-C・MSA-Pと分類されることも

お話しした3つの分類とは別に、多系統萎縮症では、Gilman分類と呼ばれる国際的な診断基準(その病気の診断方法や治療方法を定めた指針)が定められています。Gilman分類では、以下のように病気が分けられています。

  • MSA-C:診察時に小脳症状が主体であるもの
  • MSA-P:診察時にパーキンソン症状が主体であるもの

そのため、多系統萎縮症の診療では、「MSA-C」や「MSA-P」という言葉が使われることがあります。ご紹介した3つの病型にあてはめると、MSA-Cがオリーブ橋小脳萎縮症、MSA-Pが線条体黒質変性症に該当します。2018年5月現在、国際的な診断基準では、シャイ・ドレーガー症候群に該当する分類はありません。これはシャイ・ドレーガー症候群の初期の主症状である自律神経症状は多系統萎縮症の診断に必須の症状として、MSA-P・MSA-Cの診断基準に含まれているからです。

多系統萎縮症は、αシヌクレインというタンパク質が、脳内の中枢神経細胞に含まれるグリア細胞に蓄積されることによって起こります。しかし、2018年5月現在、なぜグリア細胞にαシヌクレインが蓄積されるかは、わかっていません。

近年の研究では、病気を起こしやすくする、いくつかの遺伝子の変化がみつかっています。遺伝子の変化があるからといって必ずしも病気を発症するわけではなく、環境的要因など何らかの別の因子が加わることによって病気が起こると考えられます。

しかし、病気を引き起こすメカニズムは十分に解明されておらず、2018年5月現在も研究が続けられています。

多系統萎縮症の多くは、基本的には家族に病気が遺伝しない孤発性の病気であると考えられています。家族内発症の報告がありますが極めてまれです。

線条体黒質変性症は、お話ししたように多系統萎縮症の病型のひとつです。日本では、多系統萎縮症の約30%を占めるといわれています。

線条体黒質変性症は、最初にパーキンソン病とよく似た症状が現れる点が特徴です。たとえば、動作が遅くなったり歩行が困難になったり、声が小さくなったりなどの症状が現れます。

特に、初期の段階ではパーキンソン病と区別することが難しいといわれています。そのため、パーキンソン病の診断を受けたとしても、病気が進行した後に多系統萎縮症であることがわかるケースもあります。

線条体黒質変性症は、40歳代以降の発症がほとんどであるといわれています。特に、50歳代で発症しやすいと考えられています。

また、男女比では、男性の発症がやや多いといわれています。

50代くらいの中年男性

線条体黒質変性症の発症初期の症状は、パーキンソン病の症状に非常によく似ています。具体的には、表情が乏しくなったり、筋肉が硬くなり歩行や動作が遅くなったりなどの症状が現れます。また、声が小さくなり話しにくくなることもあります。

パーキンソン症状に加えて、病気の進行とともに、徐々に他の病型の症状を合併していきます。

小脳症状を合併すると、話すときに呂律が回らなくなったり、起立や歩行時にふらついてしまったりなどの症状が現れるようになります。自律神経障害を合併すると、起立性低血圧のために立ちくらみや失神を起こしたり、尿失禁や残尿などを生じるようになります。

これらの症状のうち、どの症状をいつ合併するかは、患者さんによって異なります。自律神経障害の症状が初期から強く現れる場合はやや進行が速い傾向があります。

起立性低血圧:立ち上がったり起き上がったりしたときに、過度に血圧の低下が起こる症状

多系統萎縮症の診断のための診療では、症状を確認していきます。線条体黒質変性症の場合、表情が乏しかったり歩行や動作が遅くなったりといったパーキンソン症状があれば、診断のための重要な情報になります。

さらに、他の病型の症状がみられるようであれば、この病気を疑います。特に、パーキンソン症状に加えて、早期から起立性低血圧による立ちくらみや排尿障害など自律神経障害による症状が現れるようであれば、多系統萎縮症の可能性があります。

症状の確認に加えて、頭部MRI(磁気を使い、体の断面を写す検査)によって線条体黒質変性症に特徴的な画像所見を確認します。この画像所見は、病気が少し進行したときに現れるという特徴があります。そのため、発症して間もない段階では、現れないことが多いです。

また、自律神経機能を測る検査や残尿を測る検査、ドーパミントランスポーターシンチ(DaT-Scan)、MIBG心筋シンチ、脳SPECTなどの検査を行い、診断の参考にすることもあります。

脳SPECT:脳の血流の状態を調べる検査

診断

お話ししたように、線条体黒質変性症は初期にはパーキンソン病に非常によく似ていることがあります。また、線条体黒質変性症に特徴的な画像所見は、発症初期の段階では現れません。

これらのため、経過を観察し、最初の診療から数年後に診断されるケースもあります。

線条体黒質変性症は、初期にはパーキンソン病と診断されることもあります。しかし、パーキンソン病と診断されたとしても、治療の過程で線条体黒質変性症であることがわかることもあります。

鑑別の参考となる、パーキンソン病との主な違いは、次のようなものです。

線条体黒質変性症は、パーキンソン病と比べて、進行が速いといわれています。たとえば、パーキンソン病は、進行すると転倒しやすくなります。一方、線条体黒質変性症の患者さんは早期から転倒しやすいケースが多いという報告もあります。

また、自律神経障害による症状が現れる場合には、線条体黒質変性症である可能性を疑います。たとえば、早期からの立ちくらみ、尿失禁や残尿がみられるようであれば、この病気の可能性があると考えられます。

線条体黒質変性症の治療では、基本的にパーキンソン病と同じ薬を使用します。しかし、パーキンソン病と比べて治療効果が弱い場合が多いです。そのため、パーキンソン病と診断された患者さんの治療過程で効果があまりみられないときには、線条体黒質変性症を疑います。

2018年5月現在、病気を根本から治す治療方法はみつかっていません。現状では、以下のように、症状を和らげる治療を行います。

パーキンソン症状に対しては、主にパーキンソン病に効果が認められている薬によって治療を行います。治療効果は患者さんによって異なり、治療効果が弱いケースもありますが、有効なケースもあります。

病気が進行し、自律神経障害や小脳症状が現れてきた場合には、主にそれぞれの症状に効果のある薬によって治療を行います。たとえば、起立性低血圧排尿障害などは効果のある薬がすでにあるため、これらの薬によって症状を和らげます。

薬

病気が進行すると、食物や水分を飲み込むことが難しくなる嚥下障害(えんげしょうがい)を起こすことが多いです。嚥下障害のために食事をとることが難しくなると、飲み込みやすい嚥下食を取り入れることがあります。また、胃ろう(胃に穴をあけチューブから栄養をとりいれること)を導入することもあります。

嚥下障害が起こると、誤嚥性肺炎(食べものや唾液などと一緒に、誤って細菌が気管に吸引されることで生じる肺炎)を生じるリスクが高くなります。誤嚥性肺炎を予防するためには、口腔内の清潔が保たれていることが大切です。口腔内のケアを行うことが予防につながるでしょう。

多系統委縮症の新たな治療法の可能性

2018年5月現在、多系統萎縮症の新たな治療法確立に向けた臨床試験(新しい薬や治療法を開発するために、人で効果や安全性を調べる試験)が始まっています。今後は、病気を根本から治す治療法が新たに確立される可能性もあります。

診療ガイドラインの刊行

また、2018年5月には「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」が刊行されました。病気の説明から症状・検査・診断・治療・リハビリまで網羅された充実した内容になっています。

多系統萎縮症のうち線条体黒質変性症の患者さんは、発症から5〜8年程度で歩くことができなくなることが多いです。ただ、進行の速度は患者さんごとに異なります。

さらに進行すると、発症から約9年で嚥下障害による窒息や、気道閉塞による無呼吸で亡くなることが多いといわれています。このような場合に、気管切開・人工呼吸器によって呼吸管理を行うケースもあります。

しかし、これらの原因とは別に、原因がわからず突然亡くなることもあります。多系統萎縮症には、このような原因不明の突然死のリスクがあることが報告されています。

線条体黒質変性症は早期にはパーキンソン病と区別がつきにくく、多くの患者さんはパーキンソン病として治療されています。このような患者さんの中で、立ちくらみが強い、失禁してしまう、尿が出にくいなどの自律神経障害が強かったり、転倒などパーキンソン病の進行期にみられるような症状が早期からみられる場合には、多系統萎縮症(線条体黒質変性症)である可能性があります。

きちんと診断をつけることにより、合併症を予測して早期から予防的な介入を行うことが重要であると考えられます。

線条体黒質変性症と同じく多系統萎縮症の病型のひとつである「オリーブ橋小脳萎縮症」に関しては、記事2『歩行時のふらつきなどが現れるオリーブ橋小脳萎縮症とは? 多系統萎縮症の病型を解説』をご覧ください。

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