国立国際医療センター 大腸肛門外科では、病気の状態だけでなく患者さんの考え方や生活背景に合わせてオーダーメイドの大腸がん治療を提供することを目指しています。そのためには、関わりの深い臓器を扱う診療科や専門的な治療を提供する医療施設との連携も重要です。今回は、同科診療科長の清松 知充先生に、新たに発足する骨盤腫瘍外科治療センター(仮称)の概要やQST病院と連携した重粒子線治療の提供、今後目指す大腸がん治療の方向性などについてお話を伺いました。
骨盤内には、直腸のほか膀胱、子宮や前立腺などの臓器が密集しています。その中でがんができると、各診療科の協力のもとに治療を行う必要性が多々生じてきます。そこで当院では、骨盤内のがんに対してシームレスな手術を実施するべく、外科を主体とした“骨盤腫瘍外科治療センター(仮称)”の立ち上げを予定しています(2026年3月時点)。
たとえば、直腸がんの患者さんで膀胱や前立腺にがんが広がっている場合には、大腸肛門外科でがんと一緒に膀胱や前立腺を切除したうえで、泌尿器科に人工膀胱の造設などを依頼することもあります。また一方で婦人科がんの手術に大腸肛門外科が関わるケースも多く、子宮がんの再発や卵巣がんの播種(がん細胞が種をまいたように広がった状態)などで必要があれば直腸を合併切除したり、直接の浸潤がない場合には極力直腸を温存したりするような手術も協力して行っています。状況に応じて各科の再発がんなどに対して骨盤内臓全摘術などの拡大手術も、複数の診療科の連携のもと実施しています。
また、骨盤内にあるがんがもともとどこから生じたものなのか分からないといったケースでも、診療科間の垣根なくスムーズに診断から治療までを一貫して進められる体制を築いています。
骨盤内腫瘍は外科的に切除可能なものばかりではなく、特に再発腫瘍など周辺の骨や神経にまで広範に広がった腫瘍などは外科的切除の適応にならないこともしばしばあります。この場合は代替療法として放射線治療や抗がん薬治療が行われますが、完治するのは一般的に極めて困難です。こうした手術が難しい症例に適応となる可能性があるのが重粒子線治療です。重粒子線治療は放射線治療の一種ですが、対象を絞ってシャープに照射できるのが特徴です。またX線や陽子線よりも体内での線量が高く、手術と同様に根治を目指すことができ、症例によって手術と遜色ない可能性も報告されています。一方で、線量が強い分、がんだけでなく近接する臓器まで照射されてしまうと重篤な障害が残る場合もあります。特に腸管は照射に弱く孔が空いてしまうと、重篤な腹膜炎で命に関わることがあり得ます。そのため、たとえば腸管とがんが近接する場合などでは重粒子線治療は通常禁忌となります。しかし、近年ではあらかじめ手術で腸管とがんの間に吸収性のスペーサーを挿入してスペースを人工的に作成し、安全性に配慮して重粒子線治療ができるようになってきており、当院ではQST病院と連携して積極的にこれを行っております。
また、大腸がんのうち直腸がんは局所再発(一度手術でがんを切除した場所に起こる再発)が比較的起こりやすく、再発時の手術が困難になるケースが多々あります。通常がんの手術では、がんの周りに“のりしろ(余白部分)”をつけて切除しますが、周りに臓器が密集している直腸がんでは“のりしろ”を十分につけて切除するのが困難で、のりしろ部分にがんが残ってしまうことがあります。また、初回の手術ですでに余剰がない状態で手術を行っているので、再発時の手術は難易度が非常に高くなります。それでもできる限り切除するのが基本ですが、患者さんの状態や再発部位によっては、切除はできても機能的なダメージが大きくなってしまうリスクがあります。こういった患者さんにも重粒子線治療は有効な治療法となります。
ただし、安易に重粒子線治療を選択するのではなく、“切除できるのであれば切除してがん自体をなくすのが望ましい”という考え方を前提に、外科手術と重粒子線治療のメリットとデメリットを十分に理解していただき、院内連携と同様に一連の流れの中で治療を受けていただける体制を整えています。
当科では、所属する医師の誰が担当しても同じ質の手術を提供できることがとても重要だと考えています。全員が同じように手術前のシミュレーション画像を適切に読み取り、手術の進め方を把握し、それを踏まえて術中エコーで実際の状態を確認できる――。その流れを重視しつつ、ロボット支援下手術の手技のポイントを理解し、身につけられるよう取り組んでいます。手術は1人でできるものではありません。チームとして高い安全性とクオリティを維持していくことを大切にしています。
また、当科では3Dシミュレーションや術中エコーなどの新しい技術を駆使しながら、より安全性の高い手術を提供することに努めていますが、全国的にこうしたシステムを取り入れている医療施設はまだそれほど多くないでしょう。ナショナルセンターとしてこうしたシステムの全国的な普及にも貢献し、患者数の多い大腸がん手術全体の安全性向上を目指していきたいと考えています。
大腸がんの治療に対する考え方は患者さんによってさまざまです。そのため、患者さんと相談しながら、肛門の機能を維持しつつ治療成績を極力下げずに済む方法を検討し、納得いただける治療を提供できるよう努めています。手術でがんを切除することが重要だと理解しつつも、人工肛門は絶対に許容できないという方もいます。また、どうしても人工肛門に対するネガティブなイメージや不安が先行してしまいがちなため、プラスの面も知っていただき、その方の現状にふさわしい治療のオプションを示すことも大切だと考えています。
当院では、患者さんのお話をよく聞いたうえでライフスタイルや価値観をしっかりと把握し、ご本人やご家族と相談しながら一人ひとりに合わせたオーダーメイドの治療を提供しています。
当科には「肛門を残したいがそういった治療は可能か」、「骨盤内の再発に対して何かできる治療はないか」と相談に訪れる患者さんも少なくありません。大腸がんの中でも特に直腸がんの手術は、肛門や周辺臓器の機能温存と根治性のバランスを取ることが大切です。当科では、治る可能性を最大限に追求しながら機能をできる限り温存する低侵襲治療を追求しています。
また当院では、医師をはじめとした多職種、診療科が連携して一人ひとりにふさわしい治療の提供に努めています。皮膚・排泄ケア認定看護師*、がん治療に伴う心身の苦痛のコントロールに取り組む緩和ケアチーム、抗がん薬治療など薬物療法を扱う腫瘍内科の専門チーム、精神科リエゾンチームなど、さまざまな側面から患者さんをサポートする体制が整っていますので、お困り事がある方はぜひ相談にいらしてください。
*皮膚・排泄ケア認定看護師:公益社団法人 日本看護協会の認定資格
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