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婦人科疾患の手術選択――vNOTESのメリット・デメリットについて解説

婦人科疾患の手術選択――vNOTESのメリット・デメリットについて解説
大石 元 先生

国立国際医療センター 産婦人科 診療科長

大石 元 先生

目次
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婦人科疾患の手術では、開腹手術や腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)などのほか、近年はvNOTES(ヴイノーツ)という新たな方法が登場しています。vNOTESとは、腹部を切らずに腟からカメラや鉗子を挿入して行う手術方法です。

今回は、国立国際医療センター 院長補佐であり、産婦人科診療科長、第一婦人科医長の大石 元(おおいし はじめ)先生に、vNOTESをはじめとする婦人科手術の術式や、そのメリット・デメリットなどについてお話を伺いました。

婦人科手術の対象となる部位は、主に子宮とその後ろ側にある卵巣です。20~30年ほど前までは開腹手術が中心で、腹部を縦または横に大きく切開して子宮を摘出したり、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)*卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)**など良性の病変を切除したりしていました。

その後、腹腔鏡下手術が登場し、腹部に4か所程度小さな穴をあけてポート(通路となる器具)を立て、そこからカメラや鉗子(かんし)を挿入する方法が行われるようになりました。開腹手術よりも腹部の傷が小さく済み、体への負担を抑えられる方法です。

*子宮筋腫:子宮の筋層に生じるこぶ状の良性腫瘍。
**卵巣嚢腫:卵巣にできる袋状の病変で、中に液体などがたまったもの。

腹腔鏡下手術よりもさらに体への負担が小さな方法として近年登場したのが、vNOTESです。“v”はvagina(腟)を、“NOTES”は人間の体にもともとある腔(穴)を利用した手術を指し、経腟的腹腔鏡下手術ともいわれます。腹部を切開せず、女性の体でもっとも子宮や卵巣に近い腔である腟から手術を行う方法となっています。

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vNOTESでは腟の奥の壁を切開し、腟を経由してカメラや鉗子を術部まで挿入します。子宮を摘出するときには腟壁の前側と後ろ側を、卵巣嚢腫を切除するケースでは腟壁の後ろ側を切開し、いずれも切除した組織は腟を経由して取り出します。

実はvNOTESが登場する以前から、腹式手術(開腹手術)に対して “腟式手術”という腟から子宮を摘出する方法はありました。体へのダメージは少ないものの、執刀する医師にとっては術部を直視しづらく、難易度が高い方法で、近年は腹腔鏡下手術に取って代わられていました。腹腔鏡下手術で子宮を摘出する場合でも腟経由で子宮を取り出すため、基本的に腟を切開します。そこにカメラをプラスして視野を確保したのがvNOTESです。

vNOTESは、日本国内では2020年頃から行われるようになりました。当院でも2022年から導入し、1年に20件以上のペースでこれまでに70件以上実施しています(2025年8月時点)*

*2022年1~12月:13件、2023年1~12月:27件、2024年1~12月:22件、2025年1~8月:13件。2022年1月~2025年8月まで合計75件。

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写真:PIXTA

多くの患者さんが、手術というとお腹を大きく切らなければならないというイメージを持っており、腟から手術ができるとお話しすると驚かれる患者さんも少なくありません。どのような症例にも対応できるわけではないですが、特に経腟分娩を経験されている方は大きな負担なく受けていただけると思います。また、帝王切開を経験された方については、帝王切開よりもvNOTESのほうが負担を感じにくいとされています。なお、手術に要する時間は腹腔鏡下手術と同じ1時間30分~2時間程度です。

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vNOTESには以下のようなメリットが挙げられます。

開腹手術では腹部に縦または横に大きな傷が、腹腔鏡下手術でも小さな切開の痕が複数残りますが、vNOTESでは腟からカメラや鉗子を挿入するため、腹部に傷が残りません。

手術後の回復が早く、翌々日ぐらいから歩けるようになるのが特徴です。

一方、開腹手術や腹腔鏡下手術では術部に到達するまでに腟以外の部位も切開するためお腹に痛みが残りやすく、開腹手術で1週間程度、腹腔鏡下手術で2~6日は回復に時間を要します。

当院では、vNOTESを受ける方は基本的に手術前日から1週間の入院となります。早めに社会復帰できるのもvNOTESの利点といえますが、基本的に退院後1週間程度は自宅で療養し、復帰直後は事務作業程度にとどめておいたほうがよいでしょう。

ほかの婦人科手術と同様に保険が適用されます。また高額療養費制度を利用可能で、窓口支払の上限額を超えた分は払い戻しを受けられます。

vNOTESでは腟から鉗子やカメラを挿入するため、他の臓器にほとんど触れず術部に直接アプローチできるため、炎症や感染などの合併症が起こりにくいのも特徴です。

vNOTESは腟から病変にアプローチするため、どのような症例にも対応できるわけではなく、またほかの手術方法とは異なる注意点もあります。

腹腔鏡下手術では骨盤内が一望できますが、それに比べるとvNOTESは視野が狭く、膀胱子宮窩およびダグラス窩から術部にアプローチし視野が狭くなる傾向が見られます。そのため、術部の縫合などで膀胱、直腸を傷つけないよう、より繊細かつ慎重な技術が求められます。当院ではvNOTESに適切に対応できるよう医師たちが日々研鑽に励んおり、カメラで術部や周囲の部位の状態を確認しながら手術を進めています。

vNOTESでは、腟の奥の壁の前側や後ろ側を切開してカメラや鉗子を挿入します。子宮の前側には膀胱、後ろ側には直腸があり、それぞれの間の小さなすき間(膀胱子宮窩およびダグラス窩)から術部にアプローチします。

PIXTA
イラスト:PIXTA 加工:メディカルノート

周辺に癒着(ゆちゃく)があるとスムーズに到達しにくく、膀胱や腸を傷つけてしまう可能性があります。そのため、重度の子宮内膜症*では、vNOTESによる手術が難しくなります。また、帝王切開術では子宮の前側にある膀胱と癒着が起こりやすいため、2回以上帝王切開術を受けている方にはvNOTESをおすすめしていません。現時点では、直腸などほかの臓器と病変の位置関係を見て大きく癒着を取らなければならない場合や、病変が広範囲に散らばっているケースなどには、腹腔鏡下手術を選択したほうがよいと考えています。

そのほか、子宮筋腫核出術(子宮を温存して筋腫だけを切除する手術)は、vNOTESでは限界があるため、当院では基本的にほかの手術方法を選択します。vNOTESの低侵襲性(ていしんしゅうせい)(体への負担が少ないこと)とリスクを考慮して慎重に判断していくことが重要です。

*子宮内膜症:月経で排出されるべき子宮の内膜組織が子宮外の場所に入って発育し、癒着するなどして痛みを引き起こす病気。

お伝えしたとおり、vNOTESではカメラや鉗子を腟から挿入し、切除した組織を腟から取り出します。さらに手術には一定の視野を確保する必要があり、腟がある程度広がる状態であることが求められます。そのため、当院では性交経験がない方へのvNOTES実施例はありません(2025年8月時点)。また経腟分娩の経験がない方も腟が比較的狭く、難易度が上がる傾向がみられますが、こちらは当院では対応可能です。

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