近年、帯状疱疹の患者数が増えてきています。50歳以上の方に多く80歳までに3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれており1)、決して珍しい病気ではありません。2024年10月8日、帯状疱疹について啓発するオンライン講座『50歳以上の方必見! 帯状疱疹と生活習慣病の関係について 医師の話を聞いてみませんか?』が開催され、医療法人メファ仁愛会マイファミリークリニック蒲郡 理事長/院長の中山 久仁子先生より、帯状疱疹と生活習慣病の関係、帯状疱疹の症状や治療法、帯状疱疹の予防法についてお話がありました。当日の講演内容についてダイジェストでお送りします。
帯状疱疹の原因は、多くの方が子どものころに感染する水ぼうそうの原因ウイルスである“水痘・帯状疱疹ウイルス”です。水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると、一度目は水ぼうそうとして発症します。水ぼうそうの症状が治まると完全に治ったようにみえますが、ウイルスは神経節という背骨の近くにある神経にずっと残っています。このウイルスは普段は息を潜めていて悪さはしないものの、何らかのきっかけで免疫機能が低下すると活動を再開し、神経を伝って皮膚まで移動して痛みや発疹を引き起こします。これが帯状疱疹です1)2)。
免疫機能の低下につながる要因としては生活習慣病のほか、がんや関節リウマチなどの基礎疾患、加齢、ストレス、疲労などが挙げられます3)4)。50歳以上の方に多くみられますが1)、年齢が若い方でもストレスや疲労が引き金となり帯状疱疹を発症することは珍しくありません。
帯状疱疹では、まず体の左右どちらか半分にピリピリ・ズキズキとする痛みが生じ、数日経ってから赤い発疹や水ぶくれが現れます。発疹や水ぶくれはおよそ1週間で破れてかさぶたになり、発症から3週間ほどで消失します。痛みの現れ方は患者さんによってさまざまですが、衣服が少し擦れただけでも痛む、水につけただけで痛む、痛みでよく眠れないなど、つらい症状に悩む方も多くいらっしゃいます。痛み以外にも、腕が上がらないなど運動麻痺の症状が出る場合もあります。
痛みや発疹は、体の左右どちらかに“帯”のように生じることが特徴です。背中からお腹、腕、お尻の周辺など発症する部位はさまざまです5)。また、顔面に走る三叉神経でウイルスが活性化すると、顔面神経痛といって顔が激しく痛みます。“帯状疱疹後神経痛”という痛みが長期間残ることもあります(顔面神経痛と帯状疱疹後神経痛については後述します)。
帯状疱疹は合併症や重症化、後遺症にも注意が必要です。
帯状疱疹が顔面に生じると目や耳、口などに合併症が起こる場合があります。
目の中にウイルスが入ると、視界の曇りなどの症状が現れます。場合によっては失明に至るリスクもあるため、目の周囲に皮疹があったり、目の中に異常があったりする場合は眼科の受診が必要です。また、耳や口の場合には、顔面神経が麻痺して顔の半分がうまく動かせなくなる、味覚を感じにくくなる、めまいが生じる、耳が聞こえにくくなるといった症状が現れます5)6)。
帯状疱疹では体のどちらか半分の神経に沿って症状が出ることが一般的ですが、免疫が特に低下している方の場合、全身にウイルスが回り、体中に発疹が生じることもあります。全身に症状が出る帯状疱疹は重症であり、多くの場合は入院して点滴で治療を行います。
帯状疱疹後神経痛は、発疹などの皮膚の症状が治まった後も痛みが残る状態です。帯状疱疹そのものを上回るほどの痛みが出ることもあり、その場合は一日中動けなくなる方もいらっしゃいます。特に高齢の方の場合、ADL(日常生活動作)の低下につながる恐れもあるため、痛みを長引かせないことが重要です。
帯状疱疹後神経痛を発症するのは50歳以上で発症した方の約20%といわれており7)、高齢であるほど起こりやすい傾向があります。また、帯状疱疹自体が重症であると、帯状疱疹後神経痛になりやすいことも分かっています8)。
帯状疱疹は生活習慣病と密接に関係しており、生活習慣病があると帯状疱疹を発症しやすくなったり、反対に帯状疱疹が生活習慣病に影響を及ぼしたりする可能性もあります。生活習慣病とは日常的な生活習慣(食事、運動、休養、喫煙、飲酒など)が発症や進行に深く関わっている病気の総称で、主に以下のような病気があります。
それでは、こうした生活習慣病が帯状疱疹とどのように関連するのでしょうか。
まずは、帯状疱疹の発症に関わる主な生活習慣病についてお話しします。
帯状疱疹は“免疫機能の低下”をきっかけに発症することから、免疫機能の低下を招く生活習慣病があると帯状疱疹を発症しやすくなります。その1つは糖尿病です。糖尿病により血糖値が高い状態が続くと、白血球などの免疫に関わる細胞の機能が低下してしまいます。また、糖尿病があると細い血管の血流が悪くなっていたり、内臓機能が低下していたりするために薬を投与しても十分な効果が得られず、感染症にかかると重症化・遷延化しやすいこともあります。
肥満も免疫機能の低下につながります。肥満によって増大する脂肪組織からはアディポサイトカインという物質が生成されるほか、脂肪組織の細胞が生まれ変わる際には慢性的な炎症が起こります。こうしたアディポサイトカインや炎症が体内に存在すると、免疫機能は常に戦闘状態になるため疲弊して機能が低下し、細菌やウイルスなどの外敵が体内に入ってきたときに素早く反応することができません。
そのほか、慢性腎臓病も帯状疱疹のリスクとなります。腎臓には血液中の老廃物や不要物を体外に排出する役割があります。そのため、慢性腎臓病になると老廃物が体に蓄積して免疫機能が低下し、帯状疱疹のリスクが高まるのです9)。
反対に、帯状疱疹が生活習慣病に影響を与えるケースもあります。高血圧症は帯状疱疹のリスクといわれており、帯状疱疹を発症すると、帯状疱疹の原因である“水痘・帯状疱疹ウイルス”が血管の炎症を引き起こし、動脈硬化を促進します。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんが帯状疱疹を発症すると、COPDの症状が悪化するという報告もあります10)。
このように、帯状疱疹と生活習慣病は関連があります。生活習慣病の予防・コントロールに努めることは帯状疱疹の予防にもつながることでしょう。
帯状疱疹の主な治療薬には、ウイルスの増殖を抑える“抗ウイルス薬”と痛みを抑える“痛み止め”があります。
抗ウイルス薬には主に飲み薬と塗り薬があります。重症化した場合は入院して点滴で投与することもありますが、基本的には外来で治療を行います。
抗ウイルス薬によって体内のウイルスの増殖を抑えることで症状が早く治まりやすくなります。多くの場合は1週間ほど飲み薬を服用し、皮膚の発疹には塗り薬を塗っていただきます。
痛み止めは痛みを抑える薬で、根本的な治療法ではありません。そのため、痛み止めだけではウイルスの増殖が抑えられず、帯状疱疹後神経痛につながることもあります。帯状疱疹が疑われる症状があったら痛み止めだけで対処するのではなく、医療機関を受診して抗ウイルス薬と痛み止めの両方を使用しましょう。
帯状疱疹後神経痛を発症した場合、神経自体に障害が起こっているため通常の痛み止めだけでは効果がないことがあります。その場合、鎮痛補助薬やオピオイド鎮痛薬といった神経痛に対する痛み止めを使用します11)。中には、帯状疱疹後神経痛が何年も続く方もいるので、帯状疱疹後神経痛に至らないようにするためにも、帯状疱疹の治療薬を医師の指示どおりに使用しましょう。
現在のところ、残念ながら体内に潜む水痘・帯状疱疹ウイルスを取り除く方法はありません。そのため、帯状疱疹を予防するにはウイルスが再活性化するのを防ぐことが重要です1)5)。
予防法の1つは、ワクチンによる予防です。ワクチンを打つことで水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫が強化され、活性化しようとしたときに押さえ込みやすくなります12)。
水ぼうそうにかかると私たちの体内には水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫ができ、基本的には再感染しなくなります2)。しかし年齢を重ねると免疫機能自体が弱まるうえ、時間の経過によりだんだんと水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫の記憶が失われていきます1)。そこでワクチンを接種すると、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫の記憶が呼び起こされ再び抑え込む力がはたらくため、帯状疱疹を発症しにくくなるのです12)。
大抵の場合、帯状疱疹を発症するタイミングは介護や育児、仕事などで疲れているときです。そのような状況で帯状疱疹になってしまうと本当につらい状況に陥ってしまいます。ワクチンを接種しておけば帯状疱疹になるリスクが抑えられ、忙しいときの心配事も軽減されるでしょう。
予防接種には費用がかかりますが、自治体によっては費用助成の制度を設けている場合もあります。お住まいの市区町村の保健センターなどで制度を確認していただき、ぜひ活用してください。
特に帯状疱疹の発症率が高くなる50歳以上1)の方は、予防接種を検討するとよいでしょう。基礎疾患がある方など帯状疱疹のリスクが高い方はかかりつけの先生に相談してみましょう。
帯状疱疹を発症した後も、再び免疫機能が低下すると帯状疱疹になることがあります。ある研究では帯状疱疹の再発率は6.4%とされており1)、絶対に再発しないとはいえない数値です。
帯状疱疹にかかった直後は体内の免疫が活性化されていますが、しばらくすると再び弱まってきます。主治医の先生と相談し、再発予防の選択肢の1つとして予防接種を検討しましょう。
ワクチンを接種したら記録を残しましょう。母子健康手帳には子どもの頃に受けた予防接種の記録が残っていますので、お手元にあればぜひ大切にしてください。
もし母子健康手帳が手元にない場合は、以前に接種したワクチンの種類と時期を覚えている範囲でノートに書き込み、これから受ける予防接種の記録を追加していきましょう。
市販されている大人用のワクチン手帳を活用いただいてもよいですし、ご自分で用意したノートでも構いません。ワクチンをいつ接種したか記録しておけば、 今後必要なワクチンが分かります。医療機関へ通院する際や予防接種を受ける際はノートを持参し、記録を取ることをおすすめします。
予防接種のほかに日ごろから取り組める対策として、生活習慣病の予防・コントロールがあります。
冒頭でも述べたように、生活習慣病は帯状疱疹の発症に密接に関わっています。生活習慣病の予防やコントロールに努めることで、帯状疱疹だけでなく免疫機能の低下が原因となるほかの病気を防ぐことにもつながるでしょう。
生活習慣病を予防するためには一度ご自身の生活習慣を見直していただき、規則正しい生活を送るようにしましょう。1日3回しっかり食事を取り、疲労やストレスをできるだけ避けて十分な休息を取ることが重要です。精神面をコントロールするため、必要以上に思い詰めないようにしたり、好きなことに打ち込んでストレスを発散したりするのもよいでしょう。
また、食事ではたんぱく質、炭水化物、ビタミン、ミネラルといった体に必要な栄養素を不足なく取るため、主食や主菜、副菜などをバランスよく食べましょう。お酒は適量なら飲んでも構いませんが、暴飲暴食を避け、お酒を飲まない日をつくることがポイントです。
帯状疱疹は誰でもかかる可能性がある病気です。できる限り帯状疱疹にならないため、ワクチンによる予防や生活習慣の改善などを行うことが大切です。免疫を維持する生活習慣をご自身で実践していただくことはもちろん、ご家族や周りの方にも広めて一緒に実践していただき、皆さんで健康な生活を送ってください。
資材番号:NP-JP-NA-WCNT-240054
制作年月:2024年12月
参考文献
医療法人メファ仁愛会 マイファミリークリニック蒲郡 理事長/院長
医療法人メファ仁愛会 マイファミリークリニック蒲郡 理事長/院長
日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・プライマリ・ケア認定医日本感染症学会 感染症専門医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター日本内科学会 認定内科医
感染症・予防医療の知識を人々の健康に生かす
藤田保健衛生大学医学部医学科 卒業
東京大学大学院医学研究科 内科学 生態防御感染症学専攻 博士課程修了
ロンドン大学衛生熱帯医学部 熱帯医学・国際保健学専攻 修士課程修了
ロンドン大学熱帯医学衛生学校・衛生医学ディプロマ(DTM&H)修了
淀川キリスト教病院(スーパーローテート)、聖路加国際病院、東京大学医学部付属病院(感染症内科)勤務。また、聖路加国際病院、東大附属病院では宮家(皇族)の侍医を務める。マラウイ共和国カムズ中央病院(リロングウェ市)内科勤務。帰国後、医療法人鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山 家庭医診療科 及び みなと医療生活協同組合 協立総合病院にて家庭医療研修プログラム終了。2011年より現職。現在、愛知県蒲郡市医師会 予防接種・新型疾病対策・感染症対策理事。日本プライマリ・ケア連合学会予防医療健康増進委員会ワクチンチームリーダー、感染対策チームリーダー。特別非営利活動法人 病児保育を作る会 理事。
中山 久仁子 先生の所属医療機関
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