造血幹細胞移植は、白血病などの血液悪性腫瘍に治癒をもたらす治療として確立していますが、その移植の方法は、より安全に、より効果が期待できるように進歩しています。一口に造血幹細胞移植といっても、骨髄移植だけでなく、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植と移植細胞の種類も複数あり、それぞれにおいて利点と欠点があります。また、誰から移植するのか(きょうだい、HLA一致ドナー、親・子)、どこへ移植するのか(点滴、骨髄内へ直接)などの選択肢も増えており、患者さんそれぞれに、より最適化した移植方法を選択することも可能になっています。
この記事では、造血幹細胞移植がどのように進歩していったのかについてご説明していきます。岡山大学病院血液・腫瘍内科の西森久和先生に引き続き伺いました。
現在、移植の方法として一番安全だといわれているのはHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球型抗原;白血球にとっての血液型のようなもの)が完全に一致したきょうだいからの移植です。HLAが完全に一致していると、GVHD(Graft-Versus-Host Disease:移植片対宿主病)という合併症の程度と頻度が、他のドナーを選択するときに比べて少ないことが分かっています。GVHDとは、移植された細胞に含まれている、おもにリンパ球という白血球の成分が移植した患者さんを「異物」とみなして攻撃してしまうものです。
患者さんにきょうだいがいない場合、HLAが合致する方を探すことは、以前は非常に困難でした。昔は骨髄バンクもありませんでした。骨髄バンクはある白血病の患者さんの働きかけにより、日本では1991年に設立されました。この患者さんは自身では骨髄バンクを活用することはできなかったものの、奇跡的に親御さんとHLAが一致したことにより造血幹細胞移植を受けて長期生存することができました。このケースが「奇跡的」なのは、通常は遺伝的に親御さんとはHLAの半分は一致しないからです。しかし、最近ではあえてこのHLAが半分一致しないドナーから移植をする方法が行われるようにもなってきました。
この、あえてHLAの半分が異なる親御さんからお子さんへ、もしくはお子さんから親御さんへの移植をする方法をHLA半合致移植(ハプロ移植)といいます。現在、日本において全ての施設で行われているわけではありませんが、岡山大学病院でもこの2~3年で少しずつ増えてきています。
ハプロ移植は、HLAの半分が異なることにより、免疫反応がより強く出ることを期待する治療です。この免疫反応によって腫瘍細胞を排除することをGVL(Graft Versus Leukemia:移植片対白血病効果)と呼びます。GVHDはドナーの細胞が患者さん自身を攻撃してしまうことを指すのに対し、GVLは同じドナーの細胞が腫瘍細胞自体を攻撃することを指す、つまり諸刃の剣のようなものです。造血幹細胞移植による理想的な結果としては、なるべくGVHDを抑えこんで、GVL効果によって腫瘍細胞を排除し、治癒へ向かうことです。ハプロ移植ではHLAの半分が異なるので、GVHDのリスクもHLA一致ドナーからの移植に比べ高いのですが、強いGVL効果を期待して行われます。
そのため、一度造血幹細胞移植を施行したのにも関わらず再発した患者さんや、どのような治療によっても病気をコントロールできない患者さんなどに対し、まさに命がけで挑む治療でもあります。このハプロ移植により元気になられた方も少しずつ増えてきており、今後の更なる安全性と有効性の向上が期待されています。
通常の造血幹細胞移植では、造血幹細胞を輸血のように点滴で血管内(静脈)に入れています。しかし最近、臨床試験レベルではありますが、「骨髄内骨髄移植」が行われています。つまり、実際に造血幹細胞をそのまま骨髄に入れていく試みです。この方法で生着(造血幹細胞が骨髄に到達して、きちんと機能すること)率が良くなるのではないかといわれており、国内でも臨床試験での治療が進んでいます。直接「骨髄内」に移植することのメリットは、移植された細胞が他の臓器、特に肺にトラップされないという点です。静脈に造血幹細胞を入れると、それらは心臓にたどり着き、そこから肺に到達して肺の毛細血管にトラップされてしまいます。そのあと、ゆっくり全身をめぐり骨髄にたどりつくのですが、直接骨髄に打ち込んでしまうことでこの問題を解決できます。さらには、肺でのGVHDが骨髄内骨髄移植によって軽くなるというメリットも想定されており、臨床試験の結果が待たれるところです。
造血幹細胞移植はどんどん進歩しています。「造血幹細胞移植とはなにか」でも説明したように、いろいろなソース(ドナー)の選択があり、いろいろな方法が試みられています。副作用を抑えるための支持療法もどんどん進歩しています。従来は移植関連死亡が2割程度起こっていたため、まずは何よりも「助かる」ことが課題でした。しかし、現在ではそのような状態から改善しつつあり、長期にわたって健康に過ごすことができるようになっています。そのような状況で、今後は助かった後の「生活の質」にようやく目を向けることができるようになったと同時に、まだまだ十分なフォローアップができていない現状もあります。
以上に述べてきた白血病などは、血液のがんとも呼ばれます。これを含めたがん治療全般において、今後キャンサーサバイバーの方たち(がんを乗り越えて生きる人)に対しての長期のフォローアップが重要です。例えば、がんを治療する際に使う大量の抗がん剤や放射線療法は、治療後さまざまな問題を引き起こすことが考えられます(ホルモン分泌不全、妊孕性が保てない、骨粗しょう症になるなど)。
命が助かるようになったことは非常に好ましく、喜ばしいですが、長期にわたる患者さんの生活においての問題に向き合っていくことも同時に求められるようになり、全国的にも移植後長期フォローアップ外来が立ち上げられています。現在、岡山大学病院では移植コーディネーターが中心となり、医師や看護師などが協力して、移植後の患者さんの長期フォローアップ外来を行っています。不治の病であった白血病の治療は、かつては「助かったからよかったじゃないか」と考えられてきました。これからは「助かった後にどう生きるか?」までをも考えていく時代になっているのです。
広島市立広島市民病院 血液内科 部長 兼 内科 部長
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