喫煙は、高血圧をも凌駕する日本の成人死亡の決定因子であり、がんや脳梗塞、心筋梗塞など重篤な疾患を引き起こすことが明らかになっています。しかし、長年喫煙を続けてきた人がたばこをやめることは容易ではありません。東京都医師会会長の尾崎治夫先生は、かかりつけ医の熱心な語りかけや、歯科医、薬剤師、そしてご家族による包囲網のような禁煙勧奨が、地域の患者さんの生命と健康を守るとおっしゃいます。たばこによる健康被害を減らすために、地域の医師や医療関係者が今日から実践できる声掛けについて、尾崎先生に教えていただきました。
東京都医師会は、受動喫煙防止対策の法的整備の実現に向け、2011年にタバコ対策委員会を立ち上げました。
第一回の委員会では日本禁煙学会理事長の作田学先生が委員長を、元WHOたばこ規制部長の望月友美子先生が副委員長を務め、東京都のたばこ対策の現状と課題の整理を行いました。日本を代表する禁煙の専門家らによる論点整理ののち、以下に述べるように都民の生活により近い場所・方法で禁煙を促す活動を行っています。
タバコ対策委員会は多職種の密接な連携を重視しており、現在では東京都医師会のみならず、東京都歯科医師会、東京都薬剤師会、東京都看護協会など、多くの医療関係団体が参加する団体となっています。
おそらく、各都道府県医師会のなかでも、歯科医師会や薬剤師会を巻き込む形で禁煙推進に取り組んでいる組織は少ないのではないかと感じています。
詳しくは後述しますが、喫煙者がたばこをやめることは容易ではなく、禁煙の意思を持ってもらい実際の行動に移すためには、歯科医師や薬剤師など、患者さんを取り巻く様々な職種の積極的な介入が不可欠です。
これまでは都民に向けた公開講座や禁煙指導を、上述した東京都医師会のタバコ対策委員会が主導する形で行ってきました。
今年の目標は、東京都にある46の地区医師会にも禁煙を推進する委員会を設置していただき、組織のボトムアップをはかることです。
既に中野区医師会や調布市医師会、港区医師会、玉川医師会などには、タバコ対策委員会(※)が設けられており、各地域で区民公開講座や禁煙外来の増設、行政へのアプローチなどが行われています。
(※委員会名称は地区医師会ごとに異なります。)
今後は三鷹市や八王子市においても委員会が設置される予定であり、より地域住民の生活に寄り添う形で禁煙推進活動を行っていけるのではないかと期待しています。
厚生労働省は、健康保険で禁煙治療を行うことのできる施設基準のひとつに
「禁煙治療の経験を有する医師が1名以上勤務していること」
という条件を掲げています。そのため、現行の制度では医師のいない歯科診療所に保険適用で禁煙治療を行う禁煙外来を設置することはできません。しかしながら、歯周病の原因の約7割はたばこであり、歯科医は口腔内所見(ヤニなど)から喫煙習慣のある患者さんを見極め、禁煙指導することができます。このような理由から、歯科も保険診療による禁煙治療を行えるよう、ニコチン依存症管理料の見直しを行うべきであると考えます。
歯科医師のなかにも禁煙推進に熱心な先生方は非常に多く、日本大学大学院歯学研究科の尾崎哲則教授らは保険診療で禁煙治療を行うための要請活動を精力的に行っておられます。
地域のかかりつけ医には、より積極的な禁煙介入が求められます。日本における成人死亡の2大決定因子は喫煙と高血圧であり、第2位の高血圧が循環器疾患による死亡を引き起こすのに対し、第1位の喫煙は、循環器疾患、がん(悪性新生物)、呼吸器疾患など、多種多様な疾患による死亡を引き起こすことが明らかになっています。
ところが、高血圧と診断された患者さんのなかには、「心筋梗塞や脳梗塞を起こさないか不安である」と治療に積極的な姿勢を示しながらも、喫煙は続けている方が見受けられます。
私はこのような患者さんの診療時には、なぜ高血圧の治療を受けているのかと治療目的を改めて考えてもらい、「死亡リスクを減らしたいのならば喫煙もやめなければ、不十分なのではないか」とコミュニケーションを取りながら指導しています。
こういったやり取りを2度、3度と繰り返すことで、初診時には思い迷われていた患者さんも禁煙外来に通い始めるようになります。患者さんの健康や生命を守るためには、上述のようなある種の「しつこい指導」も必要なのではないでしょうか。
私たち地域のかかりつけ医には、高血圧など、特定の疾患治療だけに注力するのではなく、地域に住まう患者さんの健康寿命延伸を包括的にサポートしていく役割があると考えています。
また、調剤薬局の薬剤師も処方箋から2型糖尿病などの疾患名を推測することができます。糖尿病の場合に喫煙を続けていると、糖尿病性腎症や脳梗塞など、重篤な合併症のリスクが高まることが明らかになっています。
薬を受け取りにこられた糖尿病患者さんが喫煙している場合、薬剤師が上記のリスクを伝え、注意喚起することも禁煙を決意してもらう契機となり得ます。
医師、歯科医師、薬剤師と、地域のあらゆる医療者から禁煙を勧められることで「どこへ行っても注意される」と、長年やめられなかった喫煙習慣に終止符を打たれる患者さんもおられます。
これら医療者による積極介入に加え、ご家族、特に年少のお子さんからの禁煙勧奨は、保護者の方がたばこをやめる大きなきっかけとなります。そのため、私は学校医としての禁煙啓発にも力を入れています。
がん対策基本法に基づくがん対策推進基本計画により、今年度(2017年度)以降、学校におけるがん教育が全国的に始まります。これに伴い、文部科学省では「外部講師を用いたがん教育ガイドライン」を作成しており、外部講師の一例として学校医やがん専門医、がん患者やがん経験者などを挙げています。
私は地元・東久留米市の中学校で学校医を務めており、10年以上にわたり毎年1時間、各学年に健康を守るための教育を行ってきました。
1年生には禁煙、2年生には飲酒とドラッグ、3年生にはインフルエンザと性感染症をテーマとした授業を行っており、毎年卒業時には多くの生徒さんから知識が増えて役立ったという声をいただいています。
がん教育の全国的な展開が始まったことで、がん予防の一貫としての禁煙啓発が広く日本中で行われ、子ども達だけでなくその保護者の禁煙にも結びつくことを期待しています。
今後は、自ら進んで生徒に対する啓発活動に取り組む学校医が増えて欲しいと願っています。地域で学校医を務める医師は、それぞれに自身のクリニックなどを持っており、多忙な日々を送っておられるものと思います。しかし、私自身も行うことができているように、平日の休診日に学校へ出向き、1限目を使って授業を実施することは可能です。
本記事では禁煙啓発に焦点を当ててお話ししてきましたが、現在20代の梅毒患者が急増しており、若い世代への性感染症に関する啓発など、「自らの健康を守るための教育」は急務とされています。
しかし、教員が性教育の一環として避妊具の使用などを教えることは、若年層の性行為を推奨していると捉えられてしまうこともあり、保護者からのクレームなどに繋がるという事態もおきています。学生にも保護者にも、「自分の体を守る」という目的意識を持ってもらえるよう、医師という立場にある私たちが地域の学校に行き、啓発を行うことが大切なのです。
また、医師が若い世代に語りかける場を設けることで、メディアに溢れる玉石混交の医療情報を取捨選択する判断能力を養うこともできます。
記事1では、諸外国に大きく遅れを取る日本のたばこ対策の現状と、健康維持や増進という視点が抜け落ちたたばこに関する議論の内容(税収の増減・喫煙の自由等)をご紹介しました。このような事態が起こる理由のひとつに、過去の日本の教育現場においては、医療リテラシーを高める機会がほとんどなかったということが挙げられます。
学校医らの積極的な関わりにより、自身や周囲の人の健康を守るための知識と意識を得た青少年たちが世に出ていくことで、わが国における疾病予防や健康増進に関する取り組みは大きく進むと考えています。
2019年1月19日に「救急電話相談の現況と展望 ~救急看護・救急医療の新たなフィールド~」を下記のとおり開催させていただくことになりました。
■概要
救急安心センター事業(救急電話相談)における 事業の質改善 や 看護師教育 は これまでも行われてきましたが、事業の全国展開が進む昨今にあっては 医師・看護師・運営事業者・自治体を包括した、更に統合的な取り組みが求められます。
本会では、
・各団体における試みにつき意見交換することで 更なる向上に繋げること
・とくに相談看護師のスキルとはなにかを明らかにし、専門性のあり方を検討すること
を目的とします。
■日程・会場
日程:2019年1月19日 12時30分~17時00分
会場:東京都医師会館2階講堂
※参加費は無料です。当日直接会場までお越しください。
■主催:日本臨床救急医学会・日本救急看護学会
共催:東京都医師会
■URL
東京都医師会 会長、おざき内科循環器科クリニック 院長
関連の医療相談が10件あります
右の股ぐらの辺りが、キンキンと痛みを感じる
昨日のお昼くらいから急に、お腹の下あたりの、右足のつなぎ目、いわゆる、またぐらの、おへその右下、Vラインあたりから、キーンやギューっといった痛み?違和感を座っていたり、少し動くと感じるようになり、寝ていても起こります。 普段私は運動しませんが、これは、単なる筋肉痛なのか、それとも神経系の症状で、放っておいてもよろしいでしょうか? また鎮痛剤でおすすめはありますでしょうか?ご回答よろしくお願いします。
風邪か熱中症かわかりません。
土曜日(12日)に寝るまでは何ともなかったのですが、エアコンの設定温度を冷房24℃にして寝ました。 日曜日の朝に起きた瞬間に強烈な吐き気を催し、トイレで吐きました。そこから身体全体(特に両足)の倦怠感が起き、熱も37.8℃ありました。咳、鼻づまりはありませんでした。 今はエアコンの温度を見直して、熱冷ましを飲んだら36.6〜36.8℃の体温です。 寒気、味覚や嗅覚障害などはありません。 若干の倦怠感と食欲不振、咳はほとんどありませんが僅かな喉の違和感があります。 近隣の病院は盆休みのままで外出する体力は回復しておらず、今は風邪薬を服用すべきでしょうか?
推算GFR値が数年前から低いです。どのようなことを気を付けたらよいでしょうか?
数年前からeGFRが良い時で53.6で今月は42.9でした。減塩には気を付けているつもりですが、どのようなことに気を付ければよいでしょうか。夜間には1回トイレに起きるぐらいで、昼間も頻尿には感じられません、浮腫も感じません。
発音出来ないし単語がわからず歩行出来ない
父のことで相談させて頂きます。最近思いついたことを発音することが難しいようで、頭で考えたことをなかなか言えず かんしゃくをおこしてしまうことがあります。また、五千円札、千円札がわからず 女の人、男の人としか、わからないようです。歩行も小刻みな動きで何かにつかまらないとなかなか進めず転倒してしまうことも多いです。このような症状だと何科を受診したらいいでしょうか教えて下さい。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「禁煙」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。