インタビュー

失明のリスクが高い糖尿病網膜症を予防するには?糖尿病と診断されたら眼科を受診して

失明のリスクが高い糖尿病網膜症を予防するには?糖尿病と診断されたら眼科を受診して
小椋 祐一郎 先生

名古屋市立大学病院 前病院長、名古屋市立大学 前理事

小椋 祐一郎 先生

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)とは、糖尿病の三大合併症のひとつです。発症初期には自覚症状が現れないため水面下で病気が進行し、気がついたときには手術が必要なほど重症化していることも少なくありません。糖尿病網膜症は日本の50代~60代における失明原因の第一位ですが、糖尿病の患者さんのうち、眼科への受診の必要性を自覚している方は半数にも満たないといいます。糖尿病網膜症による失明を防ぐためには、糖尿病と診断された時点でまずは眼科を受診して目の検査を受け、かつ定期受診を欠かさないことが重要です。日本糖尿病眼学会の理事長としてもご活躍される、名古屋市立大学眼科教授の小椋祐一郎先生にお話しいただきます。

糖尿病によって高血糖が続くことで、網膜(もうまく:視覚的情報を神経信号に変換する組織で、カメラのフィルムに例えられる)に張り巡らされている細い血管がダメージを受け、その血管が詰まったり破れたりすることで起こります。

糖尿病網膜症を発症しても初期には自覚症状が現れませんが、進行すると視力低下を自覚するようになり、最悪の場合失明に至るケースもあります。

本邦では、糖尿病網膜症が緑内障に次いで失明原因の第2位となっています(全年代の場合)。また、年代を50代~60代に絞った場合は第1位です。

現在の日本において、50代~60代はまだ働き盛りともいえます。そのような世代の方の視力を奪うという点で、糖尿病網膜症による失明は非常に重要な問題ということができます。

私はすべての糖尿病の患者さんに対して、「糖尿病と診断されたら、まず眼科に行ってください」というメッセージを伝えたいと考えています。

日本で糖尿病網膜症による失明が多い理由には、「患者さんの眼科受診率が低い」「初診のタイミングが遅い」という2点があげられます。

日本では糖尿病と診断された方のうち、眼科への受診が必要であることを知っている方は50%未満です。半分以上の方が、眼科領域のケアを受けていないことになります。

さらに詳細を述べると、診断後1か月以内に眼科を受診した患者さんは15%にとどまり、約半数以上の方が糖尿病の確定診断後1年以上経過してからはじめて眼科を受診しています。これに加えて、24%の方は一度も眼科に行っていません。

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画像提供:小椋祐一郎先生

先に述べたように、糖尿病網膜症は糖尿病そのものと同様に自覚症状がない病気で、気づかないうちに進行していきます。病状がかなり進行した時期になってから硝子体出血や黄斑浮腫(おうはんふしゅ:「黄斑部」という対象物を見ることにおいて重要な役割を果たす部分が浮腫むこと)などの自覚症状が出現しますが、ここまで進行した時期に慌てて眼科を受診し、治療を開始したとしても、視力を元通りに回復させることはほぼ不可能です。

だからこそ、患者さんは糖尿病と診断された時点で眼科を受診し、眼科検診を年に一度は必ず受けることが非常に重要になります。

日本の糖尿病の患者さんの多くが眼科を受診していませんから、糖尿病網膜症を発見するために重要な眼底検査記事2『糖尿病網膜症の検査と最新治療―抗VEGF薬からレーザー治療、硝子体手術まで』で詳細を説明します)を受けていないことになります。

国別に眼底検査の受診率を比較したデータによると、日本における糖尿病の患者さんのうち、眼底検査を受けている方は37%にとどまります。これは世界平均よりも低い数値です。この件に関して最も進歩しているのはイギリスで、約90%の方が眼底検査を受けていると報告されています。イギリスの場合は、国が眼底検査受診のシステムを作っており、このシステムが機能したことで、実際に糖尿病網膜症による失明者が減ってきていると報告されています。

本邦における眼科検診の受診率の低さは糖尿病網膜症の予防における一番の課題です。「気がついたら手の施しようがなかった」という状況を避けるために、糖尿病と診断された患者さんは、まず眼科検診を受けてください。

勿論、記事2『糖尿病網膜症の検査と最新治療―抗VEGF薬からレーザー治療、硝子体手術まで』でご紹介する治療技術の進歩や最先端医療の追究も糖尿病網膜症の治療には非常に重要です。

実際に、最近では抗VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:抗血管内皮増殖因子)薬の登場や硝子体手術の進歩、レーザー治療(網膜光凝固術)の発展など、あらゆる治療法が改善されてきています。

しかし、まずは患者さんがこれらの治療を受けるための土俵に立たなければなりません。

私が実際に診察した患者さんの例を紹介しましょう。その方は20年糖尿病を患っていましたが、視力は両眼とも1.0以上を維持していたため、糖尿病の発症後20年間、一度も眼科を受診していませんでした。あるとき、眼の異常を自覚されて私のところにいらしたときには、すぐに手術が必要なほど状態が悪くなっていたのです。

糖尿病網膜症は初期には自覚症状が出ませんが、治療は自覚症状が出てからでは遅いと考えています。繰り返しになりますが、ご自身が糖尿病と分かった時点で、まずは眼科検診を受けるよう心掛けてください。

また、定期的な受診の継続も大事です。いったん早期段階で眼科を受診したとしても、そのときの状態が悪くなければ薬は処方されません。このとき、自己判断で受診を中止してしまう患者さんがいらっしゃいます。しかし、これは危険なことです。数年~十数年経過してから容態が悪化するケースは少なくありません。そうなってから眼科を再受診する方が多くいますが、定期的に眼科の診察を受けていれば、このような事態を防ぐことができます。

多くの糖尿病の患者さんが眼科を受診していない現状は、地域の内科医にも一部要因があると考えています。

糖尿病の患者さんの多くは、基本的に地域の内科クリニックで日常的に診察を受けていますが、糖尿病専門医が開業している地域のクリニックは多くありません。糖尿病専門医でなければ、そもそも糖尿病網膜症の重大性に気づくことが難しく、「眼科を受診してください」というアドバイスがされない場合があります。このことが一因となり、患者さんが行動を起こさなくなっていると考えています。

大学病院の場合、内科で糖尿病と診断されたときは自動的に患者さんに眼科の併診を勧めるようになっていますが、一般の開業病院では構造上の問題もあり、なかなかそのようにいきません。

実際のところ、眼の異常を訴えて外来受診された糖尿病の患者さんに対して、私が「以前から内科にはかかっていましたか」と尋ねると、「長年定期受診しています」とおっしゃる患者さんが少なくありません。

医師に指示を受けなければ、患者さんは他科への受診を検討しません。ですから、より多くの糖尿病の患者さんに眼科に来ていただくためには、患者さんだけではなく、内科医も眼科検診の重大性を知り、患者さんが早い段階で眼科を受診するように勧めることが大事です。

最後にもう一度繰り返しますが、糖尿病と診断された患者さんは、まず眼科を受診することを忘れないでください。

糖尿病網膜症の治療が遅れると失明するリスクが格段に上昇します。目の症状が出ていない段階からきちんと眼科医で検査を受け、目の健康を保つように心がけることが大事です。

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