糖尿病網膜症は、糖尿病により引き起こされる目の病気です。糖尿病の三大合併症としても有名であり、最悪の場合、それが原因で失明に至ることがあります。糖尿病網膜症ではどのような治療をするのでしょうか。また、悪化を防ぐためにはどのようにすれば良いのでしょうか。
ジョンズホプキンス大学を経て、現在は順天堂大学眼科学准教授を務められる小野浩一先生に糖尿病網膜症の治療についてお話を伺いました。
糖尿病網膜症を悪化させないためには、まずは血糖のコントロールがとても大切です。同時に、血圧のコントロールも実は非常に大切です。血糖コントロールが悪い状態でさらに血圧も上がると、眼底の動脈瘤を悪化させ、そのうえ動脈瘤の破裂による出血にもつながると考えられています。そのため、血糖に加えて血圧のコントロールも非常に大切なのです。このためには生活習慣の改善や運動が重要になります。その結果、血糖・血圧のみならず脂質のコントロールも期待できます。
ただし、適度な運動は大切ですが、糖尿病網膜症の状態が不安定であり、硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)という悪化した状態になるリスクが高いときには軽度の有酸素運動程度(ウォーキングなど)にとどめておくべきです。
また、糖尿病網膜症悪化のリスクとしてもうひとつ挙げられるのはタバコです。禁煙は絶対に必要です。タバコと目の病気は非常に相性が悪く、糖尿病網膜症や白内障、緑内障すべてにおいて増悪因子となっています。
糖尿病網膜症が悪化してしまった場合には、手術による治療が行われます。
糖尿病網膜症の治療を考える上では「黄斑症(おうはんしょう)」の有無が重要な基準になります。黄斑は網膜の真ん中にあります(図)。この黄斑は非常に小さな部分ですが、これが視力において大変重要な役割を果たしています。この黄斑に障害が出てしまうのが黄斑症です。糖尿病網膜症の進行と分類は別記事(参照:糖尿病網膜症の基礎知識―失明のリスク)で紹介されていますが、これも一概にはいえません。単純型でも黄斑症が出ている人もいれば増殖型でも黄斑だけが大丈夫で視力に影響のない強運な方もいます。
黄斑症がない場合には通常は網膜の光凝固療法、レーザー治療が用いられます。レーザーにより網膜に出現したもろい新生血管(出血の原因になる)の活動性を減らしていくことが治療になります。適切な時期に適切なレーザー治療を行えば、多くの糖尿病患者の失明を防ぐことができます。
この手術は基本的には入院せず、外来により行われます。
また、合併症は非常に少なく、レーザー治療を行っている最中・行った後の一時的な疼痛(とうつう)程度です。ただし、レーザーを多く打つと黄斑部に浮腫(ふしゅ・むくみ)ができることがあります。これを防ぐために、術前にステロイドの注射を行うこともあります。
黄斑症は視力にとても影響します。レーザー治療は用いることができないのですが、最近は黄斑症がある場合には以下の2つの注射のどちらかを行うか、どちらも行うか、という選択肢が出てきました。今では黄斑症がある糖尿病網膜症の患者さんに対してよく行われる治療です。
この場合、効果が少なければ繰り返し注射する必要あります。注射によりある程度の視力改善が見られるようになってきました。しかし、最終的な回復(ゆがみが治るなど)までは達しないことも多いです。この手術は基本的には入院せず、外来により行われます。
合併症としては、ステロイドによる一時的な眼圧の上昇や白内障も稀に起こります。抗VGEF抗体の場合は、これも稀ですが感染症や白内障、網膜剥離も報告されています。脳梗塞や心筋梗塞のリスクも報告されています。
硝子体手術は、硝子体出血の方や眼底に膜が張ってきてしまっている方のための手術です。さらに、前に述べたレーザー治療や注射の手術を行っても改善しない方に行います。つまり非常に重症な方の手術であるといえるでしょう。手術の効果ですが、黄斑部に問題がなければ術後に視力が改善することがあります。しかし、黄斑部が障害されている(ダメージを受けている)と視力は残念ながら改善されないこともあります。この手術は入院をして行います。
合併症としては、網膜剥離・感染症・硝子体の再出血などがあります。
ここまで、糖尿病網膜症の手術についてお話ししてきました。しかし、手術があるから大丈夫と考えてはいけません。糖尿病網膜症は悪化させないことが何よりも大切です。
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順天堂大学 医学部 眼科学講座 准教授
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