肝臓がんは、肝臓が炎症を起こす「肝炎」が進行して発症することの多い疾患です。肝臓が炎症を起こす原因はいくつかありますが、主に原因となるのは「C型肝炎、B型肝炎」といったウイルス性肝炎です。肝臓がんの原因や詳しい治療方法について横須賀市立うわまち病院 副病院長 消化器内科部長 消化器病センター長の池田隆明先生に解説いただきました。
肝臓がんとは、からだの代謝・解毒作用・胆汁の分泌といった機能を持つ「肝臓」に悪性腫瘍(がん)ができてしまう疾患です。肝臓がんを発症するとお腹に体液が溜まる(腹水)、黄疸(おうだん)がでるなどの症状が現れ、重症化すると命にかかわる危険があります。
肝臓がんの特徴として、肝臓が炎症を起こす「肝炎」という病気が進行して発症することが多いことが挙げられます。これは他の臓器とは異なります。そこで、この肝臓がんの発症原因について詳しくみていきましょう。
肝臓がんは、上記の図のように慢性肝炎、肝硬変を経て、発症するケースがほとんどです。
肝臓の炎症にはいくつかの種類がありますが、主に肝臓がんの原因となるのは「C型肝炎、B型肝炎」といったウイルス性肝炎です。
そのほかにも中性脂肪の蓄積による「非アルコール性脂肪性肝炎」、免疫機能の異常によっておこる「自己免疫性肝疾患」なども、進行していくとやがて肝硬変、肝臓がんへと進展していきます。
肝臓のがんというと「アルコールの飲みすぎ」を連想される患者さんは非常に多いですが、アルコールの過剰摂取によって肝臓がんを発症される患者さんは、世間のイメージより意外と少ないといえます。日本人の肝臓がんの原因をみてみると、C型肝炎が70%、B型肝炎が10~20%であり、ほとんどがウイルス性肝炎によるものなのです※。
※一般社団法人 日本肝臓学会「肝がん白書平成 27 年度」
現在は上記のように、ウイルス性肝炎からの肝臓がん発症が多いという構図がありますが、近年ウイルス性肝炎の治療は大きく変わっているため、肝臓がんをとりまく状況も今後大きく変わるかもしれません。
肝臓がんには、病気がどれくらいの重症度であるのか、評価するための分類方法があります。肝臓がんを治療するうえでは「がんの重症度分類」と「肝臓機能の評価」の2つを見合わせながら進めていきます。
肝臓がんの重症度を表すステージは1~4まであり、がんの大きさと個数で評価をします。
【病期(ステージ)分類】
ステージ1では2センチぐらいの小さな悪性腫瘍が一部にみられる程度です。この腫瘍の個数が増えたり、大きくなったりするに従って、ステージが進んでいきます。最終的には肝臓だけではなく、肺や骨にがんが転移してしまいます。
肝臓がんは、ほか部位のがんと比べると、より重症化しないと転移しません。肝臓がんで他の臓器への転移がみられた場合には、ステージ4bと分類されることがほとんどです。
肝臓がんの治療を進めるうえでは、がんの重症度だけではなく、肝臓の機能(予備能)がどれくらい保たれているかを検討することが重要です。
一般的に、肝臓機能の評価には「肝障害度」や「Child-Pugh分類」が用いられます。これらの分類は、肝臓の機能をA、B、Cの3段階で評価します。この肝機能の評価と、がんの重症度のバランスをみながら、肝臓がんの治療方針を立てていきます。
肝臓がんの治療法は下記の3つが主体となります。
このほかにも患者さんの状態によって、全身化学療法、肝臓移植、緩和ケアなどが行われます。
手術療法を行う場合には、外科(消化器外科)で行います。
手術をする場合は、肝臓を大きく8つの区域にわけて考え、がんの大きさや位置、数によって切除する部位を決めていきます。
肝臓はからだの重要な機能を担う臓器であるため、肝臓の予備能が許す範囲で切除部位を考えていきます。肝臓を切除することで、からだの機能を維持するのが難しくなる場合には、消化器内科で行われる内科的療法(局所療法など)を検討していくことになります。
局所療法は、消化器内科で行われます。局所療法にはいくつかの方法があります。
ラジオ波焼灼療法は、腹部に数ミリの傷を作り、そこから高周波がでる電極を入れ、腫瘍(がん)を熱によって焼き切る方法です。
患者さんの状態によりますが、だいたい3cm程度の腫瘍までを治療することができます。
肝動脈塞栓術は、肝臓がんの栄養源になっている肝臓の大きな血管(肝動脈)を薬剤によってふさいでいく治療法です。
肝動脈をふさいでしまったら、肝臓の正常な細胞に栄養がいかなくなってしまうのではないかと想像するかもしれません。しかし、肝臓には門脈という毛細血管が張り巡らされているためその心配はほとんどありません。この門脈があることによって、肝動脈をふさいでしまっても、がんの周囲の細胞は正常に機能できます。一方、がん腫瘍は門脈から栄養を摂ることができません。そのためがんの栄養源となる肝動脈をふさぐことで、がん細胞だけを局所的に壊死させることができます。
このように、肝臓がんの治療では、患者さんの症状を見極め、外科的治療・内科的治療を選択していくことが必要です。そのため、それぞれの治療を担当する外科・消化器内科の2つの診療科の「連携」がとても重要です。総合病院ではこの2つの科が密に連携をとりながら、肝臓がん患者さんの治療を進めていきます。
例えば、私が所属する横須賀市立うわまち病院では、外科と消化器内科が定期的にカンファレンス(患者さんの症状や治療方針について話し合う会議)を行っています。また月に1度は病理の先生ともカンファレンス行っています。このようなカンファレンスによって、外科的・内科的どちらのアプローチがよいのかを多方面から検討し、より効果的な治療につながるように進めてきます。診療科をまたいだ連携が、肝臓がんの治療には不可欠です。
近年、ウイルス性の肝炎の治療が大きく進歩し、肝臓がんの大きな原因である慢性肝炎が治っていく時代になっています。しかし、ウイルス性以外の原因から肝臓がんを発症するケースがまだあります。それらの疾患に対する対策をしっかり行っていかないと、がん撲滅は難しいでしょう。より肝臓疾患に対する治療を進歩させ、命に関わる「肝臓がん」という病気を、いかに予防し、よりよい治療にしていくかというのは、これからも重要なテーマといえるでしょう。
横須賀市立うわまち病院 副病院長 消化器病センター長 消化器内科部長
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