近年、出産年齢の上昇などにより妊娠中や出産時におけるリスクが高い方が増えています。地域医療の中核を担う総合病院であるNTT東日本関東病院(東京都品川区)は安心・安全な出産を目指し、リスクが高い方の出産も積極的に受け入れています。本記事ではNTT東日本関東病院での出産への取り組みやその特徴について、同院産婦人科 部長 塚﨑 雄大先生と助産師の川上 恵さんにお話を伺いました。
川上さん
当院は39の診療科を備える総合病院のため、各診療科と連携しながら妊産婦さんを診られることは大きな特徴だと思います。緊急で帝王切開が必要になるなど、万が一の事態の際にも他診療科と協力しながら迅速に対応できる体制が整っています。身体面だけでなく、精神面あるいは社会的・経済的な不安を抱えていたりする妊産婦さんがいれば、適切な診療科や医療ソーシャルワーカー(MSW)などにつなげたりすることもできます。日ごろから近隣の三次救急医療機関*とも連携を図っているので、必要な場合はお母さんや赤ちゃんを迅速に搬送することも可能です。
*三次救急医療機関:重篤患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる医療機関。
塚﨑先生
妊娠中や出産時のリスクが高い方の出産に対応していることも当院の大きな特徴です。たとえば、年齢が上がるにつれて起こりやすくなる合併症の1つである妊娠高血圧症候群に対しては 妊娠中の血圧コントロールを行うとともに、正産期(赤ちゃんがいつ産まれてもよい時期)になっても血圧が下がらない場合には、その状態であっても可能な限り安全に出産できる方法を検討します。また、がんや血液疾患などの基礎疾患で当院に通院中の方に対しては、治療を継続しながら安心して出産に臨めるようにサポートを行っています。もともとの主治医と産科が院内で密に連携を取ることができるのは、総合病院である当院ならではの特徴だと思います。さらに、2025年3月より無痛分娩の提供を開始することが決定しており、より多くの方々に安心して出産に臨んでいただける環境を整えております(無痛分娩にかかる費用など詳細については後述)。
川上さん
妊婦健診では、前期(〜13週6日)・中期(14週0日〜27週6日)・後期(28週0日〜)の妊娠週数に応じて採血や超音波検査などの必要な検査を行います。当院では、20週ごろに、超音波専門外来で胎児スクリーニング検査(胎児超音波検査)*を全ての方に受けていただいています。胎児スクリーニング検査は、毎回の妊婦健診で行う通常超音波検査に比べて、より詳細に赤ちゃんの体の形や大きさを確認することができる検査です。当院では超音波検査士**が30分ほどかけて、赤ちゃんの全身をチェックし、発育に問題がないか、何らかの形態異常がないかなどをしっかりと確認するようにしています。
*通常超音波検査が妊娠経過の正常・異常を鑑別するために行う検査であるのに対し、胎児超音波検査は胎児の形態異常の評価・診断を目的として行われる。なお、胎児超音波検査によって必ずしも形態異常が発見されるわけではなく、出産後に発見される場合もある(費用は後述)。
**超音波検査士:公益社団法人 日本超音波医学会の認定資格
塚﨑先生
土地柄もあり、当院には比較的高年齢の妊婦さんが多くいらっしゃいます。一般的に出産年齢が上がると赤ちゃんに先天的な異常が現れるリスクが増えるといわれています。胎児スクリーニング検査を皆さんに受けていただけるのは、一つの安心材料になると思います。
川上さん
妊婦健診では助産師による指導やサポートも行います。妊婦健診のたびに「助産師に何か話したいことはありますか?」とお伺いして、不安や疑問に都度対応できるようにしています。「お産のイメージがつかない」という漠然とした不安をはじめ、入院中の生活や面会などの細かいご質問にも丁寧にお応えしています。また先ほどお話ししたように、社会的・経済的に困っている方がいれば地域の保健師さんと連絡を取ったり、医療ソーシャルワーカーへのご相談希望を伺ったりするなど、SOSを出しやすくする声かけをするように心がけています。
また、当院でお産に関わる看護師は全員が助産師の資格を持っています(2024年11月時点)。妊娠中も産後も何かとマイナートラブル*が多いですし、特に初産婦さんは小さなことにも不安を感じると思います。助産師としての経験や専門的な知識を生かしながら、一人ひとりに合わせたサポートができるのは当院の強みです。妊婦健診のちょっとした時間などでも、妊婦さんの不安な気持ちを拾い上げて逃さずにケアしていくことを、一人ひとりの助産師が心がけています。
*妊娠期に生じる不調や不快な症状
川上さん
希望される方には、ご自宅や職場の近くなどの他院で妊婦健診を受けていただける“セミオープンシステム”を利用いただくことができます。当院で出産を予定されている方でも33週くらいまでは通いやすい施設で検診を受けていただけるシステムです。
塚﨑先生
セミオープンシステムを利用される場合、妊娠初期に一度当院にお越しいただきます。妊婦健診を受けていただく施設とはしっかりと情報交換を行い、34週ごろからは出産に向けて当院へ通っていただきます。妊娠後期になると通院の頻度も増えてきますが、当院は五反田駅から徒歩圏内に立地しているため比較的通院しやすいのではないかと思います。また徒歩での通院が難しい方には、駅から運行しているシャトルバスもご利用いただけます。
塚﨑先生
そのほか、妊婦健診を受けていただく産科外来が産科病棟と同じフロアにあることも当院の特徴だと思います。特に初産の方は出産への不安がより大きいと思いますので、顔馴染みのスタッフがいる環境で出産に臨めるのは、大きな安心感につながるのではないかなと思っています。
川上さん
正常分娩(経膣分娩)の場合、陣痛中から産後約2時間までは、LDR(陣痛室・分娩室・回復室が一体となった個室)で過ごしていただくので、陣痛中の移動の負担はありません。また、出産時の安全面は第一に考慮しながらも、できるだけ要望に応える出産を実現していただきたいと思っています。そのため当院では、どのような出産をしたいか、産後はどう過ごしたいかなどを書く“バースプラン”を妊婦健診の際に書いていただいています。LDRでは「アロマをたきたい」「足浴をしたい」「好きな音楽をかけたい」など、一人ひとりのご希望をできるだけかなえられるようにしています。
ご家族やご夫婦でお産を乗り越えられるよう立ち合い出産にも対応しており、サポートする助産師も「一緒に頑張ろう」という気持ちで臨んでいます。
当院における妊婦健診および分娩費用は以下のとおりです(2024年11月時点)。
なお、必要に応じて行う血液検査などの費用は、妊婦健診の料金とは別に発生します。
当院における分娩費用は、正常分娩は550,000円~、無痛分娩*は正常分娩の費用に100,000円追加、帝王切開(保険診療)であれば606,000円〜となっています。ただし、正常分娩の場合には“直接支払制度”を利用することで、上記総額から出産育児一時金制度として500,000円が病院に直接支払われます。詳しくは、担当医や助産師にご相談ください。
*無痛分娩について:1)無痛分娩の内容:無痛分娩とは麻酔を使用する分娩方法で、分娩全ての痛みを取り除くのではなく、最低限の痛みに抑えるものです。代表的な麻酔法は硬膜外麻酔です。これは脊柱(背骨)の骨の隙間から針を挿入し硬膜外腔というところに直径1mm以下のカテーテル(管)を留置し、そこから麻酔薬を入れることで分娩の痛みを軽減する方法です。当院では当面の間、経産婦に対する計画出産での分娩誘発に限り無痛分娩を併用いたします。 2)無痛分娩の費用:通常の分娩費用に100,000円加算されます。 3)リスクや副作用:副作用としては血圧低下や掻痒感(かゆみ)、母体の発熱が起こり得ます。また重篤な合併症としては局所麻酔薬中毒や全脊髄くも膜下麻酔が挙げられます。また無痛分娩の麻酔が分娩に与える影響としては分娩時間の延長や鉗子分娩・吸引分娩の増加があります。帝王切開率への影響はありません。
塚﨑先生・川上さん
当院では安全で快適な妊娠・出産を目指して、“妊産婦さんに無理をさせないこと”をポリシーに出産にあたっています。出産後はお母さんの体力回復を最優先として、スタッフが一丸となってサポートをさせていただきます。また現在は行っていませんが、2025年3月より無痛分娩を開始することとなりました。
これからも、妊産婦さんへの負担がより少なくなるよう、分娩体制を整えていきたいと思います。
塚﨑 雄大 先生の所属医療機関
「自然分娩」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。