卵巣がんとは卵巣にできるがんのことであり、卵巣がんが進行すると“腹膜播種”が見られるようになります。“腹膜”とは腹部の臓器の周りを覆っている組織のことで、“播種”とは種がまかれるようにがんが広がる状態を指します。
それでは、腹膜播種は具体的にどのような状態なのでしょうか。また、どのような症状が出て、どのような治療が必要になるのでしょうか。
腹膜播種は進行した卵巣がんによく見られる症状で、臓器を取り巻く腹膜にがんが広がった状態です。卵巣がんの中でもIII期以上のステージで認められ、腹膜播種の有無は診断基準のひとつでもあります。
初期の卵巣がんは痛みを伴わないことが多く、腹膜播種があっても自覚症状がないことも少なくありません。進行するとお腹の中に水がたまる“腹水”が認められ、腹水によるお腹の張りや腹痛、腰痛、不正出血、トイレが近い、排便しづらいなどの症状が見られるようになります。
III期からさらに進行すると、腹膜播種以外の臓器に転移が見られるIV期に移行します。
卵巣がんの治療は大きく分けると手術、薬物治療、放射線治療があります。このうち、治療の中心となるのは手術と薬物治療です。
卵巣がんの治療では、基本的には最初に手術を行います。この手術はがんの組織型やグレードを診断するための病理検査も兼ねており、検査の結果によっては追加手術も行います。
ただし、がんの範囲が広すぎている、全身状態が悪いなどの理由で手術が困難な場合は、手術の前に抗がん剤による薬物治療(術前化学療法)を行い、がんを小さくしてから手術を行うこともあります。また、最初に手術を行って全部を摘出できなかった場合は化学療法を行い、効果が得られたところで2回目の手術を行って残りのがんを摘出することもあります。
一般的に腹膜播種が見られる状態では、がんの切除範囲が大きくなる可能性が考えられます。
抗がん剤を使った治療です。目には見えない小さながんにも効果があるため、手術の後に再発の危険性を減らすために行われることがあります(術後補助療法)。
特に、卵巣がんは術後補助療法を行う頻度が高く、腹膜播種が見られるステージでは通常の場合、術後補助療法が行われます。
卵巣がんの放射線治療は治癒を目的としたものではなく、再発時の痛みや出血などの症状を和らげるために行われます。
一般的に、腹膜播種がある卵巣がんはそうでない場合に比べて治療が難しく、予後が悪くなります。がんの治療効果は“5年生存率”という指標で表され、2017年の統計ではIII~IV期の5年生存率は約28~44%といわれています。
卵巣がんは、初回治療でがんが取り切れるかが予後を左右する重要な要素となります。そのため、がんの取りこぼしを少しでも減らすために手術後の薬物治療や再手術が必要となるのです。
卵巣がんの再発や合併症を早期に発見するためには、経過観察が非常に重要です。
経過観察の目安は初回治療開始から1~2年目は1~3か月ごと、3~5年目は3~6か月ごと、6年目以降は1年ごとです。問診や内診を中心に、必要に応じて腫瘍マーカー測定やエコー検査、CT検査などが行われます。
診察以外にも排便障害、お腹の張り、腹痛、吐き気、嘔吐、お腹のしこりなどが認められた際は再発に伴う症状の場合があるので、医師に相談することが大切です。
腹膜播種とはお腹の中にがんが広がった状態のことで、進行した卵巣がんでよく見られる状態です。初期の卵巣がんは自覚症状に乏しく、初診時にすでに腹膜播種が生じた状態であることも少なくありません。
腹膜播種が認められたとしても、状態によっては寛解が期待できることもあります。治療法や治療後の状態について気になることがある場合は、些細なことでもよいので医師に相談するようにしましょう。
NTT東日本関東病院 産婦人科部長
杉田 匡聡 先生の所属医療機関
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