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卵巣がんの治療と経過——合併症や再発のリスク、治療後の生活は?

卵巣がんの治療と経過——合併症や再発のリスク、治療後の生活は?
奥 正孝 先生

地方独立行政法人市立東大阪医療センター 副院長

奥 正孝 先生

目次
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卵巣がん治療の中心は手術と薬物療法です。手術は、卵巣、卵管および子宮の摘出、大網(たいもう)*の切除を行う基本術式に加えて、腹腔洗浄細胞診、リンパ節郭清(生検)が行われます。ただし、若年で発症した場合などでは、条件が満たされれば妊孕性(にんようせい)妊娠する能力)の維持を重視する術式が選択される場合もあります。薬物療法は、がんの組織や進行期に応じて投与します。近年開発された分子標的薬と従来の抗がん剤を組み合わせることにより、がんが進行せず安定して生活できる期間が長くなりました。

本記事では、同センターにおける卵巣がんの治療と治療後の対応、同センターの婦人科部門の特徴について、副院長の奥 正孝先生と、同科師長の樗木裕美子さんに伺いました。

*大網……胃の下側から下方へ垂れ下がった腹膜

手術の目的は、腫瘍の組織型確認と進行期決定、病巣完全摘出を目指した腫瘍の減量です。一般的な術式としては両側の卵巣と卵管、子宮、大網(の切除に加えて腹腔細胞診、リンパ節郭清(生検)が行われます。大腸や小腸に転移が認められる場合は腸管の部分切除を、腹膜表面に腫瘍と疑われる塊が認められた場合は可能な範囲で腹膜生検を行います。

初回手術で取り切れなかった腫瘍の最大径が1cm未満の場合の予後は比較的良好であり、肉眼的に腫瘍の認められない完全摘出が得られた場合の予後はさらに良好です。進行がんは、必ずしも腫瘍を完全摘出できるとは限りませんので、初回手術において最大径が1cm以上の腫瘍が残った場合は、術後化学療法中に腫瘍の減量を目的に再手術を行う場合もあります(IDS:腫瘍減量術)。

病態は患者さんごとに異なりますので、他の診療科スタッフを交えたカンファレンスの場で治療計画を検討します。MRIなどの画像所見で腸管や尿管に浸潤を認める場合は消化器外科、泌尿器科と共同で手術を行います。

一方、妊娠を望まれる方の場合には妊孕性の温存と生命予後改善の両立が求められます。下記の適応*に準拠して、温存可能と判断された場合には、術式を縮小して子宮と対側付属器を温存します。病理診断の結果で化学療法を追加したケースもありますが、ほとんどの患者さんは再発することなく、無事出産されています。

*妊孕性温存の適応は、組織型が漿液(しょうえき)性がん、粘液性がん、類内膜腺がんに分類されるものであること、進行期がIA期で分化度はグレード1または2であることとされています。最終診断は術後の永久標本によりますので、温存の可否は術前のMRI所見を中心に検討しています。IC期〜II期においても悪性度が低い組織型が推定される場合は温存することがあります。再発した場合の予後が良くないので、ご本人ならびに家族が病気に関して十分に理解していることが重要です。

<初回化学療法>

治療成績の向上を目的として行います。原則として組織型にかかわらず、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)が標準治療とされています。消化器症状(嘔吐、食欲不振)、骨髄抑制(貧血、白血球減少、血小板減少)、末梢神経障害(しびれ)、脱毛などの副反応があります。

<術前化学療法>

初回手術に先立って、または試験開腹後に根治手術完遂率の向上を目的として行います。術前に化学療法を行うことにより、残存腫瘍を1cm未満に出来る可能性や、腸管の切除を回避することが期待できる場合に行っています。

<維持化学療法>

寛解後に長期生存を目的として行います。手術と初回化学療法で完全寛解が得られた場合は不要と考えてよいと思いますが、進行がんにおいては分子標的薬による維持化学療法の導入により無増悪生存期間を延長できることが分かってきました。

<二次化学療法>

再発時や初回化学療法に抵抗を示した場合に行います。前回の抗がん剤治療が終了してから半年以上経過して再発した場合は、プラチナ製剤(カルボプラチン)を中心とする初回治療と同一あるいは類似した薬剤を選択します。

一方で、6か月未満の再発や初回化学療法が無効な場合はイリノテカン、ゲムシタビン、リボソーム化ドキソルビシンなどの単剤投与が行われます。

<分子標的薬>

  • ベバシズマブ

血管内皮増殖因子(VEGF)と結合することで、がん組織が新しい血管を作ることを抑える薬剤です。増殖のために豊富な栄養を必要とするがん組織に対して本薬剤を投与すると、栄養血管の構築が遅れることで腫瘍は壊死します。当初、消化管穿孔などの高度な副反応が多いと聞いたこともあって、おそるおそる使っていたのですが、抗がん剤では治療が難しいと判断された末期がんの患者さんが元気になって退院されたこともあり、現在では維持化学療法の中心的薬剤となっています。

  • オラパリブ

卵巣がん(高異型度漿液性腺がん)の半数でDNAの修復不全が認められます。BRCA1/2は修復に携わるタンパク質の一部で、この遺伝子に生まれつき異常がある場合、乳がんや卵巣がんになりやすいことが知られています(HBOC:遺伝性乳がん卵巣がん症候群)。

オラパリブは、DNAの修復を十分行えないがん細胞が修復するために必要な酵素であるPARP(poly(ADP-ribose)polymerase)のはたらきを抑える薬です。

現在、初回治療終了時点でBRCA1/2遺伝子変異の有無を調べ、異常がある場合はオラパリブを、異常のない場合は分子標的薬ベバシズマブを維持化学療法として行っております。

当院には充実した緩和ケア病棟があるため、他施設において治療を終えた患者さんも多数入院されています。当科で治療を受けられた患者さんは、病状が悪化した際においても顔見知りのスタッフがいる婦人科病棟を望まれることが多いようです。病棟が異なるだけで、緩和ケアチームによるサポートは同様に行っています。

再発率は最初の1年半以内が比較的高く、3年半以上経過すると低くなることより、ガイドラインでは治療後の経過観察間隔として以下のように記載されています。

  • 治療開始から1~2年目…1~3か月ごと
  • 治療開始から3~5年目…3~6か月ごと
  • 治療開始から6年目以降…1年ごと

検診内容は、内診、経膣超音波検査、血液検査などで必要に応じてCTを行います。

基本は分子標的薬も含めた化学療法による治療をします。再手術による予後の改善が見込まれる場合には、腫瘍減量術を実施することもあります。部位によっては放射線治療が有効な場合もあり、治療法はそれぞれの状況に応じて患者さんと相談のうえで決定します。

可能な限りの治療を望まれる方もいれば、治療を終えてご自身の時間を過ごされることを望まれる方もいらっしゃいますので、出来るだけ意向に添えるようにいろいろな職種のスタッフを交えてサポートするようにしています。

市立東大阪医療センターの卵巣がん治療は、産婦人科の婦人科部門にて行われています。婦人科部門では、卵巣がんを含む婦人科手術を162件実施しました(2018年度の実績)。

本項では、市立東大阪医療センターの卵巣がん治療を、婦人科の病棟師長である樗木裕美子さんに伺いました。

樗木裕美

産婦人科全体で、医師が24時間対応

市立東大阪医療センターの産婦人科 婦人科部門は、周産期部門と連携をとり、医師が24時間体制で対応を行っています。たとえば、夜中に入院されている患者さんが痛みを訴えているときは、医師が患者さんのもとへ行き、症状を診て痛み止めを処方したりするだけでなく、安心できるような優しい言葉をかけるといった対応をとっています。

多職種による密な連携

多職種のスタッフで患者さんをサポートする
多職種のスタッフで患者さんをサポートする

当センターは地域がん診療連携拠点病院でがん看護が充実しています。入院時には全ての患者さんを対象に苦痛スクリーニングを実施し、卵巣がん患者の身体的、精神的苦痛状況を把握して、その苦痛を和らげることを目指して看護を提供しています。当病棟にはがん性疼痛看護認定看護師が配属されており、院内の緩和チームと連携を図っています。また、治療中にお食事があまり進まない場合には、看護師から栄養士に情報共有し、嗜好に合わせた献立の変更やカロリーを摂取しやすくするためにゼリーなどを追加して、患者さんが食べやすい食事を提供しています。

このように当部門では、患者さんの情報共有を密に行い、患者さんに起こっている問題をピックアップし、多職種の専門性を活かして問題を解決することで、患者さんが快適な時間を過ごせるように心がけています。

奥先生

体ひとつでけがや病気から自然に癒える力は、全ての生き物に与えられた能力です。手術で病気とおぼしき部分を取り除いてお腹を閉じるのですが、1週間もたたないうちに傷が治る生体の能力は神秘であるとしか言いようがありません。

糖分が必要なときには口が甘いものを欲しがるように、体は今必要なものを教えてくれています。ご自身の治癒力を高めるためにも自分自身の体の声をよく聴いて、その声に従って行動してみるのがよいように思います。今本当に食べたいと思うものを食べて、行きたいと思うところがあれば先送りせずに出かけ、ひとりになりたいときにはひとりでゆっくり休むのがよいように思います。この記事に限らず、がん治療に関するさまざまな情報を目にする機会が多いと思いますが、あまり情報にとらわれすぎず、ご自分の体の声に従って行動、選択することが大切です。

樗木裕美子さん

「あのとき検診に行っていたら」、「あのとき検診に行くことをすすめていたら」と悔やまれる婦人科疾患の患者さんやご家族を目の当たりにしてきました。仕事優先で体のことを後回しにしてしまう気持ちは理解できます。しかし、病気を患ってしまった後で、「あのとき検診に行っていれば」と悔やむ思いは消えません。私は、後悔する方が1人でも少なくなるように検診を受けてほしいと思います。病気が見つかっても早期に発見でき、治療を行えば今まで通り元気に生活ができます。そのために、治療を余儀なくされる患者さんには今後も一生懸命サポートしていきたいと思います。

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  • 地方独立行政法人市立東大阪医療センター 副院長

    奥 正孝 先生

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