卵巣がんとは、子宮の両側にある“卵巣”と呼ばれる臓器に生じるがんです。卵巣がんは初期には無症状ですが、進行すると腫瘍が大きくなったり腹水がたまったりして下腹部の膨らみが生じることがあります。卵巣がんの症状のひとつである“腹水”とはどんなものなのでしょうか。本記事では、卵巣がんによって腹水がたまる仕組みや卵巣がんで腹水がたまった場合の治療方法などについてお伝えします。
腹水とは、病気などにより腹部に体液がたまることをいいます。卵巣がんは自覚症状があまりないことが知られていますが、腫瘍が大きくなったり、がんがお腹の中(腹膜)に広がる“腹膜播種”が生じたりすると、炎症を和らげるために腹水がたまるようになります。なお、良性の卵巣腫瘍でも腹水が生じることがありますが、悪性の腫瘍(がん)のほうが腹水を生じやすいといわれています。
腹水がたまると水がたまることでお腹が前に突き出し、妊婦のような体型になります。お腹が膨らむことによって胃が圧迫されて食欲がなくなったり、肺が圧迫されて呼吸が苦しくなったり、腹部に不快感を覚えたりすることがあります。また、多量の腹水がたまった方では、“胸水”といって肺の周りの胸腔にも体液がたまるようになることがあります。胸水の症状は息苦しさなどです。
卵巣がんは手術前に確定診断をすることが難しく、エコー(超音波)検査、CT・MRI検査などの画像診断や腫瘍マーカー検査などで良性・悪性の予測をつけた後、手術で卵巣の組織を採取し、病理検査をすることで初めて確定診断に至ります。
ただし、すでに腹水や胸水がたまっている場合、手術前に腹水や胸水を採取しその中にがん細胞が含まれていないかを検査することで、卵巣腫瘍が良性なのか悪性なのかの見当をつけることに役立てることができます。なお、卵巣がんと確定した場合には、腹水の中にがん細胞が含まれているかによって病気の進行度(ステージ)が変わってくることがあります。
卵巣がんの治療は手術療法と抗がん剤治療を組み合わせて行います。手術の際に卵巣がんと確定診断がついた場合、なるべく全てのがん組織を取り除く手術を行い、手術後に抗がん剤治療を行うかどうかを検討していきます。
前述の通り、卵巣がんは手術前に確定診断を行うことが難しいため、多くの場合は初回治療として手術療法が選択されます。しかし、腹水や胸水が多量にたまっている場合や合併症がある場合、卵巣がんを抱える方が高齢である場合は、根治的な手術を行うことが患者の大きな負担になるうえに手術でがんを取り切れない可能性もあります。
このような方に対しては、全身の状態をよくしてから手術を行う場合もあります。この場合、腹水の細胞検査や腹腔鏡などによる試験開腹手術によって卵巣がんの確定診断を行った後、根治的な手術の前に抗がん剤による化学療法を行い、がんの拡がりを縮小させてから手術に臨みます。
卵巣がんが進行し、腹水による息苦しさや不快感などが強くなった場合、その方の状況に応じて苦痛を取り除く目的で以下の治療が行われます。
抗がん剤治療または手術により、腹水貯留が減少することが期待できます。
お腹に針のような細い器具で穴を開け、そこから腹水を排出する治療です。
利尿薬によって尿として水分を排出することで、腹水による苦痛が和らぐと考えられています。ただし、進行した卵巣がんでは利尿薬の効果は限定的とされています。
ドレナージで排出した腹水を特殊なフィルターで濾過し、有用なタンパク成分を回収して自分の体内に戻す治療です。
輸液とは、栄養や水分の補給目的で点滴する薬剤をいいます。がんの終末期で腹水による苦痛が生じている場合、余分な水分が腹水にならないように1日の輸液量を1000ml以下に制限します。
卵巣がんにかかっても月経などに影響がないことが多く、進行しても見落とされがちです。がんが進行し、腫瘍が大きくなることや腹水がたまることによって腹部に膨らみができても“太った”と勘違いし、気に留めない方もいます。お腹の膨らみが気になる、不快感があるなどといった症状が見られるときは、婦人科の受診を検討しましょう。
国際医療福祉大学成田病院 産科・婦人科
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