卵巣がんとは、子宮の両側に位置する“卵巣”に生じるがんのことです。卵巣がんには、“上皮性”“胚細胞性”“性索間質性”など、さまざまな種類(組織型)があり、中でも90%以上を占めるのは上皮性卵巣がんであるといわれています。卵巣がんは組織型に応じて、かかりやすい年齢や症状などの特徴が異なります。本記事では、卵巣がんの組織型ごとの好発年齢・症状などについてお伝えします。
卵巣がんの90%を占める上皮性卵巣がんの好発年齢は、40~60歳代といわれています。上皮性卵巣がんとは、卵巣の表面を覆っている細胞にがんが認められる病気です。また、上皮性卵巣がんはさらに“漿液性がん”“粘液性がん”“類内膜がん”“明細胞がん”の4つに分類され、それぞれ性質が異なります。
上皮性卵巣がんは、初期には無症状であることが一般的です。がんが進行すると、下腹部に痛みや腫れが生じるほか、骨盤(腰の周りの骨)に痛みが出ることがあります。また、腹部にガスがたまる、便秘になりやすくなる、腹水がたまるなどによっておなかが膨らんだような印象になる場合もあります。
上皮性卵巣がんでは、母、娘、姉妹などに卵巣がん患者がいる場合、自分も卵巣がんにかかるリスクが高まる可能性があることが分かっています。遺伝性卵巣がんは、卵巣がん全体の5~10%程度、III期IV期の進行がんでは30%程度といわれています。現時点では、卵巣がんのリスクだけが高まる場合と、卵巣がん・乳がんのリスクが高まる場合、卵巣がん・大腸がんのリスクが高まる場合の三様式が確認されています。
卵巣がんになるリスクが高い場合、予防的にまだがんにかかっていない卵巣を摘出する手術を行う人もいます。“家系に卵巣がん患者がいる”“自分が卵巣がんにかかったので、家系の人にリスクがないか心配”という場合には、遺伝カウンセリングを受け、遺伝子検査からそのリスクを調べることも可能です。その場合、卵巣がん患者さん自身の遺伝子検査は保険診療で検査可能ですが、ご家族の遺伝子検査は自費診療となります。
卵巣胚細胞性腫瘍は、卵子や精子などの生殖細胞から発生する腫瘍で、多くは片側の卵巣だけが腫瘍になります。悪性の胚細胞性腫瘍は上皮性卵巣がんに比べると発症頻度は低く、好発年齢は10~20歳代の若年者です。また、良性の胚細胞性腫瘍で代表的な病気には、卵巣腫瘍全体の約2割を占める“成熟奇形腫”が挙げられます。
悪性卵巣胚細胞腫瘍は、そのほかの卵巣がん同様、初期では無症状であることが一般的です。ただし、がんが進行してくると、下腹部に腫れが生じたり急激な腹痛を訴えたりすることがあります。
なお、卵巣胚細胞性腫瘍の一部では、女性ホルモンや男性ホルモンを産生します。そのためホルモンバランスが崩れることにより、若年の方では多毛になったり、生理が不順になったりすることがあります。逆に閉経後の女性に生理のような出血が生じたりすることもあります。
性索間質性腫瘍とは、卵巣を支える軟組織である間質や生殖器の特異的な細胞を生み出す性索などの部位に発生する腫瘍です。卵巣腫瘍の5%、卵巣悪性腫瘍の7%を占めるといわれており、卵巣腫瘍の中でもっともまれな組織群といわれています。
性索間質性腫瘍のうち主な悪性腫瘍としては顆粒膜細胞腫が挙げられ、成人型と若年型に分類されます。成人型が95%を占め閉経前後に好発する一方、若年型(5%)は思春期前後に発症することが一般的です。
性索間質性腫瘍では、進行すると女性ホルモンの産生によって不整性器出血や月経異常が見られることがあるほか、腹痛やおなかに水がたまることなどにより腹部が膨らんだように感じることがあります。
卵巣がんの90%は上皮性卵巣がんです。そのため、上皮性卵巣がんの好発年齢である40~60歳代の女性は、気になる症状があれば病院を受診するなど、特に意識をすることが望ましいといえます。ただし、卵巣胚細胞腫瘍のように10~20歳代の若い女性がかかりやすい卵巣がんもあるため、若い人でも気になる症状があれば病院の受診を検討しましょう。
なお、卵巣がんは初期には無症状であることが一般的で、定期的な婦人科検診を受けていても卵巣がんを早期発見できるとは限らないとされています。とはいえ、卵巣がんの種類によってはゆっくりと進行するものもあるため、婦人科検診がまったく無効というわけではありません。家系に卵巣がん患者がいるなどリスクが高い可能性のある人は、特に意識的に定期的な婦人科検診の受診を検討しましょう。
国際医療福祉大学成田病院 産科・婦人科
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