卵巣がんの原因については、排卵回数と関係しているといわれています。その他にも子宮内膜症から移行するものや、最近では遺伝との関連性も指摘されています。久留米大学病院産婦人科主任教授の牛嶋公生先生に卵巣がんの原因についてお話をうかがいました。
以前は欧米に多いといわれていた卵巣がんですが、近年は日本でも卵巣がんにかかる人が増加傾向にあります。卵巣がんの原因については、はっきりとしたことはわかっていませんが、卵巣から卵が排出されることと関係していることは古くからいわれています。つまり、排卵時、卵は卵巣の壁を破って出てくるわけですが、破れた壁を修復する過程で、卵巣の中に入り込んだ上皮が後に悪化していくのではないかと考えられています。
その根拠としては、排卵の回数が多い女性に卵巣がんが多いということです。排卵の回数が多いというのは、妊娠・出産が少ないということです。妊娠期間中は、卵が卵巣から排出されることがないため、排卵による卵巣へのダメージが少なくなります。そのため、お産回数の少ない人であったり、不妊治療を行ったりした方で排卵誘発を用いたにも関わらず妊娠に至らなかった方など、排卵する機会の多い方については、リスクが少し高くなるといわれています。
一方、子宮を全摘したり、卵管結紮(らんかんけっさつ・避妊治療のひとつ)を行ったりしている方では卵巣がんの発症が少ない傾向にあるといった報告もされています。女性の体は子宮や卵管を通して、腹腔内と外界とがつながっています。子宮を切除したり、卵管を結紮したりすることで外からの物質が遮断されるため、自然環境内の誘因から回避できることなども関係しているのではないかと考えられています。また、最近一部の腫瘍は卵管が原発であると言われています。そこで、子宮筋腫などで子宮を摘出する際に卵管を切除することが行われています。
子宮内膜症でも卵巣が腫れる場合があります。チョコレート囊胞といいますが、本来は良性疾患なので経過観察されることが多いのですが、ある程度の大きさになってくるようであれば、検査が必要となります。
内膜症全体の患者数がわからないため、内膜症から卵巣がんへと移行する割合を正確に割り出すことはできませんが、卵巣がんの手術をして病理学的に診断すると結果的に子宮内膜症由来ではないかという症例がかなり報告されています。現在、学会で全国調査を行っているところですが、45歳、50歳以上で腫瘤が8センチから10センチ程度になるようであれば、摘出して組織検査をした方がいいでしょう。
また最近卵巣がんの原因としていわれているのが遺伝的な要因です。日本国内でのはっきりとした比率はわかりませんが、卵巣がん全体のおよそ10~15%は遺伝が関与しているのではないかといわれています。具体的にはBRCA1/2という遺伝子の変異がある場合、卵巣がんのリスクが高くなることがわかっています。
このBRCA1/2遺伝子は乳がんや前立腺がんにも関与していることがわかっており、最近では、「乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」として、予防や治療などについて対策が進められているところです。HBOCは発症年齢が若いことが特徴で、血縁の家族や親族に乳がんや卵巣がんにかかった方がいるかどうか家族歴についてしっかり聴取することが重要になります。
久留米大学病院 産婦人科 主任教授
久留米大学病院 産婦人科 主任教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本婦人科腫瘍学会 理事・婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医日本癌治療学会 代議員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本女性医学学会 暫定指導医NPO法人婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG) 理事日本癌学会 会員日本臨床細胞学会 会員国際婦人科腫瘍学会 会員アジア婦人科腫瘍学会 会員American Society of Clinical Oncology(ASCO) 会員
久留米大学病院産婦人科科長。専門は婦人科腫瘍で、日本産婦人科学会や日本癌治療学会などの委員や代議員などを務めている。婦人科腫瘍をはじめ婦人科疾患全般の診療にあたっている。また、院内のがん遺伝子パネル検査や乳がん・卵巣がん症候群に関連した遺伝カウンセリング部門を統括している。
牛嶋 公生 先生の所属医療機関
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