自覚症状が現れにくく、発見時には進行していることが多いという卵巣がん。診断には多角的な検査が必要で、専門性も求められる疾患です。久留米大学病院産婦人科主任教授の牛嶋公生先生に卵巣がんの症状と診断についてお話をうかがいました。
卵巣がんは早期発見が難しく、発見されたときにはすでに進行していることが少なくありません。その背景には、症状が現れにくいことや検診に向かないなど卵巣がんの特徴があげられます。初期では自覚症状がほとんどありませんが、腫瘤がある程度大きくなってくると腹壁から触れるようになります。腫瘍の種類にもよりますが、良性でも悪性でも関係なく腫瘤は限りなく肥大化していきます。
大きいものでも良性のこともあれば、小さくても悪性の場合もあります。ただ、大きくなった方が逆にみつけやすいということはあるようです。悪性の場合には、腹水などが溜まってくるため、腹水による腹囲の増大や腫瘤による腹部膨満感、腹部の圧迫症状などがみられるようになります。膀胱が圧迫されれば頻尿が現れる場合もあります。
しかし、頻尿は子宮筋腫などでも起こるため、卵巣がんに特有な症状というのはありません。症状がみられるとすれば、卵管がんのときに水溶性の帯下(たいげ)といって水っぽいおりものが増えることがあります。
卵巣がんの場合は、かなりの確率で偶然に発見されています。ちょっと太ったと思っていたら、内科で超音波検査をして腫瘤だったということは少なくありません。
卵巣がんの診断は、まず婦人科的診察としての内診や超音波検査を行います。超音波で腫瘤が確認されたらMRI(磁気共鳴画像)検査やCT(コンピューター断層撮影)検査を行います。MRIは読影技術の進歩によって、どのタイプの腫瘍が疑われるのか推定診断ができるようになりました。CTは原発巣というよりも、むしろ拡がり診断に適しています。その場合、単純CT撮影ではなく、造影剤を用いた造影CT撮影を行います。単純撮影だけでは、腫瘤の存在のみしか確認できず、超音波と同じ程度のことしかわからないからです。
診断には腫瘍マーカーが用いられることがありますが、あくまでも参考程度ということになります。卵巣の腫瘍マーカーとしてはCA125が使われます。しかし、CA125は子宮内膜症などの良性疾患のときや月経中でも上昇するため、腫瘍マーカー単独では判断することはできません。画像診断で悪性が疑われ、腫瘍マーカーも非常に高いときに悪性の可能性が高くなります。
このように卵巣がんは、さまざまな検査を多角的にとらえて診断しなければなりません。そこが卵巣がんの難しさであり、専門性が求められる部分でもあるのです。卵巣は上皮という皮一枚でおなかの中にさらされているため、術前の生検ができません。そのため、良性腫瘍として手術を行ったあと、病理組織を調べてはじめてがんと判明することも決して珍しいことではないのです。良性として手術をして、病理診断で悪性だった場合には、ステージ確定のために、再び手術でおなかを開けなければなりません。
久留米大学病院 産婦人科 主任教授
久留米大学病院 産婦人科 主任教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本婦人科腫瘍学会 理事・婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医日本癌治療学会 代議員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本女性医学学会 暫定指導医NPO法人婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG) 理事日本癌学会 会員日本臨床細胞学会 会員国際婦人科腫瘍学会 会員アジア婦人科腫瘍学会 会員American Society of Clinical Oncology(ASCO) 会員
久留米大学病院産婦人科科長。専門は婦人科腫瘍で、日本産婦人科学会や日本癌治療学会などの委員や代議員などを務めている。婦人科腫瘍をはじめ婦人科疾患全般の診療にあたっている。また、院内のがん遺伝子パネル検査や乳がん・卵巣がん症候群に関連した遺伝カウンセリング部門を統括している。
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