起立性調節障害は不登校にもつながる可能性のある病気です。心身両面から適切に診断して一人ひとりに合った治療を早期に開始し、継続することが重要になります。
今回は、起立性調節障害の検査・診断、治療、症状の経過などについて、市立東大阪医療センター 小児科部長の古市 康子先生に解説していただきました。
起立性調節障害の検査や診断は、診療ガイドラインに記述されている手順に沿って行います。
診療ガイドラインでは、以下の11項目の身体症状のうち3つ以上に当てはまる場合、もしくは2つであってもほかの症状から起立性調節障害が強く疑われる場合には、詳細な検査を行うよう指針が示されています。
身体症状から起立性調節障害が疑われる場合、以下のような検査により基礎疾患の有無を調べます。
鉄欠乏性貧血によって立ちくらみが起こっている可能性を調べます。
また、動悸がある場合には甲状腺ホルモンの測定も行い、内分泌疾患(ホルモンの異常によって生じる病気)の有無を調べます。
けいれんを伴う失神の症状がある場合、てんかんと区別するために行います。
動悸や頻脈の症状がある場合、治療を要する不整脈の有無を調べます。
基礎疾患がないと確認できたら、新起立試験で以下4つのサブタイプのどれにあたるかを判定し、より適した治療に生かします。まず、寝た状態で10分間安静を保ち、その間に血圧と心拍数を測ります。その後、起立して1分ごとに血圧と心拍数を測定し、低下した血圧がどのくらいの時間で回復するか調べます。
4つのサブタイプには、それぞれ血圧低下のタイミングや心拍数などの基準値が定められており、これに照らしてサブタイプを判定します。
以下の6項目のうち週1~2回以上みられる項目が4つあれば、心理社会的因子(性格や社会的背景などにより生じる問題)が関与していると考えられます。
疾病教育とは、病気を正しく理解していただくために行うものです。倦怠感や立ちくらみ、朝なかなか起きられないといった症状が、精神的な弱さからくるものではなく病気であると認識していただき、患者さんとご家族が協力して治療に取り組む必要があるとお伝えしています。
非薬物療法は、日常生活の工夫により症状が出ないようにするものです。次のようなことに継続的に取り組めば改善につながります。
非薬物療法として日常生活の工夫を行ったうえで、薬物療法を検討します。薬で治すというよりは、非薬物療法を継続するための環境を整えるという意味合いで取り入れます。
起立性調節障害は不登校と密接な関わりがあるため、学校の先生方にこの病気をご理解いただき、適切な対処方法を共に考えていくことが非常に重要です。
在宅での非薬物療法を中心とした治療で改善がみられない場合、また、日常生活における活動量が低下し、deconditioning(デコンディショニング)*が起こっている場合には、入院治療(環境調整入院)が検討されます。当院では、2~4週間入院していただいています。
環境調整入院の対象となるのは、主に学校に行けなくなっている患者さんです。中学生になると定期テストを受ける必要があるため、テスト期間に合わせて入院していただき、登校を目指すケースもあります。
*deconditioning:日常の活動量低下→筋力および自律神経機能の悪化→下半身への過剰な血液貯留→脳への血流低下→日常の活動量低下、という悪循環による身体機能の低下。
ここでは、当院の環境調整入院を例にご説明します。
一定時刻に起床、午前中は院内学級で学習し、午後の運動時間には下半身を中心に体を動かし、夜は21時に就寝するといった規則正しい生活を送ります。夜更かしの習慣を改善するため、夜は病院でスマートフォンを預かる場合もあります。
入院中は1日の水分摂取目標量を目に見える形で把握してもらい、適切な量をしっかり摂取できるよう管理します。また、運動の時間にはリハビリテーション科の医師が付き添い、患者さんに合った運動をアドバイスしています。
主治医も患者さんのつらさを理解しようと日常的にコミュニケーションを取っていますが、医師には話しづらい内容もあるでしょう。ふとしたときに、担当看護師ら医療スタッフに本音を漏らす方もいるため、丁寧に話を聞くことを大切にしています。また、保育士が付き添うこともあり、遊びを通して状況を把握しようと努めています。
必要に応じて、入院中に臨床心理士*との面談の機会を設けています。今抱えている困り事や学校に行けなくなったきっかけなど、特に重要な問題を把握し、改善方法を一緒に考えていきます。
*臨床心理士:日本臨床心理士資格認定協会が認定する、心の問題に取り組む専門職。
起立性調節障害と診断され、非薬物療法を開始したとしても、短期間で顕著に改善するケースは多くありません。軽症では、適切な治療によって2~3か月で改善が期待できるといわれていますが、症状の経過には個人差があります。中等症では1年後に5割程度、2~3年後には7~8割程度が回復するといわれています。ただ、重症になると多くの方は社会復帰に少なくとも2~3年を要します。
患者さんやご家族には、2~3か月で少しずつ効果が表れてくるケースもあるものの、半年程度はかかるつもりでいてくださいとお伝えしています。
学校に行けたり行けなかったりしている患者さんの場合、新年度が始まる4月というタイミングでクラス替えがあったり担任の先生が変わったりして、環境が変化すると好転するケースもあります。ただし、環境の変化に適応できたとしても、体がつらい状態を引きずってしまう場合もあります。患者さんの個性を見極めつつ、状況に合った治療を進めていく必要があります。
先述した“デコンディショニング”に陥り症状が悪化してしまうと、生活リズムを元に戻すのが困難になり、治療に時間がかかる傾向があります。早期に診断を受け、非薬物療法や環境調整を受けられた方のほうが比較的スムーズに症状が改善します。朝なかなか起きられない、立ちくらみや倦怠感や生じやすいといった症状があれば、早めに起立性調節障害を疑い、適切な治療を開始していただきたいと思います。
市立東大阪医療センター 小児科 部長
古市 康子 先生の所属医療機関
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