関節リウマチは近年薬物療法が大きく進歩し、早期に診断を受け、適切な治療を継続すれば症状をコントロールしやすくなりました。また薬の選択肢が増えており、個々の生活スタイルや考えに基づいて自分らしい治療法を選びやすくなっています。
今回は、村上記念病院 非常勤医師としてリウマチ科の診療を担当されている末盛 浩一郎先生(愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学 准教授)に、関節リウマチの症状や治療法、診療で大切にされていることなど、幅広くお話を伺いました。
関節リウマチは、体を細菌やウイルスなどから守る免疫の仕組みに異常が起こり、本来は守るべき自分の関節を「異物」と誤って攻撃してしまうことで、関節に炎症を起こす病気です。関節炎を起こす病気はいくつもありますが、関節リウマチの特徴は免疫の異常な反応が長く続き、腫れや炎症が持続することです。また、左右対称に症状が出ることが多く、たとえば左手と右手の両方の関節に炎症がある場合には、関節リウマチが疑われます。患者さんの男女比は男性1:女性4で、女性に多くみられます。どの年代でも発症する可能性がありますが、特に40歳代に多く、最近では60歳代以降の高齢で発症する方も増えています。
発症の原因はまだはっきりとは分かっていません。ただし、体質(遺伝的要因)に加えて、喫煙、歯周病、ウイルス感染などの生活習慣や環境要因が重なることで発症すると考えられています。なお、親から子へ必ず遺伝する病気ではありません。関節リウマチになったからといって、お子さんやお孫さんまで高い確率で発症するわけではありません。
関節リウマチで腫れや痛みなどの症状が出やすいのは、手首や手の指の関節です。そのほか、足の指、膝、肘、肩などに症状が出ることもあります。中でも、ご自身で気付きやすい症状が「朝のこわばり」です。炎症が起こると関節の中に水分(炎症によって増える関節液)がたまり、腫れやこわばりが生じます。日中は体を動かしているため関節内の水分が一時的に減り、仕事や家事に集中していると症状に気付きにくいことがあります。ところが、夜寝ている間は体を動かさないため水分がたまりやすく、朝起きたときに関節が動かしにくい「朝のこわばり」を強く感じるのです。起床して活動を始めると、次第に腫れが引いて関節が動かしやすくなり、昼頃には症状が軽くなることが多いといわれています。
しかし、関節リウマチを治療せずに放置すると、免疫の異常な反応が続き、こわばりの時間がだんだん長くなっていきます。さらに進行すると、関節が壊れてしまうこともあります。近年は、早めに医療機関を受診する方が増えてきたため、そこまで進行するケースは少なくなっています。それでも、診断が遅れたり、治療の効果が十分でなかったりすると、関節の変形が進んでしまうことがあります。関節が変形すると、力が入りにくくなったり、力を入れようとしたときに痛みを感じたり、時にはしびれを伴うこともあります。
関節リウマチでは、関節だけでなく全身のさまざまな場所に免疫の異常が起こることがあります。たとえば、ぶどう膜炎*などの目の症状や、間質性肺疾患**などの肺の症状です。そのため、眼科など他科の受診によって関節リウマチが疑われることもあります。また、目や口の中の乾燥をきたすシェーグレン症候群などの膠原病***を合併するケースもあります。
*ぶどう膜炎:目全体を包むぶどう膜に炎症が起こり、見えにくさや充血、眼痛などの症状をきたす病気。
**間質性肺疾患:肺胞の周囲の間質に炎症が起こり、酸素を取り込みにくくなる病気。
***膠原病:免疫の異常によって全身の臓器に炎症を起こす慢性疾患。関節リウマチに加え、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、シェーグレン症候群などがある。
まずは患者さんが痛みを感じている部分に触れ、腫れて感触がやわらかな部分があるかどうかを確認します。血液検査では、自己抗体*の1つであるリウマトイド因子**や抗CCP抗体***のほか、炎症反応の有無やMMP-3(関節の腫れの程度を反映する数値)を測定します。また、問診や診察でほかの膠原病が疑われるときには、追加の検査を行います。さらに、X線検査で骨の破壊が起きていないかを確認します。触診で腫れがはっきり分からない場合や、自己抗体が陰性のときには、超音波検査で関節に腫れや炎症があるかを詳しく調べることもあります。
診断のポイントは年齢によっても異なります。比較的若い方では、複数の関節に腫れが持続しており、リウマトイド因子や抗CCP抗体が陽性であれば、関節リウマチの可能性が高いと考えられます。一方、高齢の方では自己抗体が陽性になりにくく、変形性関節症という別の関節の病気を合併している場合も少なくありません。そのため、症状の経過をよく観察しながら慎重に診断を進めます。さらに、高齢の方は炎症が強く出やすく、腫れが目立つ傾向がありますので、関節の腫れを確認するとともに、血液検査でCRP(炎症の程度を示す数値)などを参考に、他の病気と区別して適切な治療につなげます。
*自己抗体:免疫の異常によって自分自身の体の組織を異物と誤認し、攻撃する抗体。
**リウマトイド因子:自己抗体の1つで、関節リウマチがある人の7~8割で陽性になるが、ほかの病気や健康な人でも陽性になり得る。
***抗CCP抗体:自己抗体の1つで関節リウマチがある人の7~8割で陽性になる。関節リウマチ以外ではほとんどみられず、関節症状があって陽性なら関節リウマチの可能性が高い。
基礎療法とは、生活習慣を見直したり工夫したりすることで、病気の進行を抑えたり、治療の効果を高めたりする方法です。たとえば、喫煙は関節リウマチに関わる抗CCP抗体を増やす要因の1つと考えられており、さらに肺にも悪影響を及ぼします。そのため、禁煙を強くおすすめしています。また、関節に負担がかかる仕事をされている方は、十分な休養をとることがとても大切です。
薬による治療(薬物療法)では、抗リウマチ薬、生物学的製剤、JAK阻害薬が中心となります。必要に応じて、痛み止めやステロイドを補助的に使うこともあります。このうちステロイドは炎症をすばやく抑える効果がありますが、副作用もあるため、少量を短い期間だけ使用するのが基本です。特に、病気の初期段階に限って使うことが多い薬です。
関節リウマチと診断された場合は、まず「メトトレキサート」という薬による治療をできるだけ早く始めます。これは、関節リウマチ治療の基本となる薬です。ただし、肺に病気のある方や、これから妊娠・出産を希望されている方などには使えないため、その場合は別のお薬を選びます。
メトトレキサートは週に1回だけ飲む薬です。最初は6~8mgから始め、効果をみながら最大16mgまで増やすことができます。薬の効果が出てくるのは早くても2~4週間後といわれています。病気の勢いが強い場合には、血液検査で肝臓や腎臓の状態を確認しながら、早めに増量することもあります。
この薬には、副作用として口内炎、吐き気、肝臓や腎臓の障害、白血球の減少、肺の症状などが出ることがあります。そのため、飲み始めてから2~4週間後に一度受診し、体に合っているかどうか、副作用が出ていないかを確認します。問題がなければ、その後はおおよそ3か月に1回の通院で、治療の効果と安全性をチェックしながら続けていきます。
なお、メトトレキサートには飲み薬のほかに注射薬もあります。飲み薬で吐き気が強い場合は注射に切り替えたり、軽い吐き気であれば吐き気止めや胃薬を一緒に使ったりすることで対応できます。
メトトレキサートで十分な効果が得られない場合には、次の段階として「生物学的製剤」と呼ばれる薬の使用を検討します。生物学的製剤は、最新の技術でつくられた薬で、関節リウマチに対して高い効果が期待できます。点滴で使う薬のほか、自分で打てる皮下注射薬もあり、慣れればご自宅で投与できるため、通院回数を減らすことができます。
一方で、高齢で自己注射が難しい方や、針が怖いと感じる方には、「JAK阻害薬」という飲み薬を選ぶこともあります。JAK阻害薬は、生物学的製剤と同じくらいの効果が期待できるとされています。
当院では、リハビリテーションや手術については整形外科と連携して行っています。薬による治療が十分に行われる前に治療を受けていた方や、現在の薬物療法を行っても効果が不十分な方では、関節の変形が進んでしまう場合があります。そのようなときには、人工関節置換術(関節を人工の関節に置き換える手術)を検討します。また、炎症に伴う関節の腫れがなかなか治まらない場合には、滑膜(関節の内側にある膜で、炎症の中心となる部分)を取り除く手術を行うこともあります。
そのほか整形外科では、ステロイドを含んだ関節内注射を使って、局所的に炎症を抑える治療が行われることもあります。
愛媛県は、大きく「南予」「中予」「東予」という3つの地域に分けられます。村上記念病院がある西条市は、このうちの東予に位置します。県庁所在地のある中予には、私が所属する愛媛大学をはじめ、リウマチ科を持つ病院がいくつかあります。しかし、南予や東予では日本リウマチ学会認定リウマチ専門医が不足していることが、長年の地域医療の課題でした。
一方で、近年は関節リウマチの治療薬が大きく進歩し、それぞれの薬の副作用への対応や、関節以外の症状、合併症への対応など、より高度な専門性が必要となっています。こうした背景から、県内での関節リウマチ・膠原病の診療を充実させるために立ち上げたのが、「愛媛大学関節リウマチネットワーク(EURAN)」です。愛媛大学の医師が地域の病院へ出向き、関節リウマチや膠原病の診療を支援する取り組みを続けています。
村上記念病院では、EURANを立ち上げる前の2003年にリウマチ科が開設されました。私は2016年から非常勤医師として勤務し、現在は週に1日半、リウマチ外来を担当しており、大学とも連携しながら診療を続けています。前任の先生から外来を引き継いで以降は、診療体制の整備に力を入れてきました。その中で、生物学的製剤やJAK阻害薬といった新しい治療法を取り入れ、より幅広い治療が行える体制を整えました。特に、生物学的製剤を使い始める患者さんには、1〜2日の入院で皮下注射の方法を指導し、安全にご自宅で治療を続けられるようにしています。
こうした取り組みの結果、2016年以降、当院のリウマチ科を受診される患者さんや関節リウマチの患者さんの数、さらに近隣地域からの紹介患者さんの数は年々増加しています。これは、地域におけるリウマチ診療のニーズの高まりと、当院の診療体制が地域に受け入れられていることを示していると感じています。
関節リウマチを疑って受診された患者さんには、必要な検査を行い、問診や触診、各種の検査結果を総合して診断します。そのうえで、病気の状態について丁寧にご説明します。治療を始めるかどうか、またどの治療を選ぶかについては、患者さんの意思を最優先します。医師と患者さんが話し合い、合意したうえで治療を進めていきます。患者さん一人ひとり、生活スタイルや経済状況、人生観は異なります。治療に対する考え方もそれぞれです。たとえば「痛み止めだけで様子を見たい」という方や、「積極的な治療は望まない」という方もいらっしゃいます。私たちは患者さんのご希望を伺い、その治療を選んだ場合、あるいは選ばなかった場合にどのような経過が予測されるのかを、できるだけ具体的にお話しします。そのうえで、最終的には患者さんご自身に選んでいただいています。
近年は生物学的製剤やJAK阻害薬といった新しい薬が登場し、治療の選択肢は広がっています。しかし、さまざまな理由でこれらの薬が使えない場合もあります。そのようなときには、ほかの飲み薬を組み合わせて病気のコントロールを目指します。私たちは、できる限り患者さんにご満足いただける治療方法を一緒に考え、治療のゴールに向かって共に歩んでいきたいと思っています。
関節リウマチは、基本的に治療を長く続けていく必要がある病気です。そのため、治療にかかる費用も長期にわたり、時には高価なお薬を使うこともあります。当院では、今後の治療にどれくらい費用がかかるのかを医事課のスタッフが計算し、お一人おひとりに分かりやすくご説明しています。効果と費用のバランスを考え、無理なく続けられる治療を一緒に選んでいただけるようにしています。また、医療制度や公的なサポートについても丁寧にご説明し、患者さんが安心して治療を続けられるよう支援しています。
薬の進歩により、関節リウマチは以前よりも症状をコントロールしやすい病気になってきました。かつては炎症を和らげる治療しかなく、関節の変形を避けられない時代もありました。しかし現在は、病気の原因そのものに迫る薬が登場し、関節の変形に至る方は大幅に減っています。特に、早期に診断を受けて治療を始めることで、健康な方に近い生活を送れる可能性が高まります。治療薬の選択肢も増えており、生活スタイルや体質に合わせて、一人ひとりに合った治療を選びやすくなりました。関節の腫れや痛み、朝のこわばりなど、関節リウマチを疑う症状があれば、できるだけ早めに医療機関を受診していただきたいと思います。
一方で、生物学的製剤の中でも「どの薬がどの患者さんに最も合っているのか」については、まだ十分に分かっていません。病気の状態や体質、自己抗体の有無などに応じて事前に適した薬が分かるようになれば、より早くよい治療を受けられるだけでなく、経済的な負担も軽くできます。そのため現在は、AI*やバイオマーカー**の研究が進められています。こうした研究によって、早い段階から一人ひとりに合った治療を提供できる「個別化医療」が実現することが期待されています。将来的には、関節リウマチが「治癒を目指せる病気」となる時代が来るかもしれません。
*AI:Artificial Intelligence(人工知能)
**バイオマーカー:病気の診断や治療効果判定の指標となる体内の物質。
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