顔面神経麻痺の60%を占めているベル麻痺は原因不明とされています。しかし、そのうちの多くにウイルス感染が関わっていることがわかっています。名古屋市立大学病院診療科部長の村上信五教授は、ベル麻痺のなかに単純ヘルペスウイルスI型が関わっているものがあることを証明されました。顔面神経麻痺の第一人者である村上先生に、その原因についてお話をうかがいました。
顔面神経減荷術(がんめんしんけいげんかじゅつ)といって、骨を削って神経の鞘を切り、神経を露出させて減圧する(むくんだ神経にかかる圧力を取り除く)手術があります。私が愛媛大学に勤務していた頃、その手術の際に神経内の液を取ってPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応:DNAを増幅する手法)で解析したところ、約7割から単純ヘルペスウイルスのDNAが出ました。このことは1996年に論文として報告し、ベル麻痺の発症原因としてはもっとも信頼性の高い科学的根拠となっています。
その後、北海道大学の古田康先生が顔面神経麻痺を発症した人の唾液の中から単純ヘルペスウイルスI型を見つけました。もともと単純ヘルペスウイルスは幼少期に口腔内から感染し、顔面神経の膝神経節にある知覚神経細胞に潜伏し、体が弱った時にそこから再活性化します。これはハント症候群の原因である帯状疱疹ウイルスも同様です。
顔面神経の膝神経節にある知覚神経細胞においては、7割から8割の人に単純ヘルペスウイルスも帯状疱疹ウイルスが潜伏感染していることがわかっています。なぜそれがわかるかというと、亡くなった人の神経節を取り出し免疫染色して顕微鏡で見るとウイルスの感染した神経細胞が確認できるからです。したがって、麻痺が起こってない人でも7割から8割は顔面神経の膝神経節にウイルスが潜んでいて、それが一部の人で再活性化して起こるのが帯状疱疹ウイルスによるハント症候群であり、単純ヘルペスウイルスによるベル麻痺なのです。
私たちはベル麻痺の60%前後が単純ヘルペスウイルスによるものであろうと推測していますが、唾液は採取する時の条件によって、出たり出なかったりすることがあるため診断が難しい面があります。もっともわかりやすいのは口唇ヘルペスです。口唇ヘルペスが出ていればヘルペスウイルスが再活性化していることはまず間違いありません。
また、後からわかることですが、血液中の単純ヘルペスウイルスの抗体価を検査すると診断できることがあります。もともと単純ヘルペスは体内のさまざまなところに潜伏しているので抗体価が急に上がることは少ないのですが、4倍以上、上昇した人はヘルペスウイルスが再活性化しているとみて間違いないでしょう。
顔面神経麻痺の発症頻度は、ベル麻痺で10万人あたり30人、ハント症候群では5人といわれています。末梢性の顔面神経麻痺のうち約60%がベル麻痺で、15%がハント症候群です。症候性といって顔面麻痺の原因が明らかなものについては、腫瘍や交通事故・転落などの外傷、中耳炎、それらが約10%あります。これら以外にギラン・バレーとか自己免疫(疾患)とか白血病、脳腫瘍、顔面神経鞘腫、聴神経腫瘍など、原因にはさまざまなものがありますが頻度としてはさほど高くありません。
ちなみに、従来はベル麻痺とハント症候群を臨床症状だけで診断していましたが、近年ではハント症候群と同じ帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因でありながら、耳介の帯状疱疹や難聴・めまいなどハント症候群の症状を欠くために、臨床的にベル麻痺と分類されているものがあることがわかってきました。
聴神経腫瘍の手術やガンマナイフ治療で一時的な麻痺が起こることがあります。聴神経腫瘍の手術を行なった場合は、約半数で一時的に麻痺が発症しますが最終的には90〜95%の人は麻痺がわからないくらいに回復します。ガンマナイフは定位放射線治療のひとつで、ガンマ線の細いビームを集めて照射するものです。この場合も一時的な麻痺が発現し、治る場合と治らない場合があります。しかし頻度は少ないと言っていいでしょう。
名古屋市立大学医学部付属 東部医療センター 特任教授・高次ウイルス感染症センター長
関連の医療相談が16件あります
顔面神経麻痺
お世話になっております。 突然、顔面神経麻痺になり心配です。 眼科→耳鼻科に受診して診断確定しました。 ステロイド、ウイルス対策の投薬治療です。 耳鼻科医からは、早めの治療で良かったとの見解です。 来週の水曜日に再度の受診です。 初めての傷病なので、主治医に伝えることはありますか。 アドバイス、お願いいたします。
麻痺側の瞼の痒み
はじめまして 2年3か月前にハント症候群になり顔面神経減荷術を受けました。1年8か月後に 眉の高さを変えて両方の目の位置が揃う尾毛挙上術受けています。手術時は柳原法で現在18点でした。 挙上術後に麻痺側の瞼の痒みが出て眼科に行くと痒さで擦るから結膜炎になってるとの事でした。目薬でも改善されません。 麻痺と関係があるでしょうか? 涙目です。よろしくお願いします。
顔面麻痺の慢性期症状と対処方法について教えてください
2019年1月15日に発症し、9日間の点滴治療を受け、現在発症から87日です。表情筋は戻っているので、総合病院耳鼻科での治療が終わりになりましたが、麻痺側の右目のした強張りのみでなく、反対側の左目にも同じ症状があります。また、耳とこめかみの間が押さえると痛みが左右共にあります。顎関節にも左右共に痛みがあります。麻痺の後遺症でしょうか?放っておいて自然治癒すろのでしょうか。麻痺から三叉神経痛に発展したのでしょうか。自分で出来る対処法はありますか?もし何処か診療科にかかるべき症状でしたらどういう病院の何科に行くべきか教えて頂けると助かります。
顔の左側に違和感があるのですが…。
2日前から左の耳の後ろあたりから顔の左側(顎から口元、鼻の横あたりまで)放射線状にビリビリというかモヤモヤというか違和感があります。痛くはなく、何か気持ち悪い感覚です。 肩こりかとも思い、マッサージや湿布薬を貼っていますが、悪化することなく、改善することなく。顔の動きは今のところ正常で、味覚もあります。 受診したほうがいいですか?このまま様子見でいいのでしょうか…。受診するとなると、どの科を受診したらいいでしょうか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「顔面神経麻痺」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。