IgA血管炎とは血管性紫斑病ともよばれる疾患で、病名の通り主な症状は皮膚の紫斑ですが、腹部症状や腎症を引き起こすこともあります。IgA血管炎は小児に多い病気ですが、成人の発症も認められており、末期の腎不全となる場合もあるため注意が必要です。記事3では、東京大学大学院医学系研究科・医学部、皮膚科学教室の講師である吉崎歩(よしざきあゆみ)先生にお話を伺いました。
IgA血管炎とは、血管性紫斑病やヘノッホ=シェーンライン紫斑病、アナフィラクトイド紫斑病、アレルギー性紫斑病など多くの名称でよばれている疾患です。
(血管炎の分類については記事1『血管炎(血管炎症候群)とは?原因や症状、検査方法について』をご覧ください)
紫斑病の名称が多く使われていることから明らかなように「皮膚に紫斑を伴う疾患である」と定義されています。病態の形成にはIgA型の抗体が関連するとされており、皮膚生検で血管壁にIgAの沈着が認められることを特徴の一つとします。
患者さんの血液中にはIgA免疫複合体の存在が認められることもあり、これが血管壁に沈着して、炎症反応が起こると考えられており、免疫複合体性血管炎として捉えられています。
IgAは抗体ですから、対応する抗原が存在するはずですが、現在までのところ、血管炎を引き起こす原因として、細菌やウイルス、リケッチアによる感染、薬剤、悪性腫瘍、食物が想定されており、これらがIgAと結合する抗原になると考えられています。
小児のIgA血管炎では30〜50%の症例で、溶血性レンサ球菌による上気道の先行感染を認めたという報告があり、溶血性レンサ球菌はIgA血管炎の主要な原因として重視されています。しかしながら、特に成人では、原因が特定できない例も多く見られ、未だに病態は解明できていません。
IgA血管炎では、はじめは皮膚に紅斑を伴う小さな丘疹(赤くニキビのような小さなもの)が現れ、すぐに紫斑へと変化します。
紅斑と紫斑の違いは、指で押して消えるか消えないかで判断します。紅斑は指で押すと消えますが、紫斑は血管からの出血ですから押しても消えません。
また、普通の紫斑は触っても平坦で指の感覚で認めることはできませんが、IgA血管炎の紫斑は触れると軽いしこり認める浸潤性紫斑であるという点が、最も大きな特徴です。
浸潤性紫斑は英語でpalpable purpuraと表現されますが、目をつぶっていてもわかる、まさに「手に触れる紫斑」という意味で、実際に患者さんを診察するたびに、実に的確な表現であると感じています。
典型的には多数の紫斑を生じ、なかには点状のものや、血疱(水ぶくれのようなもので中身が血液であるもの)となったもの、びらんや潰瘍になるものもあります。これらの皮疹は両下肢に左右対称性に生じることが多いですが、体幹や上肢、顔面に生じることもあります。軽度の搔痒や痛みを伴うことがありますが、自覚症状がないことがほとんどです。
IgA血管炎では、皮膚の紫斑に加えて内臓諸臓器に障害が及ぶことがあります。なかでも腹部症状、関節症状、腎症状を合併することは決してまれではなく、十分な注意が必要です。
腹部症状はIgA血管炎の50〜65%に認められ、軽度の嘔気、嘔吐、腹痛といった症状であることが多いです。しかしながら、強い腹痛や下血を来すこともあり、時に開腹手術を要するほどの病変を生じることもあります。腹部症状は紫斑が現れる以前より出現することがあり、腹部狭心症(abdominal angina)と呼ばれるほどの激しい腹痛が出現した際には、原因不明のまま緊急開腹手術が行われてしまうことがあるほどです。
関節痛や関節炎はIgA血管炎の60〜75%に見られるとされ、膝や足関節の腫脹や痛みが一過性に生じます。運動時に痛みの増強が見られることもありますが、日常生活に支障を来すほど重症化することはまれです。
腹部症状と関節症状はIgA血管炎の初期に見られることが多く、一過性に経過するため長期に渡って問題となることはほとんどありませんが、20〜55%の患者さんに見られる腎症は、時に慢性化して透析が必要となり、患者さんのQOL(Quality of life)を大きく障害することがありますので、特に注意が必要です。
IgA血管炎は4〜7歳の男児に多く認められます。日本での患児数の明確なデータはありませんが、欧米の報告を参考にすると10万人あたり10〜20人であり、成人の患者数は小児の5分の1〜10分の1とされています。
また、発症には季節性があり、秋と冬に多く、夏には少ない傾向があります。
一般的に成人に発症したIgA血管炎は小児の場合と比較し再発率が高く、重度の腎障害を来すことが多いことも特徴です。
まず、成人における小型血管炎では、ANCA関連血管炎、皮膚白血球破砕性血管炎、続発性血管炎などを鑑別する必要があるため、皮膚生検を行い、直接蛍光抗体法という検査で小型血管にIgAの沈着があるかどうかを確認することが重要になります。
皮膚生検には、皮膚の浅い部分であれば生検トレパンというもので皮膚を採取します。生検トレパンは筒状のメスになっており、皮膚に押し当てることで切り取って採取できます。
小児においては、以下の小児血管炎分類基準にみられるように、必ずしも皮膚生検で血管壁にIgAの沈着を証明できない場合でも、臨床症状などでIgA血管炎と診断できることがあります。
これは、小児に皮膚生検を行う難しさもさることながら、小児においては血管炎の90%がIgA血管炎であるという疫学的研究があり、他の小型血管炎を発症する可能性がほとんどないためです。
もちろん小児や成人かかわらず、他の紫斑をきたす疾患を鑑別する目的で、血算や一般的生化学的検査を含めた血液検査は必要です。
特に腎症の合併は、その後の経過や治療方針に大きな影響を与えますので、簡便に行うことができる尿検査は必須となります。腎症が重度の場合には、腎生検が行われることもあります。
腹部症状がある場合には、腸重積や腸管穿孔、腸管壊死の有無を確認する目的で検便や腹部エコー検査を行います。
また、まれではありますが一過性の肝腫大、筋肉内出血、痙攣発作などの神経症状、視神経炎などの眼症状、陰嚢内出血、精巣捻転、呼吸器症状、心筋梗塞などを合併したという報告もあるため、これらの症状を見逃さないように、問診を含めた注意深い診察が重要です。
症状が皮膚症状のみであるなど、軽症の場合は、安静にすることで病状は自然と治癒へ向かっていきます。腎症や腹部症状、関節症状を伴っていても症状が軽度の場合であれば、やはり安静と飲水量を保つことで自然と軽快することがほとんどです。
上述のような安静を保つだけでは病状が改善しない場合には、症状や程度に合わせてあらゆる治療が行われます。
薬物治療では、トラネキサム酸やカルバゾクロムなどの止血作用、循環改善作用のある薬剤を使用されることが多いです。ジアミノジフェニルスルホンやコルヒチン、短期の副腎皮質ステロイドの投与を考慮することもあります。高度の血尿や蛋白尿、クレアチニンクリアランスの低下、血圧上昇、ネフローゼ症候群を認めた場合には、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による治療が行われます。血漿交換療法や免疫グロブリン大量静注療法、扁桃摘出が選択されることもあります。
強い腹痛や下血がある場合には、副腎皮質ステロイドの投与が行われ、腸重積や腸管穿孔、腸管壊死がある場合には開腹手術が必要となります。腹部症状には凝固因子(血液を固めるために必要な因子)である第XIII因子の低下が関連するという報告もあり、血液凝固第XIII因子製剤が投与されることもあります。
歩行障害などの日常生活に支障を来すほどの関節症状を認めた際には、非ステロイド性抗炎症薬が用いられます。これに関しても、第XIII因子の補充やジアミノジフェニルスルホンが有効であるとする報告もあります。
多くは外来で経過をみているうちに治癒していきますが、入院が必要になることもあり、患者さんへ時として症状の重症化、遷延化(せんえんか)が起こりうることをお伝えし、油断せずに治療を行うことが大切です。
小児の場合、腎症以外の症状は1ヵ月以内に寛解(完治ではないが、病状がおさまること)することが多いです。いくつかの疫学的研究によると、約3分の2の患者さんは再発することなく経過します。残りの3分の1の症例において4ヵ月以内に再発が認められていますが、発症時よりも軽度であるとされています。
また、システマティック・レビュー(現存する文献をまんべんなく調査して分析を行うこと)によると、3分の1の症例では尿所見の異常が認められましたが、腎炎やネフローゼ症候群まで進んだものはそのうち7%であり、永続的な腎機能障害に至った症例は1.8%であったと報告されています。
このように、小児の場合では、IgA血管炎の予後は良好で、いわゆる後遺症を残すことはまれであると考えます。
一方、成人の場合は32%の患者さんに発症から4ヵ月以内に腎機能不全をきたし、このうち3割が重症腎不全、1割が末期の腎不全を呈したと報告されています。
さまざまな報告がありますので、正確なところを述べるのはなかなか難しいですが、一般的に成人では小児に比べ重症で、特に問題になるのは腎不全への進行であるといえます。
IgA血管炎に対する一般的な疾患イメージとしては、もともと元気な就学前後の男の子が、受診の少し前に風邪を引き、その後両足にぽつぽつとした紫斑を認め、ときに腹痛や血尿を認めるものの、自然と治っていく、というものだと考えられることが多いです。
しかし、成人の場合には必ずしもそうではなく、小児であったとしても腎不全へ移行する可能性があるという認識を持って治療にあたることが重要だと考えています。
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