リサーチマインドを持ったSurgeon Scientistを育て、可能な限り多くの新しいエビデンスを残していきたい

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リサーチマインドを持ったSurgeon Scientistを育て、可能な限り多くの新しいエビデンスを残していきたい

臨床と研究、教育から医工連携まで幅広いフィールドで活躍する江藤 正俊先生のストーリー

九州大学大学院 医学研究院 泌尿器科学分野 教授
江藤 正俊 先生

腎臓系を扱う外科医を志し、父と同じ泌尿器科医に

「なぜ泌尿器科を選んだのですか?」これは研修医の頃からよく言われたことでした。実際、泌尿器科をしているとよく尋ねられることなのですが、私が医師になりたいと思い、最終的に泌尿器科を選ぶまでには、いくつかのきっかけがありました。

そのひとつとして挙げられるのは、久留米大学で泌尿器科の教授をしていた父の影響です。私の兄も久留米大学に進学して医師になりましたが、当初は父と同じ泌尿器科を考えていたようです。しかし、同じ医局に親子がいると何かとやりづらい面もあると思ったのでしょう。兄は最終的に眼科を選びました。

一方、私は最初から外科系に進むことを決めており、九州大学では第一外科か泌尿器科に入りたいと思っていました。もともと腎臓に関係する外科をやりたいという気持ちがあったため最終的に泌尿器科を選びましたが、父とは医局が違うので兄のような気遣いをする必要はまったくありませんでした。

このように、私と兄が医師を目指したきっかけは、父が医師だったことが大きいですが、私自身の「腎臓系を扱う外科医になりたい」という考えにしたがって医師の道に進むことができたので、やはり泌尿器科医になってよかったと思っています。

大学院で移植免疫を学び、がん免疫を自身の研究テーマに

研究、臨床のさまざまな面で恩師はいますが、研究面で特にお世話になったのは、九州大学 生体防御医学研究所におられた野本 亀久雄(のもと きくお)先生(第6代所長、名誉教授)です。

我々外科医に関わりのある免疫といえば、“移植免疫”と“がん免疫”の二つが挙げられますが、これらはいわば表と裏の関係にあります。移植免疫では拒絶反応に関わるT細胞のはたらきをいかに抑えるかということが重要です。一方、がん免疫ではがん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)、いわゆるキラーT細胞をいかに活性化させるかが大切です。

私は移植免疫から研究をスタートし、今の研究領域はがん免疫が中心となっています。がん免疫はこれまでずっと携わってきたフィールドで、大学院で免疫の勉強をさせてもらったことが、私にとって研究の一本の柱になっています。移植免疫とがん免疫を学ぶに当たり、最初に野本先生から研究面でさまざま指導いただいたことを、とても感謝しています。

開腹手術から腹腔鏡、そしてロボット支援手術へ――​​低侵襲治療の進歩と課題

臨床面では、私の先代の教授であった内藤 誠二(ないとう せいじ)先生(現・医療法人原三信病院 名誉院長)から腹腔鏡手術の手ほどきを受け、ロボット支援手術にも関わる機会をいただきました。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて患者さんの体の負担が少なく、より低侵襲な治療です。低侵襲治療を臨床面でのメインテーマとしている私の原点は、内藤先生のもとで研鑽を積ませていただいた経験にあるのだと思います。

最近では、腹腔鏡手術の進化型ともいえる“ダヴィンチ”によるロボット支援手術を中心に学び、開腹手術はあまり経験していないという若い医師もいるほど、時代は変化してきています。しかし、低侵襲治療が主流になっても、難しい一部の症例では従来の開腹手術が適していることがあります。また、最初は腹腔鏡で手術を始めても、状況によっては開腹手術に切り替えることもあります。そのような場合に、開腹手術の経験がない若い医師では、対処できないということも起こり得ます。ですから今後は、開腹手術を若手医師の教育の機会として有効に生かすことも考えなくてはなりません。

また、腹腔鏡手術やロボット支援手術の普及に伴い、拡大視野で精細な画像を見ることができるようになり、これまで直接見ることができなかった膜構造などが分かるようになってきました。実際、私自身も“ダヴィンチ”でロボット支援手術を行うことによって理解した構造を、開腹手術に応用した経験があります。数少ない開腹手術の機会を最大限に生かすためにも、これからの若い世代の医師は、腹腔鏡やロボット支援による手術を通して、より精緻な解剖を理解することが大事であると思います。

先人が築いた基盤を生かし、医工連携によるイノベーションを推進

私が2020年1月現在、センター長を務めている“九州大学 先端医療イノベーションセンター”では、さまざまなプロジェクトが進行しています。これまでに、腹腔鏡や手術支援ロボット“ダヴィンチ”を用いた手術を安全に進めるための手術ナビゲーションシステムの開発などを手がけました。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトでは、新しいマイクロロボットの開発も進んでいます。

私も現センター長として、先人が築いてきた基盤を生かし、医工連携による先端医療のイノベーションを推進していきたいと考えています。

Surgeon Scientistを育成し、臨床研究を通して新しいエビデンスを残したい

“Surgeon Scientist”という言葉があります。外科医として診療も行う研究者、と言えばよいでしょうか。教育という意味において、私はこの姿勢がとても大切であると考えています。自分の基盤となる研究をしっかりと続けることで得た着想や考え方は、臨床面での治療法に対する考え方にも必ず生きてくるでしょう。ですから私は指導医として、リサーチマインドを持った外科医を育てていきたいと思っています。

もちろん、外科医である以上、臨床でしっかりとした仕事ができることは大前提ですから、若いうちに臨床で研鑽を積むことをないがしろにしてはいけません。しかし、さらにその上を目指すのであれば、臨床にプラスして研究に取り組むことが大切です。リサーチマインドを持つことで、臨床にフィードバックできることはきっとあるからです。このことは新しく医局に入ってくる先生方にもよく話しています。

もうひとつ、今やるべきこととして考えているのは、現在進行している臨床研究などを通して、可能な限り多くの新しいエビデンスを残していくということです。2019年に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)で採択された“結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対して医療費適正化を目指した凍結療法の安全性と有効性の検討”という医師主導の臨床研究もまさにそのひとつです。この研究が新たな標準治療としてガイドラインに反映されるようなエビデンスにつながれば、という思いで、これからも研究活動に取り組んでいきます。

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