院長インタビュー

東京都文京区・都立駒込病院の取り組み-患者さんがその人らしく生き抜くことを支援する

東京都文京区・都立駒込病院の取り組み-患者さんがその人らしく生き抜くことを支援する
鳶巣 賢一 先生

がん・感染症センター都立駒込病院 院長/腎泌尿器外科

鳶巣 賢一 先生

この記事の最終更新は2017年05月25日です。

東京都文京区の都立駒込病院は、がんや感染症の専門的医療に特化した病院です。しかし、それだけではありません。がんや感染症に伴い発症するあらゆる疾患に対応できる病院でもあります。最先端の技術や設備とともに高度な医療サービスを提供する背景には、インフォームド・コンセントとチーム医療を徹底する姿勢があります。「医療を通して人がその人らしく生き抜くことを支援する」という理念にはどのような思いが込められているのでしょうか。今回は、都立駒込病院の鳶巣 賢一(とびす けんいち)先生に、同病院の取り組みや患者さんへの思いをお話しいただきました。

写真提供:都立駒込病院

私たち都立駒込病院は、東京都がん診療連携拠点病院の1つです。そのため、がんの診療・治療には特に力を入れており、がんの患者さんを積極的に受け入れています。また、エイズ診療中核拠点病院、第一種感染症指定医療機関の認定を受けており、特殊な感染症に対する専門的な医療に特化した病院でもあります。

同時に、当院は総合診療基盤を持つがんセンターを有しており、併発する疾患の治療にも幅広く対応しています。それは、必ずしもがんの患者さんはがんのみに羅患しているわけではないからです。特に高齢化の進行とともに、がんの患者さんのなかには、腎不全心疾患糖尿病HIV感染症など他の疾患を併発している方が多くいます。

私たちは、どんな疾患を合わせ持つ方も可能な限り受け入れ治療をするようにしています。たとえば、HIVに感染した患者さんが、がんに羅患するケースがありますが、このようにHIVに感染しているがん患者さんも受け入れ治療にあたっています。

緩和ケア病棟では、家族、ボランティアと共に料理や食事・喫茶を楽しめるキッチンを設けている(写真提供:都立駒込病院)

都立駒込病院では、高度な技術と医療機器により、重篤な患者さんに対しても高い治療効果を実現しています。以下はいくつかの事例です。

私たちは造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)推進拠点病院として、国内有数の移植症例実績に基づく最先端の治療を提供しており、2016年度には120件の造血幹細胞移植治療の実績があります。造血幹細胞移植とは、正常な血液を作ることが困難になってしまう白血病などの疾患の患者さんに適応される治療であり、正常な血液を作ることができるよう造血幹細胞を移植することです。特に、当院は、血縁HLA致移植(ハプロ移植)という難しい患者さんの治療にも積極的に取り組んでいる点が特徴でしょう。

また、都立駒込病院では高精度の放射線治療機器を導入しています。従来のがんの放射線治療では、正常組織への照射を避けることができないために副作用が大きな課題となっていました。しかし、当院で導入している高精度の放射線治療設備は、高い効果と副作用の軽減に成功しています。特に、2017年現在、サイバーナイフ、トモセラピー、ヴェロという最新の放射線治療機器を3台そろえており、今後はさらに高い治療効果が期待できるでしょう。

都立駒込病院で導入している高精度放射線治療機器(写真提供:都立駒込病院)

当院は、「医療を通して人がその人らしく生き抜くことを支援する」という理念のもとに、医療に取り組んでいます。それは、患者さんが納得した生き方ができるよう支援することが私たち病院の役割であると考えているからです。ある病気であると診断されると、そのときから追加の検査や治療が開始されますが、当然のことながらその後も患者さんは生きていかなければなりません。サバイバーとして生きていくなかで、自分らしく生きる患者さんの選択をできる限りサポートしたいと願っています。

そのために、私たちは、特にインフォームド・コンセントを大切にしています。インフォームド・コンセントとは、患者さんに治療方針を十分に理解してもらったうえで、納得して治療に取り組んでもらうことです。このインフォームド・コンセントは、患者さんの治療方針の納得につながることはもちろんですが、私はそれだけではないと考えています。きちんと対話をすることで心が癒され、信頼関係や心の絆を築くことにもつながるのではないでしょうか。そのため、都立駒込病院のスタッフにはインフォームド・コンセントを徹底するよう指導しています。

また、お話ししたインフォームド・コンセントは、患者さんに対してだけでなく、職員間にも徹底しています。職員に対しても十分に話し合い、お互いに納得した上で協働する姿勢を求めています。私たちは、この姿勢を基本としたチーム医療を実現しています。このチーム医療には医療者だけでなく患者さんやご家族も含み、さらに、直接医療行為をすることがない、事務などの職種のスタッフも含んでいます。

私たちは、多職種で患者さんの治療方針を検討するキャンサーボード(手術、放射線療法及び化学療法に携わる専門的な知識及び技能を有する医師や、その他の専門医師及び医療スタッフ等が参集し、がん患者の症状、状態及び治療方針等を意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンスのこと)を積極的に実施しています。また、多職種による臨床倫理専門委員会を定期的に実施し、治療適応について議論しています。これらは主治医1人で治療を決定するのではなく、多様な意見のなかで、より良い医療を提供したいという思いのもとで取り組んでいます。

キャンサーボードの風景(写真提供:都立駒込病院)

また、当院ではQCサークル活動という、多職種のメンバーで構成されたチームが病院の課題解決に取り組む活動をしています。たとえば、あるチームでは、皮膚がんを切除したあとの植皮手術をした患者さんに、自己ケアを教えるDVDを作成しました。看護師や皮膚科の医師、事務職員などが一丸となり、患者さんの術後のケア向上のために取り組んだのです。結果として、皮膚がんの患者さんのQOL(生活の質)向上につながり、当院の医療サービスの質の向上に寄与した1つの例です。また、このような活動に日頃から取り組むことで、職種を超え相談しあえる関係を築くことにもつながっていると感じます。

QCサークル活動の発表の様子(写真提供:都立駒込病院)

また、私たちは、地域の医療機関や地域住民の方たちとの連携も推進しています。たとえば、当院では連携医登録制度を導入し、地域医療機関とのネットワークを築いています。それは、当院の医師と連携のクリニックの医師がお互いに事情がわかっているほうが、信頼して患者さんをお任せすることができると考えているからです。また、地元のクリニックや調剤薬局と共同で勉強会もおこなっており、地域の医療機関とは日頃からよい関係を築くよう努めています。

さらに、地域の病院として、地域住民の皆さんへの啓発活動にも取り組んでいます。たとえば、地域の小学校においてがん教育を実施したり、定期的に市民公開講座を開催したりしています。

当院の1階の正面玄関脇には、患者サポートセンターを設けています。患者さんの目につきやすく相談しやすいように、最も目立つ場所に設置しました。ここでは、医療・介護に関する相談・説明、心の問題や経済的な問題、さらには患者さんの就労支援に関する相談にも乗っています。さらに、がんの患者さんのご家族の相談に精神科の医師が対応するような体制もできています。現状では、様々な相談に応じる要員は約20名程度いますが、将来的にはもっと人員を増やしたいと考えています。

患者サポートセンター(写真提供:都立駒込病院)

可能であれば、私は患者さん一人ひとりに案内役をつけたいくらいなのです。それくらい、たくさんの診療科がありシステムが複雑な病院のなかで迷ってしまったり、治療に不安を感じる患者さんを減らしたいと考えており、今後も患者さんへの支援体制には力を入れていきたいと考えています。

患者さんのための医療情報室「こまどり」(写真提供:都立駒込病院)

私は、患者さんには自分の人生を自分で選びとる勇気を持ってほしいと願っています。病気を診断され辛いこともあるかもしれませんが、自分が背負った宿命から目を背けないでほしいのです。可能であれば、病気を契機に強くなってほしいと願っています。そのために、患者さんにとって、少しの知識や心の準備も重要になるでしょう。

繰り返しになりますが、ある病気であると診断され、検査や治療を受ける間も患者さんは生きていかなければいけません。患者さんがなるべく納得した生き方ができるように支援することが私たち病院の役割であると考えています。患者さんにとって最善の選択とは何か、私たちも共に考え、その実現のために今後も精一杯取り組んでいくつもりです。

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