院長インタビュー

山形県で唯一の大学病院として、医師・看護師の教育と医療の発展に尽力する山形大学医学部附属病院

山形県で唯一の大学病院として、医師・看護師の教育と医療の発展に尽力する山形大学医学部附属病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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山形県山形市にある山形大学医学部附属病院は、山形県で唯一の医学部に併設された病院として1976年に開院しました。救急指定病院や地域がん診療連携拠点病院など、多くの指定を受ける県内の基幹的な病院の1つとして地域医療を支えている同院の役割や今後について、病院長の土谷 順彦(つちや のりひこ)先生にお話を伺いました。

当院は1976年に開院しました。その後は2005年に新病棟の建築と既存の病棟の大改修を含めた再整備を始めるなど規模の拡大を進め、開院当初の15診療科・病床数320床から、25診療科・病床数637床に増えています。特定機能病院をはじめ、救急指定病院、地域がん診療連携拠点病院など多くの指定を受ける県内の基幹的な病院の1で、2019年にはがんゲノム医療拠点病院の指定を受け、多くのゲノムパネル検査を実施し、患者さんの遺伝子異常に合わせた治療を推奨してきました。救急においては2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)と3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を担っており、医療圏における最後の砦として、重篤な急性期の患者さんを中心に受け入れています。

掲げている基本理念は、

  1. 診療科間の垣根を取り払い、病院全体として適切な医療を提供します。
  2. 情報開示に努め、社会に開かれた病院を目指します。
  3. 個々の患者さんに適した先進医療の開発・導入に努めます。
  4. 厳しい倫理観を持った創造的な医療人を育成します。

の4つです。この基本理念に基づき、“医師や看護師の教育”と“将来の医療の発展につながる医学研究を行う”という大学病院の使命を果たすため、研鑽を重ねてまいりました。同時に地域の皆さんには、安全を最優先とした新しい医療を提供しています。

当院は新しい医療機器を積極的に導入し、治療に活用しています。たとえば、内視鏡下手術では、患者さんの体への負担を軽減できる手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”の最新機種を2023年4月に導入し、2台体制で診療しています。同ロボットによる手術は2012年から実施しており、2022年には症例数が1000件に達しました。当初は泌尿器科の手術で使っておりましたが、最近では呼吸器や消化器などの外科手術や、婦人科の手術が増えています。今年度(2024年)は、コンピュータのナビゲーションによって高精度な人工関節置換手術ができる手術支援ロボット“Mako(メイコー)”による治療が始まっており、VR(仮想現実)技術を活用したリハビリテーション用訓練装置“KAGURA(カグラ)”の導入が決まっています。リハビリは数年前から歩行訓練ロボットを導入して活用していますが、KAGURAの導入でデジタル技術の活用が本格的に始まります。

2024年から東北地方で2番目となる、CAR-T細胞治療を始めました。CAR-T細胞療法は、従来の治療法で再発したがんや難治性のがんに対する治療法で、現在白血病やリンパ腫に対して適応となっています。遺伝子導入により改変させた患者さん自身の細胞を用いて治療を行います。CAR-T細胞治療を希望する患者さんは、これまで仙台や関東の方まで出かけて治療を受けていました。今後は当院で治療可能になったことで、患者さんの負担が大幅に軽減し、治療のスピード感もかなり高まるかと思います。

当院のがん治療では、一般的な外科手術と薬物療法に放射線治療を組み合わせた集学的医療を提供しています。放射線治療については、⼀般的に使われているエックス線のほか、重粒子線(炭素イオン)を、がん病巣に集中的かつ高速で照射する治療法“重粒子線治療”も提供しているのが特徴で、重粒子線を絡めた臨床試験も実施しています。重粒子線治療ができる病院は少なく、外科手術と重粒子線治療を組み合わせた治療は難しいといわれています。その点当院は、重粒子線治療を行っている東日本重粒子センターと廊下でつながっていますので、治療もスムーズに受けられます。

当院は、日本医療機能評価機構による病院機能評価“一般病院3(3rdG:Ver.2.0)”の審査を受けています。病院機能評価は、第三者機関である同機構が「患者中心の医療が推進されているか・良質な医療が提供されているか・理念達成に向けた組織運営がされているか」などといった観点から評価し、基準をクリアした場合に認定する制度です。一定の水準を満たした病院である証となりますので、患者さんは安心して受診いただけるかと思います。

当院では地元企業との医工連携会を定期的に開催しています。当初は当院の医師の要望をもとに、どのような製品が提供できそうなのかご提案いただいておりました。しかし、回を重ねるごとにアイディアが限られてきたため、昨年(2023年)からは医師に加えて、看護師や臨床工学技士などの他の医療スタッフからの多様な医療ニーズを紹介することで好評を得ました。今年(2024年)8月には初の試みとして、地元企業展示会を開催しました。展示会の趣旨は、県内企業の技術力・製品について広く知ってもらうことで、県内企業と山形大学医学部の連携による医療機器等の開発をさらに促進していくことです。企業の皆さんによる展示ブースを設け、多くの企業に出展・参加いただきました。職種を問わず多くの職員が参加し、実際の製品や技術を見ながら、企業のシーズをどのように医療の現場に生かせるか、活発に意見交換がなされていました。医療機器の開発はなかなか難しいのですが、こうした取り組みは大学病院でなければできません。医療と県内企業の発展のために今後も継続していきます。

当院がある山形県は急激な人口減少と高齢化が進む県の1つで、それにともなって当院へいらっしゃる患者さんがお持ちの病気も変化しています。足元ではお子さんの数の減少に伴った小児科の病気や、婦人科の病気などは減少傾向が目立ちます。そのほかの病気については横ばいか減少傾向にあるものが多く、増加しているのは高齢者の肺炎骨折など一部です。そのような中、大学病院という立場から新しい技術を積極的に導入し、質の高い医療の提供に努めてきました。こうした努力は今後も続けていく一方で、10年後を見据えると、高齢者の人口そのものが減少に転じてきますので、地域の皆さんの医療ニーズも変化すると思われます。こうした変化に対応するため常に先を見据えながら、今後も大学病院として皆さんの期待にお応えできるように努力してまいりたいと思います。

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