院長インタビュー

地域で“信頼の連鎖”を築いていく 麻生総合病院の取り組み

地域で“信頼の連鎖”を築いていく 麻生総合病院の取り組み
菅 泰博 先生

麻生総合病院 理事長/病院長

菅 泰博 先生

目次
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川崎市北部にある麻生総合病院は1982年に開院以来、周辺の医療機関・介護施設と連携しながら地域の皆さんに質の高い安心の医療を提供できるよう努めています。特に救急医療に力を入れており、24時間365日体制で患者さんを受け入れる“断らない医療”を実践しています。また、高齢化が進む地域のニーズに合わせ、診療体制や病床の変革にも積極的に取り組んでいます。

地域に密着しながら幅広く患者さんを受け入れている麻生総合病院の取り組みについて、麻生総合病院 理事長・病院長 菅 泰博(すが やすひろ)先生にお話を伺いました。

麻生総合病院外観
麻生総合病院外観(提供:麻生総合病院)

麻生総合病院は1982年に川崎市麻生区に開院しました。開院当時の病床数は68床でしたが、増築を繰り返し、2023年現在は病床数199床という規模になりました。一般病床だけでなく、2019年には重症患者さんの管理を目的としたHCU(高度治療室)病棟を8床新設しており、地域包括ケア病棟は30床から50床に増床しました。

麻生総合病院を運営している医療法人社団 総生会では麻生総合病院だけでなく、麻生リハビリ総合病院、総生会訪問看護ステーション、総生会ロイヤルホーム(介護付有料老人ホーム)、総生会健診センター、総生会居宅介護支援センターを運営しており、それぞれの施設の連携によって幅広く患者さんを受け入れています。

麻生総合病院では、“患者様が安心して、入院治療を受けられる”ことを目的に、2019年より入退院支援室を開設しています。入退院支援室は、地域医療との連携や病床管理を担当する部門と、医療福祉面での相談を担当する部門で役割を分けています。

地域医療連携部門

他院からの紹介患者さんの受け入れを調整したり、当院から適切な医療機関の紹介を行ったりしています。地域の医療機関とのスムーズな連携を実現し、患者さんにとって適切な医療が受けられるように体制を整えています。

医療福祉相談部門

退院後の生活に関する不安、転院や介護施設に関する相談や利用できる社会福祉制度の紹介など、療養生活の中で抱える身体面・経済面・心理面・社会面での問題を、社会福祉士が中心となって支援しています。

麻生総合病院では、2015年に地域包括ケア病棟を開設しました。当法人ではグループ全体で患者さんの在宅復帰率を高めることを目標としています。そのため当院の地域包括ケア病棟では、在宅復帰までの多様なニーズに応え、患者さんの在宅復帰率を高めることを目指しています。たとえば、急性期の治療後にリハビリテーション(以下、リハビリ)が必要な患者さんや、リハビリが必要であるにもかかわらず同法人施設の麻生リハビリ総合病院[回復期入院料1算定]の入院適応がない患者さんなどを受け入れています。

整形外科手術(麻生総合病院提供)
整形外科の手術(提供:麻生総合病院)

当院の整形外科は、交通事故やスポーツによる外傷脊椎脊髄疾患(せきついせきずいしっかん)、関節疾患など、各分野で専門の医師が幅広い領域の治療を行っていることが特徴です。

また、救急の受け入れも行っており、24時間体制で整形外科領域の診療を行えるよう調整しています。さらに、併設の麻生リハビリ総合病院と連携していることから、必要に応じて治療後のリハビリまで継続的なサポートが可能となっています。

川崎市麻生区は高齢の方が多い地域であり、日本一長寿の町*ともいわれています。高齢になると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの影響で骨が(もろ)くなることもあり、転倒による骨折なども増加します。そうした背景から整形外科を受診される方も多く、人工骨頭(大腿骨、橈骨、肩)の手術や、人工関節置換術(膝、股)などの手術も積極的に行っています。いずれの手術も年間で100件前後**対応しており、整形外科ではほとんど毎日のように手術が行われています。

また、スポーツ整形外科ではチームドクターとしての実践経験を持つ鈴木 一秀(すずき かずひで)先生が部長を務めており、早期の競技復帰が望めるよう、内視鏡(関節鏡)による低侵襲(ていしんしゅう)な治療などを積極的に行っています。2023年6月からは、テニス肘やスポーツによる膝蓋腱炎(しつがいけんえん)疲労骨折などの難治性疾患に対する体外衝撃波治療(ESWT)も導入しています。

*厚生労働省発表「令和2年市区町村別生命表」参照

**人工骨頭(大腿骨、橈骨、肩)/2022年度実績:107件、2023年(10月時点):108件、人工股関節置換術/2022年度実績:41件、2023年(10月時点)実績:47件、人工膝関節置換術/2022年度実績:56件、2023年(10月時点)実績:34件

2023年4月より、緑内障白内障を専門とする野呂 隆彦(のろ たかひこ)先生が着任されたことから、眼科領域の手術も増えてきています。現在は、白内障や緑内障の手術を中心に毎月30~40件*の手術を行っています。

白内障や緑内障は高齢の方に多い病気であり、今後もますます患者さんが増えることが予想されますが、当院では白内障と緑内障を合併しているような例など、難しい症例にも対応が可能です。

*水晶体再建術(白内障手術)/2022年度実績:330件、2023年(10月時点):273件、緑内障手術/2022年度実績:9件、2023年(10月時点):12件、水晶体再建術+緑内障手術/2022年度実績:20件、2023年(10月時点):60件

麻生総合病院と麻生リハビリ総合病院(提供:麻生総合病院)
麻生総合病院と麻生リハビリ総合病院(提供:麻生総合病院)

併設の麻生リハビリ総合病院では、脳血管疾患や大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)などの病気を脱した後も、継続的にサポートを必要とする患者さんを支えています。180床ある病床全てが回復期リハビリ病棟であり、リハビリに特化した医療の提供が可能となっています。

当法人内の総生会ロイヤルホーム(介護付有料老人ホーム)ではリハビリを行う体制を強化しており、入居者は週に3回まで無料でリハビリを受けられます。特に高齢の患者さんは治療後、在宅で思うようにリハビリを行うことができず、日々の生活で必要となる動作をこなしていく機能(日常生活動作:ADL)が低下してしまうことが多くあります。しかし私たちは、患者さんが日常生活動作を維持できるよう、専門家の下で定期的にリハビリを行っていただく環境を整えていますので、安心してご入居いただけるのではないかと思います。

麻生総合病院の救急総合診療科では、スタッフが一丸となって可能な限り“断らない医療”に日々取り組んでいます。当院の位置する川崎市北部地域では救急要請が増加傾向にあり、救急車の受け入れ体制強化が地域全体の課題となっています。そこで、当院では2016年4月に救急総合診療科を設置し、緊急度や重症度にかかわらず患者さんを受け入れて、トリアージ(治療の優先順位をつけること)を行う、ER型診療を開始しました。

現在、救急総合診療科の常勤医師は5名おり(2023年11月時点)、非常勤の医師とシフト制で24時間365日の勤務にあたっています。救急車受け入れ台数は年間3,000件*を超え年々増加しており、病床数に対して考えると受け入れ台数がかなり多いのではないかと思います。

また、前述のとおり2019年よりHCUを新たに設けており、重症の患者さんの管理もスムーズに行えるようになりました。HCUでは、がんの手術や両側の人工関節手術など大きな手術の術後管理も行っており、医療安全度をより高い水準で守れるような環境になっていると感じます。

*救急車受入件数/2020年:3,433件、2021年:3,338件、2022年:3,800件

私たちは“常に最善を飽くことなく追求し質の高い安心の医療を提供する”という理念を掲げ、以下の5項目である“5つの高める”に重きを置きながら医療に取り組んでいます。

  • 法人の社会的価値を高める
  • 経営の透明性を高める
  • コンプライアンス(法令遵守)の意識を高める
  • 公平性を高める
  • 職員のロイヤリティを高める

病院には堅苦しいイメージがあるという方も多いかもしれませんが、私たちは地域の皆さんと“信頼の連鎖”を築いていけるような病院でありたいと考えています。院内では、患者さんとスタッフ、スタッフ同士がコミュニケーションを取りやすい雰囲気をつくるために、みんな挨拶をきちんと行います。また、人と人とのつながりがよい医療を生むと考え、私自身もスタッフの顔と名前を覚えて自ら話しかけるように心がけています。

麻生総合病院では診療看護師(NP)*を導入しています。診療看護師とは、大学院で医学知識を学び特別な資格を取得した看護師で、医師の指導の下でこれまで看護師が認められなかったような診療を行うことが可能です。チーム医療の推進を担う存在として、当院では診療看護師の役割に期待しています。院内で診療看護師を目指す方を支援しており、資格取得補助制度も用意しているので、看護師の皆さんに積極的に活用していただきたいです。

*診療看護師(NP)/ NP認定試験(日本NP教育大学院協議会)に合格した看護師を指す。

麻生総合病院の大きな特徴として事務職スタッフが非常に生き生きと働いているということが挙げられます。事務職スタッフは事務だけに専念してしまいがちですが、当院の事務職スタッフは日頃から医学に興味を持ち、医療者や患者さんの気持ちを理解しようという姿勢を大事にしています。具体的には医療経営士*(医療機関のマネジメントに関する資格)の資格試験を受験したり、興味のあるワークショップなどに自ら参加したり、積極的に医学を学んでいます。また、イントラネット(院内のプライベートネットワーク)で事務職スタッフを中心に医療ニュースを共有するなどの取り組みも行っています。私は事務職スタッフの成長が医療者の働きやすい環境につながると考えていますので、今後も事務職スタッフの成長をサポートしていきたいと考えています。

*医療経営士/一般社団法人日本医療経営実践協会が認定した資格取得者を指す。

健診センター(提供:麻生総合病院)
健診センター(提供:麻生総合病院)

ますます高齢化が進むなかで、今後は病気を複数抱えている患者さんを診ることが当たり前になると考えています。そのため、専門性に特化した医療はもちろん重要ですが、全身を診ることができる医師が必要になると思います。医師一人ひとりがさまざまな役割を持ちながら他科と協力し合い、診療を行える環境が理想です。

また、予防医学の観点も重要だと考えています。当院では2021年に女性診療科を立ち上げており、総生会健診センターと連携を取りながら乳腺や婦人科疾患の健診も行っています。今後も地域の皆さんにとって頼れる病院であるとともに、病気の早期発見にも貢献していければと考えています。

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