栃木県足利市にある足利赤十字病院は、一般病床を全室個室にした新施設を2011年に建設し、革新的な医療体制で業界の注目を集めています。
新施設のコンセプトや地域の中核病院としての役割について、同院の院長である室久 俊光先生にお話を伺いました。
当院は、1945年に日本医療団 足利地方病院として開院し、2025年に80周年を迎える伝統のある急性期病院です。
1949年には日本赤十字社に移管されて足利赤十字病院となり、23床の小さな病院からスタートして順調に医療規模を拡充してきました。現在は、28の診療科と540床の病床をもつ中核病院として地域医療の要を担っています。
当院は救急医療にも注力しており、年間5,000台以上のペースで救急車を受け入れ、約95%の応需率(要請に対して実際に救急車を受け入れた割合)を達成しています。
医療圏としては、足利市内の患者さんを中心に両毛医療圏75万人をカバーしており、他県からも多くの患者さんを受け入れています。
2011年のリニューアル移転に伴って完成した新施設は、省エネ化と利用者の快適性を追求する“グリーンホスピタル構想”や、一般病床をすべて個室にするといった革新的なアイデアで、医療業界に大きなインパクトを与えました。
近年は、手術支援ロボット”ダヴィンチ”の適用範囲を拡大するほか、2023年には新たに放射線治療装置“サイバーナイフ”を導入するなど、次々と先進的な取り組みを行っています。
従来の病室には、さまざまな課題がありました。例えば、多床病室では入院患者さん同士がお互いに気をつかわなければなりません。また、複数の患者さんが同じ部屋を利用すれば、感染症のリスクも高まります。
そこで当院では、すべての患者さんに快適な入院期間を過ごしていただけるよう、病室の全室個室を採用しました。
新施設での診療が始まってから、プライベートな空間で快適に過ごしていただくことが、患者さんの満足につながっていると日々実感しています。また個室の病床は、コロナ禍における感染症対策の面でも大いに役立ちました。
病室の全室個室と並行して、当院は診療科にとらわれない“混合病棟”を取り入れています。
また、従来よりすくない35個の病室で1つの看護単位を形成し、よりきめ細やかに患者さんをサポートできる画期的な看護体制となっています。
このように、当院は少しでも快適な入院生活を送っていただけるよう配慮し、患者さんを中心とした医療体制の構築に努めています。
従来の多床病室は男女を分ける必要があるため、すべての病床を埋めることが難しくなります。一方、病棟を診療科ごとに分けるシステムでは、多くの場合、特定の診療科に空き室が発生してしまいます。
当院が採用した全室個室と混合病棟は、こうした問題を解消して100%に近い病床稼働率を実現し、病院の経営面においても貢献しています。安定した経営は、医療の質を向上するために大切なことです。経営がうまくいっていれば職員の待遇を改善できますし、研究費の捻出により医療の発展にも貢献できます。また、医療設備を充実させることで先進医療に取り組み、患者さんのQOL(生活の質)の向上にもつながります。
当院では、入院患者さんへのサポートに加え、近隣の医療機関と連携して入院待機中の患者さんをサポートする “入退院センター”を設置しています。
同センターは、現在の病床の状況と照らし合わせて入院待機中の患者さんをスムーズに受け入れており、病床稼働率の向上に大変役立っています。
また、当院は急性期の診療に専念していますので、同センターを通じて慢性期の患者さんを地域の病院に紹介しています。
当院が採用している混合病棟は理想的なシステムでありますが、診療科ごとに患者さんが集まっていないため、医師の移動距離が長くなってしまうことが最大の課題でした。特に、患者さんの容態が急変し、緊急を要する場合に対応が遅れることは絶対に避けなければいけません。
そこで、新施設の設計ではバックヤードの整備と高速エレベーターの採用を盛り込みました。特に、5機の高速エレベーターを自動で制御し、目的の階に最速で移動できるシステムの導入が、混合病棟を実現する決め手となりました。
当院の新施設には、“次世代型のグリーンホスピタル”というコンセプトを導入しました。
自然エネルギーを積極的に活用して省エネを実現し、患者さんやスタッフが安心して快適に過ごせるような施設設計を採用しています。こうした取り組みが評価され、当院は国土交通省より“住宅・建築物省CO2推進モデル事業”の採択を受けることができました。
また、第27回空気調和・ 衛生工学会振興賞技術振興賞をはじめ、第1回カーボンニュートラル大賞、第11回環境・設備デザイン(BE賞)など数々の受賞にもつながっています。
当院では、一貫して“患者さん第一”に沿った取り組みを行っています。その結果、当院が年に一度行う満足度調査において、常に患者さんの80%以上から「満足である」とのご回答を頂いています。
当院は、さらに質の高い医療を目指しており、2015年に国際的な第三者評価機関であるJCI(Joint Commission International)の認証を取得し、国際的な医療機関として認められました。JCIの認証は、当院が日本の医療機関として9番目となります。
当院がJCIの認証を取得した理由は2つあります。
1つ目の理由は、JCIが規定する1,146項にも及ぶ審査項目をクリアして、医療と看護の質を高めるためです。
当院は、2011年に完成した新施設の設計段階からJCIの認証取得を進めており、厳しい審査項目に沿った設備設計により、高度な医療体制を整備してきました。
2つ目の理由は、患者さんの安心につなげるためです。JCIの認証を取得するために設けられた1,146の審査項目の多くは患者さんの安全面に関するものです。つまり、JCIの認証を得ている病院は、患者さんの安全面に関して国際的な評価基準を満たしていると言えます。
さまざまな疾患を抱える患者さんにとって、自分が入院している病院を信頼できるかどうかはとても重要なことだと考えています。しかし現状では、韓国、インド、シンガポールなどのアジア諸国に比べ、日本国内でJCIの認証を取得している医療機関はまだまだ多くありません。
JCIの認証取得は、医療水準の向上と患者さんの安心感につながりますので、今後、国内でも広まっていくことを願っています。
当院の医療圏には、ベトナムやスリランカなどからの移住者が多く見受けられます。
そこで当院は、多重言語に対応した各種説明書やビデオ通話の翻訳サービスなどを活用し、コミュニケーションがスムーズに行われるよう配慮しています。
また当院は、外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)の認証を取得しており、外国人患者の円滑な受け入れを推進しています。
当院は、栃木県から食品衛生に関するHACCP認証を取得しているほか、臨床検査室の技術能力を証明するISO15189も取得しています。
このように、第三者機関からの認証を積極的に取得しているのは、医療体制の強化という側面以外に、客観的な評価を受けることで患者さんに安心して頂きたいという思いがあります。
当院では、手術支援ロボットの“ダヴィンチXi”やハイブリッド手術室などを備えており、2023年には新しい放射線治療装置である“サイバーナイフ”を導入しました。
当院は、ダヴィンチやサイバーナイフを活用することで、これまで以上に有効で低侵襲(からだへの負担が少ない)な治療を実現しています。
ダヴィンチを導入した当初は、泌尿器科における前立腺がんの手術に活用していましたが、徐々に適用を拡大し、現在は泌尿器科の腎臓がん、呼吸器外科の肺がん、外科の直腸がん、結腸がん、胃がんなどの手術に役立てています。 今後は消化器外科の肝がんなどにも適用する方針です。
そのほか当院の循環器内科では、新たな取り組みとして不整脈に対する心臓カテーテルアブレーション治療にも力を入れています。
当院は常に新しい医療を追求し、患者さんに合わせた治療を提供できるよう研さんしています。
当院は、病院祭“ハートクロスフェスタ2024”を開催するなど、地域の皆さんとの交流を積極的に行っています。
このイベントは、医療に関する体験コーナーや縁日のようなゲームコーナーを楽しめるもので、2024年には約1,500人の来場者を迎え大盛況でした。
また、病院の近隣で開催される足利花火大会でも、お祭りの後の清掃に約220名の職員が参加して地域貢献に努めています。
地域の皆さんは、病気にでもならない限り、なかなか私たち医療従事者と顔を合わせる機会がありません。そのため、こうした地域交流に積極的に取り組むことで、市民の方々に開かれた病院を目指しています。
当院は、病室の全室個室制やグリーンホスピタルというコンセプトを採用することで患者さん第一の医療を実現してきました。今後も新しい医療機器を導入して先進医療に取り組み、断らない救急で地域の皆さんを支えていく姿勢は変わりません。
1つだけ地域の皆さんにお願いしたいことは、当院は開業医の先生が対応できないような急性期医療に特化しているため、まずは最寄りのかかりつけ医で診療を受けていただきたい、ということです。かかりつけの先生が必要と判断された場合には、当院への紹介状を作成していただけますので、それを持参して受診してください。
そのうえでご来院いただいた患者さんには、全職員の力を結集して質の高い医療を提供させていただきます。
当院はこれからも地域のニーズに沿った急性期医療に励み、引き続き地域の中核病院としての役割を全うしていきます。