仙台市にある自衛隊仙台病院は、1971年に開設した病院です。もともとは自衛隊員とその家族を対象としていましたが、2014年に保険医療機関(厚生労働大臣の指定を受けた、保険診療を行える病院)となってからは一般の方々も受け入れるようになりました。自衛隊の衛生部門として災害だけでなく有事にも対応できるように備えるなど、一般の病院とは少し違った役割も担う同院の地域での役割や今後について、院長である中岸 義典先生に伺いました。
当院は、1971年の開設時には自衛隊員とその家族のみを対象とする病院でした。その後、東日本大震災での災害対応を経て、2014年に一般の方々の診療を開始しました。
当院は国道45号線と県道8号線が交わるあたりに位置し、JR仙石線の陸前原ノ町駅・宮城野原駅から徒歩15分、市営地下鉄東西線の卸町駅から徒歩25分です。仙台市営バスですと宮城野小・工業高前から徒歩2分です。診療科は内科、外科、整形外科、小児科、眼科、精神科、歯科の7科あります(精神科及び歯科は自衛隊員とその家族のみ診療) 。これらの中では、内科の医師が比較的多く在籍しています。また、特殊外来として上咽頭外来も開始しています。
当院は平時における地域の病院としての役割を持つだけでなく、有事や大規模災害、国際平和協力活動等の際には自衛隊の衛生部門、国の病院としての機能も有しています。
2011年の東日本大震災当時、当院ではまだ一般の方々を受け入れていませんでした。しかし発災後、その被害の規模の大きさから、広く地域の方々に当院を開放して災害に対応した診療を行うことにしました。
当初は外来や病棟が被災して使えなかったため、外にテントやエアドームを設営して診療を行いました。ここで役立ったのが、自衛隊だからこその設備です。テントだけでなく野外手術システム車や移動式医療システムを展開し手術室や処置室として使用し、胸腔鏡手術なども行いました。
発災から3月末までには、1,200名ほどの一般の方々が来院しました。対して自衛隊員とその家族は2,400名ほどで、来院者の3分の1が一般の方々だったということになります。
診療は他病院と連携して行い、当院では主に軽傷・軽症の方を診ていました。当院で対応できない方については他病院に搬送し、ヘリで広域搬送することもありました。駐屯地の訓練場も搬送用のヘリポートとして使用し、多くの患者が運ばれることもありました。
院内だけでなく、地域に出向く巡回診療も展開し、多賀城・塩釜・女川・石巻地域を中心とした40ほどの場所で一時診療を行いました。そのほか、自衛隊ヘリの飛行場がある霞目駐屯地にSCU(広域搬送拠点臨時医療施設)が設置され、そこに当院の医師を派遣しました。(広域搬送拠点臨時医療施設とは、大規模災害の際に患者を根本治療が行える遠くの病院に搬送するための臨時の医療施設のことです)。
2024年1月の能登半島地震の際には、派遣される部隊に対する自隊救護(一般市民ではなく自衛隊員を対象とした救護)として、1月と2月に1名ずつ2~3週間、計2名の看護師を派遣しています。ここで看護師は生活支援の1つとして入浴支援を行っている隊員に対する救護だけではなく、入浴施設利用者等が体調不良等を訴えた際の対応や相談、高齢者の介助等を行いました。(自衛隊の入浴支援とは、自衛隊員が装備として持ち運び可能な入浴施設を、災害時などのための屋外浴場として利用するものです)。
今後も災害時には、自衛隊病院としてできる限りの医療提供を行いたいと考えています。
平時からの災害対応としては、定期的な震災対処訓練を行い、いつ災害が起こっても即時対応できるように緊張感を持って初動態勢を整えています。
今年(2024年)5月の自衛隊統合防災演習中には病院が被災した想定で指揮所訓練を行いました。また11月に陸上自衛隊東北方面隊が自治体や関係機関と連携し実施する災害対処訓練「みちのくALERT2024」では、海溝型地震が起きた想定で、霞目駐屯地等にSCUを設置して患者を搬送すると共に、当院も被災した想定でテント等で代替の医療施設を展開し、訓練を行う予定です。
普段から発災後1時間以内に医師と看護師を出発させ、3時間以内に医師や看護師等からなる救護班2コを出発させるべく初動対処をとっています。常に訓練を行いながら待機し、備えています。
当院はもともと自衛隊員とその家族のみ対象の病院でした。しかし、東日本大震災時の災害対応を機に、地域の方々に開かれた病院となることを目指し、2014年に一般の方々も利用できる病院としてリスタートしました。
当院にはしっかりした入院設備が整備されており、もちろん一般の方々も入院が可能です。コロナ禍には発熱外来も開設し、たくさんの患者を受け入れておりましたし、現在も継続しています。
このように、当院は地域の方々に貢献できる体制を日々整えてきたのですが、東日本大震災から年月がたち、コロナ禍も経たことで、現在、来院者のほとんどが自衛隊員とその家族となってしまっています。院長としてはこれをたいへん寂しく感じております。
自衛隊の病院ということで、ほかの病院よりも敷居が高い印象があるかもしれませんが、当院はスタッフ一同、いつでも地域の皆さまのことをお待ちしています。当院について公式ホームページもぜひご覧いただくとともに、体調のことでもご利用方法のことでも、お困りの際には、まずはお気軽にお電話やご相談をいただければと思います。