院長インタビュー

救命救急や人材育成で地域医療を守り抜く八戸市立市民病院

救命救急や人材育成で地域医療を守り抜く八戸市立市民病院
今 明秀 先生

八戸市立市民病院 事業管理者

今 明秀 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

八戸市立市民病院は、JR八戸駅から車で30分ほどに位置する7階建の病院です。628床、32診療科を擁する総合病院であり、1997年に現在の病棟で診療を始めました。

病院の特徴や取り組みについて、同院の院長を務める今 明秀(こん あきひで)先生にお話を伺いました。

当院の使命は、地域の急性期医療支援にあります。そのため、救命救急センターと周産期センターは24時間体制で稼働しています。

現在、救命救急センターの受診患者数は、年間約2万4,000人です。そのうち救急車での来院は、多い年で年間約7,000台にのぼります。

先方提供

当院が救命救急センターの指定を受けたのは1997年で、ちょうど現在の病棟に移転してきたタイミングです。当時は専従の日本救急学会認定救急専門医はおらず、兼任医師が対応していました。

そのような状況の中、2004年に私が赴任して常勤の救急専門医となりました。それ以来、北米型救急(ER)システムと3次救急の両輪で救急医療に対応しています。救急患者を受け入れる際は、できる限り迅速な初動対応に努めており、まず救急専門医が診断してから、専門科の医師たちと協力して集中治療を行います。

現在は、救急ICU30床と救命病棟54床を備え、常勤の救急専門医を中心に24名体制で地域の救急医療を支えています。その中には、多くの大学病院から派遣されてくる後期研修医も含まれていて、質の高い救急医療を実地で学べる環境を提供しています。また、7名もの認定救急看護師が在籍しており、層の厚い診療体制で質の高い看護を行っています。

当院の救命救急センターは、厚生労働省が規定する充実段階評価や、公益財団法人日本医療機能評価機構が行う救急部門の病院機能評価で、共にS評価を獲得しています。今後も引き続き、救急医療のモデルケースとなれるよう取り組む方針です。

当院の救命救急は「病院前救護」にも取り組んでいます。救急疾患には1秒を争うものも珍しくありません。病院到着時には手遅れだった、では済みません。そのため当院では、2009年からドクターヘリとドクターカーの運用を始めました。医師、看護師が病院で待つのではなく、救急現場に出て行くのです。これにより、より早期からの救急医療が可能になりました。

年間の出動回数はドクターヘリが約500件、ドクターカーは1,500件ほどで、ドクターヘリは東北でみて、ドクターカーは東日本でみて非常に多くの出動回数となっています。ドクターヘリの運行範囲は主に青森県東部や岩手県の北部で、ドクターカーは当院から車で約1時間圏内をカバーしています。

「病院前救護」の要否を判断するにあたっては、オーバートリアージ(重症度の過大評価)を許容するようにしています。つまり少しでも救護が必要な(きざ)しがあると判断すれば、ドクターカーやドクターヘリを出動させるのです。重症度を過小評価して重症化させるよりは、早期に医師が接触して重症化を抑制した方が、結果として効率的であると考えています。

ドクターカーやドクターヘリによる迅速な救急医療は、各診療科との連携も重要となります。たとえば、心筋梗塞(しんきんこうそく)の患者さんは循環器科と救急科、脳卒中の患者さんは脳神経外科、神経内科、救急科が連携し、診療科を横断したチーム医療を行っています。特に、脳血管治療や心臓カテーテル治療のスピーディーな診断は、良好な治療成績につながっています。

また現状では、ドクターヘリが稼働しているエリアにおいて唯一当院だけが心臓血管外科の手術を行えるため、県立病院や大学病院に頼ることなくワンストップの治療を提供することができます。

当院は、地域がん診療連携拠点病院に指定されており、さまざまながん治療に力を入れています。

特に、呼吸器内科、呼吸器外科と放射線科が連携する肺がん治療や、消化器内科と外科が連携する肝胆膵手術は東北でも非常に多くの治療実績を誇ります。

また産婦人科の領域では、医療圏内で不足している乳がんの治療を一手に引き受けるほか、形成外科と連携した質の高い乳房再建術も行っています。2023年には認定遺伝カウンセラーが着任し、遺伝性乳がん診療もスタートしました。

近年は、化学療法センターを通じた日帰りの化学療法にも対応しています。同センターは、病棟の最上階に25床の専用スペースを確保し、抗がん剤や点滴などの治療を落ち着いて受けられる環境を整えています。

がん治療については、がん患者さんやそのご家族に対して、からだの苦痛や精神的な負担を和らげる緩和ケアのニーズが年々高まっています。そこで当院では、2022年に計30床の緩和ケア病棟を設置し、日本緩和医療学会認定専門医が中心となって緩和ケアに取り組んでいます。

緩和医療は、高齢化に伴ってますますニーズが増えていく分野ですので、さらに受け入れ体制を拡充して1人でも多くの患者さんを支えていきたいと思います。

先方提供

当院は研修・教育にも力を入れています。

たとえば外科ですが、現在の臨床研修制度が始まる前から、研修医を受け入れてきました。初期研修では、外科を中心に消化器科・内科や麻酔科、心臓外科などをローテートし、その後は後期研修医として外科手術を多数経験してもらいます。そして一定数の経験を積んだ時点で大学に戻り、外科専門医を受験・取得という流れです。新研修制度になっても、基本的にこの流れは変わりません。多くの初期研修医が後期研修でも残ってくれるため、当院では外科医が不足することは少ないです。

初期研修医の定員は19名ですが、うち2名は最初から、「産婦人科プログラム」向けに受け入れています。当院では大学にできるだけ依存することなく、院内で産婦人科医の育成を目指しています。きっかけは、帝王切開手術を受けた妊婦さんが亡くなられたある事件です。この事件により産婦人科医を志望する若いドクターが激減しました。その結果、大学病院は各地に派遣していた産婦人科医を呼び戻すことになり、多くの医療機関で産婦人科の診療が難しくなりました。当院も例外ではなく、自院で産婦人科医を養成する必要性に気付いたのです。

きっかけとなった事件では、出血性ショックへの対応が大きな原因でした。出血性ショックは、産婦人科医ならばあまり経験がなくとも無理はありません。そこで当院の産婦人科研修では、吐血や下血、外傷性出血によるショックへの対応を、他科で学んでもらっています。これはほかの産婦人科研修にはない、当院の研修の特徴だと自負しています。

近年、少子化の影響により全国的な分娩数が減少する中、当院は地域全体の分娩の6割以上を担って地域貢献に努めています。

昨今のコロナ禍でも、“里帰り分娩”(故郷に戻って出産すること)を希望される妊婦さんを積極的に受け入れ、周産期の医師や助産師が中心になって妊産婦さんを支えています。

当院は産婦人科医を育成するとともに、どんな状況でも安心して出産できる環境を用意し、“妊産婦さんに優しい病院”を目指しています。

先方提供

先方提供

小児科の研修にも、特色があります。当院には小児科のほかに、胎児・新生児を管理する周産期センターがあります。小児科医師がセンターも担当しているため、小児科の研修では、新生児集中治療室(NICU)の管理も勉強できます。

また初期研修の要である内科は、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科のいずれも、多くの患者さんを経験できます。

救命救急における研修は、医学の基本です。紹介状のない患者さんを研修医が診断できるのは、大病院では救急外来だけです。

先に申し上げたとおり、当院は救急車だけで年間6,000例が搬入されてきます。研修するには十分なボリュームでしょう。そして専任の救急専門医9名が指導にあたります。非常に恵まれた環境だと思います。そのため毎年20名近くの研修医を受け入れ、1学年で2名程度が後期研修医として残ってくれます。

なお後期研修には、周りの病院や全国の大学からも研修医がやってきます。

当院は、認定看護師の養成に取り組んできた青森県立保健大学と連携し、認定看護師の養成機関になるべく準備を進めています。

順調に進めば、2025年から認定看護師になるための教育課程を開講する予定です。実現すれば認定看護師の教育機関としては県内初となります。このコースではキャリア形成を支援することにより、看護師が県内の医療機関に定着することを狙っています。また、スキルアップを促すことで看護師のモチベーション向上にもつながると考えています。

先方提供

当院は2023年に病院1階の玄関周りを改修し、患者サポートセンターを設置しました。同センターは入退院管理を一括して担い、これまで部署ごとに行われていた窓口を一元化することで患者さんのスムーズな入退院を実現しています。

たとえば、患者基本情報作成、入院前検査の確認、持参薬確認、栄養指導、医療福祉制度や介護サービスの紹介など多岐にわたる活動が集約され、患者さんの負担を解消しています。

当院は“市民病院”という名のとおり、市民のみなさんのための病院です。そのため、地域で不足している耳鼻科、皮膚科、歯科口腔外科(しかこうくうげか)や眼科についても常勤医師を配置し、日々多くの患者さんに対応しています。

一方で、現在は市民病院の枠を越えて青森県全域、さらには岩手県北部の住民の皆さんからも頼られる存在に成長しました。これからも地域医療の担い手として、現状の機能を維持しながらさらに精進していきたいと考えています。

特に当院の強みである救急医療においては、ほかの地域で起きているような“救急難民”を1人も出すことなく、当たり前のことを当たり前にできるよう努めます。

当院は、さらに質の高い医療を実現するため、2025年度に手術支援ロボット“ダヴィンチ”の導入を予定しているほか、地域を支える総合病院として万が一に備えた洪水対策も計画中です。

まだまだ課題は山積みですが、地域医療によって市民の皆さんを支えたいという思いを胸に、これからも職員一丸となって医療活動に打ち込んで参ります。

※画像提供:八戸市立市民病院

受診について相談する
  • 八戸市立市民病院 事業管理者

    今 明秀 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。
    実績のある医師をチェック

    Icon unfold more