国立病院機構 四国がんセンターは、愛媛県松山市にあるがん医療に特化した医療機関です。高度かつ専門的な医療の提供はもちろん、臨床研究なども盛んに行っています。特に肺がん治療やゲノム医療に力を入れており、患者さん一人ひとりに合わせた医療を大切に考える同院について、院長の山下 素弘先生にお話を伺いました。
四国がんセンターは愛媛県松山市に位置し、かつては堀之内という松山城の敷地内に所在していました。2007年に中心部から車で30分ほどの現在地へ新築移転し、病床数368床、22診療科を有するがん専門の病院として、高度かつ専門的ながん医療を提供しています。
当院は全国におよそ30施設あるがんゲノム医療拠点病院の1つで、四国地域では現在、当院のみが指定を受けています。そのため当院は、四国地域のがん医療を包括的に支える役割を担っており、臨床研究や治験にも力を入れて取り組んでいます。また、手術支援ロボットをはじめとする医療機器や、技術を常にアップデートし、質の高い医療提供を心がけています。
近年は日本全体で高齢化が加速していますがこの地域も例外ではなく、当院でもよりいっそうご高齢の患者さんへのがん治療に力を入れ取り組んでいます。
がんは一度の治療で治すのは難しく、継続して治療やケアをしていく必要がある病気です。そのため、地域のかかりつけの先生方との連携が非常に重要となります。当院ではそうした連携も大切にしながら、治療だけでなく緩和ケアにも尽力し、地域のがん医療を支えています。
がん医療は、全国で多くの施設が取り組んでいるニーズの高い医療です。当院では脳腫瘍以外の主要ながんはほぼ全て対応していますが、近年活発に取り組んでいる分野として、肺がん、消化器がん、乳がん、婦人科がん、泌尿器がんが挙げられます。
特に女性のがん治療件数が多い他に、肺がんの手術例も多く、ステージ3の肺がん治療でも多くの手術実績があります。また当院では、気管・気管支の再建手術などにより、日常酸素吸入をしないで済むような手術も行っています。
当院では現在、Da Vinci (ダヴィンチ) Xiの2台の手術支援ロボットを導入しています。肺がん治療においてもこれら手術支援ロボットを使用しており、ダヴィンチによる治療も徐々に増加してきています。
患者さんのQOL(生活の質)を守るためにも、普段の生活をなるべく維持できるがん治療を目指しています。
当院では臨床研究センターを中心にゲノム解析に関する治験が多く行われており、化学療法にも強みを持っています。呼吸器・消化器の外科・内科は当院でも活気のある診療科の1つで、特に肺・消化器がん治療に重点的に取り組んでいます。日本の肺がん治療は世界的にみても水準が高く、日本のデータを用いて治療ガイドラインが改訂され、世界標準の術式として取り入れられました。
ゲノム医療においては、2002年登場の肺がん治療薬が先駆けであり、肺がんは遺伝子解析技術が進んでいる分野です。当院としてもそれに追従し、ゲノム医療を積極的に治療へ役立てていきたいと考えています。
当院では、治療の提供だけでなく、患者さんやご家族にとってつらいがん治療に寄り添いサポートする体制も充実しています。たとえば、がん治療で発生するアピアランス(頭髪や皮膚など見た目)の問題などにも、一人ひとりに合わせ効果が期待できるケアを提案しています。
また、がん患者さんとそのご家族、さらに患者さんのお住いの医療や介護・福祉に携わる医療関係者をつないで支援する“暖だん”というサポートセンターがあります。“暖だん”は、伊予方言で“ありがとう”という意味であり、“だんだん元気になる”という気持ちも込めて、地域の方々に名付けていただきました。
がん相談支援センターでは、患者さんががん治療を続けながら就労も継続できるよう支援しています。社会生活を続けながらの治療は利点が多く、生きる活力にもなります。患者さんができるだけ無理なく治療と社会生活を両立できるよう、当院は愛媛県からの支援を受けながら包括的にサポートに取り組んでいます。また、社会保険労務士やハローワークの専門スタッフによる相談会も開催しています。
暖だんの利用は無料で、当院に限らず他の施設で治療を受けている患者さんでも可能です。地域の患者さんが安心して治療と仕事を続けられるよう、全力でサポートいたします。
がんは一度の治療では完結せず、時間をかけ治療することもある病気です。当院では、正しいがんの情報を提供しながら患者さん一人ひとりに適した治療を提供することを心がけています。
治療をつらいと思い続けるより、“日常生活を長く楽しく過ごせるように”という視点も大切にしたいと思います。プレシジョン・メディシン(精密医療)という言葉がありますが、これは“一人ひとりのがん遺伝子や体力、ライフスタイルなど個別の状況を考慮した医療”を行うことを指しています。私たちは、このプレシジョン・メディシンを実践できるよう、患者さんの特性に合わせた医療の提供に努めています。
これからも当院は、この地域で専門的ながん医療を提供する病院として使命を果たしてまいります。地域の医療機関の皆さまにおいても、万一治療に迷ったときはご相談いただければ一緒に考えたいと思います。引き続き地域のがん医療向上の一助となれば幸いです。
*病床数、診療科、医師や提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年6月時点のものです。