連載新宿の診察室から 定点“患”測

5人に1人が罹患している慢性腎臓病(CKD)、認知度は約14% ―新たな国民病の脅威を知り早期発見を

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2025年06月10日

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2025年06月10日

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2025年06月10日

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

慢性腎臓病(CKD)は糖尿病や高血圧症に続く「新たな国民病」として、近年、医療関係者だけでなく広く一般にも警鐘が鳴らされています。現在は日本国内において成人の約5人に1人が罹患していると推計されており、その対策は喫緊の課題となっています。

しかし、イーヘルスクリニック新宿院(東京都新宿)が2025年5月に発表したアンケート調査の結果によると、CKDに対する一般の認知度は依然として低いままであることが明らかになりました。このアンケート調査の結果も踏まえ、本稿ではCKDの基本的な知識、早期発見がなぜ極めて重要なのか、そして腎臓を守るために私たちが取り組むべきことについて同院の院長である天野方一先生にお話を伺い、専門的な情報を交えつつ解説していきます。

イーヘルスクリニック新宿院 天野方一院長
イーヘルスクリニック新宿院 天野方一院長

慢性腎臓病(CKD)とは?―沈黙のうちに進行する病態に注意

CKDは、腎臓の何らかの障害、または腎機能の低下が3か月以上持続する状態を指します。具体的には、年齢、性別、血清クレアチニン値(血液検査で測定)から算出される腎臓の濾過能力(ろかのうりょく)を示す「推算糸球体濾過量(eGFR)」という指標を用いて、eGFRが健康な状態を100mL/分/1.73m2とした場合、60mL/分/1.73m2未満の状態が3か月以上続くとCKDと診断されます。
さらに、慢性的に腎機能が低下したら末期腎不全とされ、透析療法の導入が検討される段階となります。

CKDの特性として、初期から中期にかけては自覚症状がほとんど現れないことが多く、そのため発見が遅れがちになるという問題点があります。腎臓は「沈黙の臓器」とも称され、機能が著しく低下するまで明確なサインを発しにくいのです。

慢性腎臓病(CKD)における早期発見の意義

どんな病気であっても早期発見・早期介入は重要ですが、とくにCKDはこれが極めて重要であるとされています。その理由は、主に以下の2点に集約されます。

1.腎機能は低下したら戻らず、透析療法や腎移植を受ける可能性が高まる

一度低下した腎機能は、現代の医療をもってしても完全に回復させることが困難であるとされています。発見が遅れ、病状が進行した場合、最終的には腎臓の機能を代替する「透析療法」や「腎移植」といった腎代替療法が必要となる可能性が高まります。

しかしCKDは自覚症状に乏しいため、気付いたときには腎機能が大幅に低下し、透析療法が不可避な状態に至っている患者さんも少なくありません。このような状況を避けるためには、可能な限り早期にCKDを発見し、進行を抑制するための治療や生活習慣の改善に取り組むことが不可欠です。

2. 全身の多岐にわたる合併症の発症リスクがある

早期発見が重要視されるもう1つの理由は、CKDが腎臓のみならず、全身のさまざまな臓器に悪影響を及ぼし、多様な合併症を引き起こすリスク因子となるためです。

具体的には、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患、脳卒中、認知機能の低下といった病気の発症リスクが上昇することが多くの研究で示されています。加えて、免疫機能の低下から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめとする各種感染症の重症化リスクも高まることが指摘されています。

したがって、CKDを早期に発見し、その進行を適切に管理することは、腎臓自体の保護に留まらず、全身の健康維持、さらには生命予後の改善にも貢献するといえます。

慢性腎臓病(CKD)に関する認知度の現状

これほどまでに重大な病気でありながら、CKDに関する一般の認知度は依然として高いとはいえない状況です。

イーヘルスクリニック新宿院が全国の300人を対象に実施した調査によれば、回答者の約85%がCKDについて「全く知らない」または「聞いたことがある」程度と回答しています。この事実は、CKDの早期発見・早期治療を推進するうえで、正確な情報提供と啓発活動の強化が不可欠であることを示唆しています。

慢性腎臓病(CKD)について

■イーヘルスクリニック新宿院でのアンケート調査概要(以下同)
調査名 :慢性腎臓病(CKD)に関する意識調査
実施日 :2025年3月27日
方法  :インターネットによる匿名調査
対象者数:300名(全国の一般生活者)

慢性腎臓病(CKD)に関する知識・理解の不足

同調査では、CKDの病名を「よく知っている」と回答した人は全体の13.7%に過ぎませんでした。さらに、以下の点に関する理解も不十分であることが明らかになりました。

  • 初期症状が乏しいまま進行する疾患特性を認識していない層:40.8%
  • 脳卒中や心筋梗塞など重篤な合併症のリスクを認識していない層:48.4%
  • 高血圧症や糖尿病といった主要な生活習慣病との密接な関連を「全く知らない」と回答した層:40.2%

これらの結果は、CKDの病態やリスクに関する正確かつ包括的な情報伝達の必要性を浮き彫りにしています。特に、多くの方で腎臓機能の低下が進行する50代においても重篤な合併症のリスクへの認識が低い(46.0%)という事実は、CKDが全身に及ぼす影響についての理解促進が、健康診断を受けるといった行動変容を促すうえで重要な課題であることを示しています。

慢性腎臓病(CKD)の症状や、脳卒中・心臓病等のリスク

定期健康診断の重要性認識と受診行動の乖離

一方で、CKDの早期発見における健康診断の役割について尋ねたところ、84.7%の回答者が「重要」または「非常に重要」と認識しており、その必要性自体は広く理解されていることが窺えます。

しかしながら、実際の受診行動には結びついていないケースも散見され、認識と行動の間にギャップが存在することが示唆されました。受診を妨げる要因は年代によっても異なるため、それぞれの状況に応じたアプローチが求められます。

慢性腎臓病(CKD)の早期発見のために推奨されること

では、CKDを早期に発見するためには、具体的にどのような行動が推奨されるのでしょうか。CKDの早期発見において、最も効果的かつ基本的な対策は、年に一度の定期的な健康診断を受けることです。

一般的な健康診断の項目には、腎機能を示す「eGFR」の算出に必要な血清クレアチニン検査や、腎障害の早期のサインを示す「尿タンパク検査」が含まれています。これらの検査結果を経年的に確認することで、腎機能の微細な変化や異常を早期に捉えることが可能となります。

近年、働き方の多様化に伴い、企業や自治体が提供する健康診断の機会から遠ざかっている方も見受けられます。「最近健診を受けていないな」という方は、居住する自治体が実施する住民健診や、医療機関が提供する人間ドックなどを積極的に活用し、年一度の健康状態の確認を習慣づけることが望まれます。

尿検査試験紙を用いた自己チェックも補助的手段として有効

定期的な医療機関での検査が基本ですが、補助的な手段として、薬局などで市販されている尿検査試験紙を用いることも有用です。これにより、自宅で簡便に尿タンパクの有無を検査することができます。異常が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診し、精密検査を受けることが早期発見につながります。

慢性腎臓病(CKD)早期発見の意義と健康寿命への影響

腎臓は、体内の老廃物や余剰な水分を濾過し、尿として排泄する「生命維持に不可欠なフィルター」としての役割を担っています。繰り返しになりますが、一度その機能が低下すると回復は難しく、進行すれば人工透析や腎移植といった腎代替療法が避けられなくなる可能性があります。

加えて、CKDは心血管疾患や感染症の重症化など、全身の健康状態に深刻な影響を及ぼすことが明らかになっています。したがって、CKDの進行を管理することは、個人の健康寿命にも直結する重要な課題です。

年に一度の健康診断でeGFRと尿タンパクの数値を定期的に確認することは、腎機能低下の兆候を早期に発見し、適切な生活習慣への是正や薬物療法などを速やかに開始するための第一歩です。

ご自身の腎臓の健康状態を把握し、健やかな生活を維持するためにも、まずはCKDに関する正しい知識を身につけ、定期的な健康診断の受診を心がけましょう。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。