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【糖尿病デー】「糖尿病性腎臓病」認知27%、健診受診23% 腎臓病のリスクを遠ざける早期発見・受診の重要性とは

公開日

2025年11月14日

更新日

2025年11月14日

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2025年11月14日

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

糖尿病は、初期段階においてほとんど自覚症状がない。そのため、健康診断で血糖値やHbA1c(過去数か月の平均血糖値)などに異常が認められても、「もう少し様子を見てもよいだろう」「今の段階で受診を検討するのは大げさだろうか」と受診を先延ばしにしてしまうケースが多いという。

 しかし糖尿病を放置すると、気付かぬうちに進行し、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中、慢性腎臓病(CKD)や失明など、生命や生活の質(QOL)に大きく関わる合併症を引き起こす可能性がある。

イーヘルスクリニック新宿院(東京都新宿区)が2025年11月にアンケート調査を実施したところ、糖尿病の認知度は80%を超えていたものの、合併症である「糖尿病性腎臓病(DKD:Diabetic Kidney Disease)」に関する理解は十分とはいえず、健康診断後の受診行動にも課題があることが明らかになった。

同院の院長である天野 方一(あまの ほういち)先生に、糖尿病およびその合併症である糖尿病性腎臓病の基礎知識、早期発見の重要性、そして腎臓を守るために私たちが取り組むべきことについて、11月14日の糖尿病デーに合わせ解説していただいた。

天野先生
イーヘルスクリニック新宿院 天野方一院長

糖尿病とは

糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の値が慢性的に高い状態が続く病気です。

通常、我々が食事を取ると血糖値が上昇し、それに応じて膵臓(すいぞう)から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは、肝臓や筋肉にブドウ糖を取り込ませてエネルギーとして使いやすくすると同時に、その余りをグリコーゲンとして蓄えるはたらきを担うホルモンです。さらにまだブドウ糖が余る場合は、中性脂肪として脂肪細胞に貯蔵します。こうした仕組みによって、私たちの血糖値は摂食後もある程度一定の範囲に維持されます。

ところが、糖尿病ではインスリンの分泌量が減少したり、インスリンの作用が低下したりするため、血糖値が高い状態(高血糖)になるのです。この状態が長期間続くと、全身の血管に障害が及び、失明、CKD、足の切断などの重篤な合併症、さらには心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす恐れがあります。
日本国内では予備群も含めると約1000万人が糖尿病に罹患していると推定されており、重大な国民的課題とされています。

治療の目的――合併症予防と生活の質の維持

糖尿病は、そもそも発症することがないように対処したい病気です。しかし、もしも糖尿病になった場合、治療の目的は単に血糖値を下げることではなく、合併症を防ぎ、糖尿病ではない方と同等の寿命および生活の質(QOL)を維持することになります。

治療の基本は、以下の三本柱で構成されます。

●食事療法
 間食や夜遅い食事を控え、炭水化物・たんぱく質・脂質という三大栄養素のバランスを整えることが重要です。研究では、朝食を抜くと昼食後の血糖値が上昇しやすく、夕食を遅く取ると体重増加および血糖コントロール不良につながることが報告されています。量を過度に制限するよりも、「何を」「いつ」「どのように」食べるかに注目することが大切です。

●運動療法
 有酸素運動(例:ウォーキング)が血糖コントロールに有効とされています。ジム通いや激しい運動から始める必要はなく、日常生活の中で「1駅手前で降りて歩く」「エスカレーターではなく階段を使う」といった身体活動量を増やす工夫が有効です。運動は血糖値の改善だけでなく、心血管疾患の予防やうつ状態の改善にも寄与するとされています。

● 薬物療法
 近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった新しい薬剤が医療現場に導入され、単に血糖値を下げるだけでなく、心血管疾患やCKDといった合併症を抑制する効果も期待されています。

糖尿病の合併症を防ぐことは、将来のQOL維持のために非常に重要です。中でも糖尿病性腎臓病(以下DKD:Diabetic Kidney Disease)について知っておくことが大切です。

糖尿病性腎臓病(DKD)とは?

DKDとは、糖尿病によって腎臓の機能が徐々に低下していく、いわば慢性腎臓病・CKDの一形態です。海外の研究では、糖尿病患者さんの約40%がDKDを発症するという報告があります。

DKDは、末期腎不全の主要な原因の1つとされています。高血糖が継続すると、腎臓の「糸球体」と呼ばれるろ過機構が傷つき、尿中にタンパク質(特にアルブミン)が漏れ出す「アルブミン尿」が現れます。これはDKDの初期段階なのですが、自覚症状に乏しく、進行に気付かないまま症状が悪化することがあり、注意が必要です。

このまま症状が進むと、むくみ・高血圧・倦怠感などが現れ、最終的には末期腎不全となります。この場合は透析療法や腎移植が必要となることがあるため、初期段階で対処することが求められます。

DKDの知名度の低さ、受診意欲の低さが糖尿病の放置につながる可能性も

そのようなDKDについて当院がアンケート調査を行ったところ、知名度が低いことが分かりました。糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気であることを知っている方は87.5%にも上るのに対し、DKDを知っている方は27.2%しかいなかったのです(図1、図2)。

図1
図1
図2
図2

 

また、そもそも健康診断などで血糖値やHbA1cの値の高さを指摘されても、「必ず受診する」という方は23.3%しかいませんでした(図3)。
さらに、「症状があれば受診する」という方は63.0%、「受診しない」という方は4.6%でしたが、先ほど述べたように糖尿病は初期段階において自覚症状が乏しい病気であり、気付かないうちに進行するケースが懸念されます。

図3
図3

 

このようなDKDへの理解不足と、健康診断の結果があまり受診行動につながっていないことが、糖尿病が国民的課題とされている状況を生んでいるといってよいでしょう。

■イーヘルスクリニック新宿院でのアンケート調査概要
調査名 :糖尿病に関する意識調査
実施日 :2025年10月28日
方法  :インターネットによる匿名調査
対象者数:全国の一般生活者(平均年齢約41歳)の男女305名

健康診断の重要性

糖尿病対策として有効なのは、早期発見と早期受診です。
早期発見に役立つのは健康診断です。なるべく年1回受診しましょう。2025年に国立循環器病研究センターが発表した研究では、「3年以上健康診断を受けていない方は毎年受けている方と比較すると、2型糖尿病の発症リスクが約4.7倍に上昇する」という結果が報告されており、定期的な健康診断受診の意義が改めて示されています。

一般的な健康診断で血糖値・HbA1cの値について要受診の指摘を受けたら、腎臓内科などに相談をしましょう。
さらに、健康診断では腎機能を示す「クレアチニン」や「eGFR」の算出、腎障害の初期サインとなる「尿タンパク検査」などが実施されることが多く、糖尿病および腎臓異常の早期発見に役立ちます。これらの値も意識し、数値が悪くなってきたら受診するようにしましょう

近年は働き方の多様化により、企業や自治体の健康診断を受けていない方も増えています。最近健康診断を受けていない方は、居住自治体の住民健診や医療機関の人間ドックなどを活用し、ぜひ「年1回の健康状態の確認」を習慣化してください。

早期発見、早期受診で健康的な生活を

糖尿病は全身の合併症を引き起こす可能性のある病気であり、早期発見・早期治療が非常に重要です。特にDKDは初期症状に乏しく、気付いたときには進行しているケースも少なくありません。

繰り返しますが、健康診断で血糖値・クレアチニン・尿タンパクなどに異常を指摘された場合は放置せず、できるだけ早期に糖尿病を専門的に診察できる腎臓内科などの医療機関への受診をおすすめします。早期対応で腎機能を保護し、合併症の進行を抑え、生き生きとした日常生活を送るようにしましょう。
 

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。