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【男性更年期】「症状あり」65%でもすぐ受診する人はわずか6%? 働き盛りを襲う不調の正体

公開日

2026年02月09日

更新日

2026年02月09日

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2026年02月09日

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

「以前ほど仕事に集中できない」「休んでも疲れが抜けない」「些細なことでイライラしてしまう」。

40代、50代の男性で、このような不調について「年齢のせい」や「気合が足りない」と自身を責めている人はいないだろうか。

実はその不調は単なる老化や疲れではなく、治療が必要な病気、「男性更年期障害(LOH症候群)」の可能性がある。

男性更年期障害は、2025年6月に政府が出した「骨太の方針2025」において、初めて性差に由来する健康課題として明記された。男性更年期障害による経済損失は約1.2兆円とも推計されており、社会全体での対策が急がれている。

この病気についてイーヘルスクリニック新宿院(東京都新宿区)が2025年12月27日~2026年1月3日にアンケート調査を実施したところ、多くの男性が症状を自覚しながらも、適切な医療にたどり着けていない実態が浮き彫りになった。

同院の院長である天野 方一(あまの ほういち)先生に、男性更年期障害のメカニズム、見逃してはいけない具体的な症状やサイン、そしてスクリーニング検査としても有効な「AMSスコア」について詳しく解説していただいた。

イーヘルスクリニック新宿院 天野 方一院長
イーヘルスクリニック新宿院 天野 方一院長

男性更年期障害(LOH症候群)とは?

「更年期障害」というと女性特有のものと思われがちですが、実際には男性にもあります。病名は「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群:Late-Onset Hypogonadism)」です。

女性の更年期障害は閉経を挟んだ前後約10年間に急激なホルモン変化で起こりますが、男性の場合は男性ホルモン(テストステロン)が20代をピークに加齢とともに緩やかに減少していくことを主な原因として発症します。次の章で詳しく説明しましょう。

男性ホルモン、テストステロンの減少が主因

テストステロンは、骨や筋肉を作るだけでなく、活力や判断力、性機能、血管の健康維持など、男性の心身を支える「エンジンの燃料」のような役割を果たしているホルモンです。

このホルモンが加齢による自然減に加え、過度なストレス、環境の変化、睡眠不足などによって急激に減少すると、心身のバランスが崩れ、さまざまな不調が現れます。

女性と異なり「いつからいつまで」という明確な時期がないため、40代で発症する人もいれば、60代、70代になってから悩まされる人もいます。また、治療を受けないと改善しないことが多いため、「終わりのないトンネル」のように感じてしまう方も少なくありません。

あなたは当てはまる? 心と体に現れる「3つの症状サイン」

男性更年期障害の症状は非常に多岐にわたりますが、大きく「身体症状」「精神症状」「性機能症状」の3つに分類されます。また、この病気は「うつ病」や「単なる過労」と間違われやすい面がありますが、以下のような変化が複合的に現れるのが特徴といえるでしょう。

1つ目は身体的な症状で、原因不明の不調が長く続きます。代表的な症状としては

●    取れない疲労感:しっかり寝たはずなのに朝から体が重い。
●    筋力の低下:運動習慣は変わらないのに、筋肉が落ち、脂肪がつきやすくなった。
●    ほてり・発汗:のぼせや、急に汗が止まらなくなる(ホットフラッシュ)。
●    睡眠障害:寝付きが悪い、夜中に何度も目が覚める。

といったものが挙げられるほか、関節痛、頻尿などが現れることもあります。

「うつ」に似た心の変化も

2つ目は精神的な症状です。下記のような不調を感じることはないでしょうか。

●    意欲の低下:趣味や仕事に対して興味が湧かなくなる。
●    イライラ・不安感:些細なことで家族や部下に怒鳴ってしまう、あるいは根拠のない不安に襲われる。
●    集中力・記憶力の低下:仕事のミスが増える、物忘れがひどくなる。
●    決断力の低下:リーダーシップを発揮できなくなる。

意欲の低下では、「新聞を読むのが億劫になった」という声もよく聞かれます。

性機能症状の変化 

3つ目は性機能の症状で、代表的なものは以下になります。

●    性欲の減退:性的なことに関心がなくなる。
●    朝立ちの消失:早朝勃起現象の回数が減る、またはなくなる。
●    ED(勃起障害):勃起力(硬さや大きさを維持する能力)が低下する。

これらの中で、多くの患者さんに現れるのが「性機能症状」です。特に早朝勃起現象、いわゆる朝立ちの消失は血管や神経の健康状態を反映する重要なバロメーターであり、テストステロン低下の最初のサインであることが多いとされています。

「症状あり」でも94%がすぐ受診しない現実

当院では全国の10代以下から60代以上のさまざまな年齢の一般男性300名を対象に、男性更年期障害に関する調査を行いました。その結果、男性更年期障害については6割以上の方が知っていることが分かりました。(図1)

(図1) 男性更年期障害の知名度。知っている人は62.5%
(図1) 男性更年期障害の知名度。知っている人は62.5%

 

そして、実に65.3%の方が「男性更年期障害のような症状を感じたことがある」と回答され、特に責任ある立場に就くことが多い40代~50代でその割合が高くなっていることも分かりました。(図2)

(図2)男性更年期障害の症状を感じる頻度。特に40代、50代の数字が高い。
(図2)男性更年期障害の症状を感じる頻度。特に40代、50代の数字が高い。

 

さらに深刻なのは、その後の行動です。男性更年期障害のような症状を感じているにもかかわらず、「すぐに医療機関を受診する」と答えたのはわずか6.3%。(図3)
残りの約94%の方は「様子を見る」あるいは「受診しない」という選択をしていたのです。

(図3)男性更年期障害の症状がある場合の受診意欲。すぐ受診する人は6.3%。
(図3)男性更年期障害の症状がある場合の受診意欲。すぐ受診する人は6.3%。

 

なぜすぐに受診しないのでしょうか。
その理由としては、42.0%の方が「どの診療科に行けばよいか分からない」と回答されていました。また、「恥ずかしい」という心理的ハードルも、受診を遠ざける要因となっているようです。(図4)

(図4)受診を妨げる要因。42%の方が受診すべき診療科が分からない。
(図4)受診を妨げる要因。42%の方が受診すべき診療科が分からない。


 放置は危険 生活習慣病の「入り口」にも

アンケート結果からは、男性更年期障害の知名度は高いものの、症状を感じたとしてもすぐに受診される方は非常に少ないことが分かりました。
しかし、「ただの老化現象だし、我慢すればよいのでは」と考えるのは危険です。なぜなら、男性更年期障害を放置することは、命に関わる生活習慣病のリスクを高めることにつながるからです。

減少すると男性更年期障害につながるテストステロンには、内臓脂肪の蓄積を抑え、血管をしなやかに保ち、インスリンのはたらきを助ける(血糖値を下げる)という重要な作用があります。
そのため、テストステロンが減少した状態を放置すると、以下のような「負の連鎖」に陥りやすくなります。

1.    内臓脂肪が増加する(メタボリックシンドローム)
2.    血糖値や血圧が上昇する
3.    動脈硬化が進行する
4.    心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中のリスクが高まる

実際、当院の調査でもこの「生活習慣病との関連」を知らない方が約半数(45.3%)に上りました。(図5)

(図5)男性更年期障害と生活習慣病の関連についての知名度。知らない人が約半数。
(図5)男性更年期障害と生活習慣病の関連についての知名度。知らない人が約半数。

 

男性更年期障害は糖尿病や高血圧などの「生活習慣病の入り口」です。早期発見・治療は、将来の脳や心臓の血管の病気を防ぐための重要な予防医療でもあるのです。

とはいえ、「もしかしたら自分も……」と思っても、いきなり医療機関へ行くのはハードルが高いという方もいらっしゃるでしょう。
そこで活用いただきたいのが、世界的に用いられているスクリーニング検査(質問票)である「AMSスコア(Aging Males’ Symptoms scale)」です。

受診の目安に! スクリーニング検査「AMSスコア」を活用しよう

この質問票は、「総合的に調子が思わしくない」「ひげの伸びが遅くなった」「性欲(セックスをしたいという欲求)が低下した」など、17項目の質問に答えることで、更年期症状の重症度を客観的に数値化できる評価シートです。
医療機関での診断補助に使われるだけでなく、Webサイトなどで公開されており、ご自身で簡単にセルフチェックを行うことができます。

「なんとなく不調」という感覚を数値で確認することは、受診への第一歩となります。自治体や医療機関のWebサイトに掲載されていることもありますので、ぜひWebサイトでAMSスコアを検索し、実際にチェックしたうえで、点数が高い場合や特定の症状がつらい場合は、迷わず医師に相談してください。

不調を感じたら「医療機関」へ

当院が行ったアンケートでは、症状を感じてもどこへ行くべきか分からない、という方が4割以上いらっしゃいました。受診すべき診療科は、「泌尿器科」や「内科」です。最近では「メンズヘルス外来」や「男性更年期外来」を標榜する内科や泌尿器科のクリニックも増えています。

医療機関では、前述のAMSスコアによる問診と、採血による血中のテストステロン値(遊離テストステロン)の測定によって診断が行われます。

また、治療法としては減少したホルモンを注射などで補う「テストステロン補充療法(TRT)」が一般的ですが、症状や希望に合わせて漢方薬やED治療薬などが処方されることもあります。さらに、食事や運動、睡眠といった生活習慣の改善指導も並行して行われることが一般的です。

「年のせい」と諦めず、人生の後半戦を活力あるものに

男性更年期障害は医学的なエビデンスに基づいた治療法が存在する「病気」です。決して「怠け心」や「気の持ちよう」が出た状態でありません。

AMSスコアなどのスクリーニング検査も活用しながら早期に対処することで、劇的に症状が改善し、以前のような活力や明るさを取り戻す患者さんは数多くいらっしゃいます。

ご自身の体調に異変を感じたら1人で抱え込まず、ぜひ専門家の力を借りてください。それが、あなた自身とご家族の、笑顔ある未来を守ることにつながるはずです。
 

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教

天野 方一 先生

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。