心臓は生まれてからずっと動き続けている臓器であり、それを手術するということは非常に大変なことです。しかし、近年は技術が進歩しており、以前と比べてかなり安全に心臓の手術を受けられるようになりました。心臓の手術について、千葉西総合病院の中村喜次先生にお話を聞きました。
手術が必要となる主な病気としては、心筋梗塞・狭心症の原因となる冠状動脈(心臓の表面にあって、心臓自体に血液を送る血管)の疾患や、心臓の中の弁の病気(弁膜症、例えば大動脈弁狭窄症や僧房弁閉鎖不全症など)があります。また、先天性の心臓の病気(心房中隔欠損や心室中隔欠損など)に対しても手術を行います。
それぞれの病気について、手術の方法は異なります。例えば、冠状動脈の病気では「冠状動脈バイパス手術」、弁膜症では「弁形成術」や「弁置換術」と呼ばれる手術を行いますが、それらの中でも病気になっている部位や範囲によって色々なバリエーションがあります。
一般的な手術の場合、下図の人工心肺装置という機械で心臓と肺の役割を代わってもらい、心臓を心筋保護液という薬で一時的に止めて、その間に手術を行います。心臓に対する手術が終わったら、止めていた心臓を再び起こして、問題がなければ人工心肺装置を外すという手順になります。
冠状動脈の手術は、日本では半数以上のケースで上記のような人工心肺装置を使わずに(心臓を一時的に止めたりせずに)行われるようになっています。どのような方法で行うかは、患者さんの個々の状態に応じて検討されます。
病気や手術の種類によって異なりますが、早いもので3時間、長いものでは5時間以上になることもあります。冠状動脈の手術では3.5~4.5時間くらい、弁膜症では3~4時間くらいで終わることが多いです。ただし、手術部位の様子や過去に心臓や肺の手術を受けたことがあるかどうかによって、かかる時間は大きく変わります。
手術の直後は特に注意をして全身状態をみる必要があるため、手術が終わると集中治療室に入って経過を観察します。特に問題がなければ、通常1~3日くらいで一般の病棟に戻り、引き続き血圧や呼吸状態の管理、また手術を行った創部(手術による傷)の観察などをします。
その後、状態の経過観察に加えて、リハビリなども行っていきます。そして、手術で治療したところが治っているか、心エコー検査(超音波検査)やCT検査などを行って確認します。それらの検査も順調で、全身状態に問題がなければ、1~2週間くらいで退院することができます。90%くらいの人は1~2週間で退院できますが、術前の体力が乏しかったり,何らかの合併症が起きたり、検査結果が良くない場合には入院期間は延長され、退院までに1か月程度かかることもあります。
この場合の「合併症」とは、手術がもとになって起こる別の病気のことです。心臓の手術では、どのような合併症が起こる可能性があるのでしょうか。
最も重大な合併症は“脳神経障害”です。手術の種類や全身状態にもよりますが、非常に軽い症状も含めると1%程度で起きます。これは、手術が終わって麻酔から覚めた後に手足の動きが悪かったり、重症の場合には意識が回復しなかったりする合併症です。軽いものでは、CTやMRIで脳にダメージがあることが明らかになるものの、自覚症状はほとんどないこともあります。
他に、手術後の合併症として“縦隔炎”があります。手術を行った後に胸の中で細菌感染が広がる合併症です。これまでの心臓手術(胸を前面の真ん中から切って開ける手術)で起きるやっかいな合併症の一つです。この場合は通常、最初は抗生物質を点滴で投与して治療を行いますが、それでも治らない時は再手術になることもあります。
その他の合併症としては、心臓の手術をしたことによる不整脈があります。特に「心房細動」と呼ばれる不整脈で、術後3日目くらいに出てくることがしばしばあります。また、心臓にかかわらず、すべての手術に共通な合併症として、術中術後の出血や呼吸機能障害、腎機能障害、手術の傷(創部)の感染などがあります。
怖い話ばかりに聞こえますが、これらの合併症のリスクよりも手術をすることで病気が治る方が重要と考えるため、心臓の手術を行うのだということをご理解ください。
また、最近の医学の進歩により、以前よりも手術に関する合併症は減り、心臓の手術も比較的安全に行えるようになっています。別記事で説明する「低侵襲心臓手術」では、縦隔炎の合併症をより減らせるようになっています。
記事1:心臓の手術―どのような種類があるの?手術時間は?
記事2:低侵襲心臓手術ってなに?―メリットとデメリット
記事3:低侵襲心臓手術のいろいろ―どこでも受けられるの? 費用は?
千葉西総合病院 心臓血管部長、低侵襲心臓手術センター長
千葉西総合病院 心臓血管部長、低侵襲心臓手術センター長
日本心臓血管外科学会 会員日本胸部外科学会 評議員・認定医日本外科学会 外科認定医・外科専門医日本血管外科学会 会員日本循環器学会 会員日本心臓病学会 会員日本冠動脈外科学会 会員日本冠疾患学会 評議員日本低侵襲心臓手術学会 代議員・幹事The international society for minimally invasive cardiothoracic surgery member三学会構成心臓血管外科専門医認定機構 心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練指導者ロボット心臓手術関連学会協議会 認定術者・認定プロクター日本ロボット外科学会 国内B級認定ロボット手術専門医・国内A級認定ロボット手術専門医・国際B級認定ロボット手術専門医
1996年、愛媛大学医学部を卒業。現在は、千葉西総合病院 心臓血管外科 部長として、低侵襲心臓手術を軸に置いた外科治療を行っている。
特に2010年より海外で研鑽を積んだロボット心臓手術に関しては、臨床、研究ともに日本をリードしており、日本のロボット心臓手術の発展に貢献している。
中村 喜次 先生の所属医療機関
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