インタビュー

健康診断で原発性アルドステロン症を調べる意味―アルドステロンの危険性

健康診断で原発性アルドステロン症を調べる意味―アルドステロンの危険性
西川 哲男 先生

横浜労災病院 名誉院長、西川クリニック 院長

西川 哲男 先生

この記事の最終更新は2015年07月16日です。

原発性アルドステロン症」という病名に馴染みのある方は多くはないかもしれません。これは、かつてはあまり知られていなかった「副腎の腫瘍からアルドステロンというホルモンが大量に出てしまう」病気です。近年、この病気が高血圧の原因として非常に重要であることが分かってきました。

それにもかかわらず、現在の一般的な健康診断では原発性アルドステロン症の検査は行われていません。健康診断で原発性アルドステロン症を調べる意味はあるのか、原発性アルドステロン症に関して臨床・研究ともに世界的な第一人者であり、日本の原発性アルドステロン症の診断治療ガイドライン委員長を務められた横浜労災病院院長・西川哲男先生にお話をうかがいました。

高血圧の原因として重要な『原発性アルドステロン症』とは」で紹介したように、金沢大学のデータでは、一般的な健康診断で何の症状やリスクもない一般生活者を対象として検査を行ったところ、原発性アルドステロン症と診断された方が6%の確率で見つかったというデータがあります。

ここでよく聞かれることとしては、「健康診断で原発性アルドステロン症を探す意味はあるのか?」「高血圧の症状もなく、いたって健康なのにわざわざ見つける意味があるのか?」ということです。私は、原発性アルドステロン症を健康診断で見つける意味はしっかりとあるのではないかと考えています。

まず、頭に入れておきたいことは、見かけ上の血圧をよくすることが大切なわけではないということです。仮に高血圧であったとしても、普通の降圧薬で血圧が良くなるケースもあります。逆に、見かけ上の血圧が正常でも、原発性アルドステロン症であるケースもあるということです。

実は、高血圧の症状が出ていなくても、原発性アルドステロン症になると脳卒中心不全腎不全が起きやすくなることが知られています。なぜ高血圧でないのにこれらの症状が起きるかというと、過剰なアルドステロンが悪影響を及ぼしているためです。血圧に問題なかったとしても、アルドステロンは血管傷害(血管を傷めつけてしまうことを言います)を発揮しています。特に、これは塩(ナトリウム)とアルドステロンが一緒になったときに強くなります。

もちろん、高血圧や脂質異常症(コレステロールの異常)や糖尿病動脈硬化症を引き起こします。しかし、それとは別のメカニズムでアルドステロン自体が血管炎を起こすのです。血管を脆弱にして、内皮機能を破綻させ、血管壁の筋肉の壊死を引き起こします。簡単に言うと、「血管が裂ける状態」を引き起こすのがアルドステロンです。繰り返しますが、原発性アルドステロン症でも血圧が正常な場合はあります。それでも、高血圧による動脈硬化とメカニズムが異なるため、血管壁はやられてしまうのです。

高血圧の患者さんで、原発性アルドステロン症を持っている方と持っていない方とを比較した研究があります。その結果、原発性アルドステロン症を持っている方は、普通の高血圧の方の4倍脳卒中を起こしやすくなることが分かりました。原発性アルドステロン症が非常に高い脳卒中のリスクとなっていることがお分かり頂けるかと思います。

原発性アルドステロン症では、高血圧があるかないかに関係なく、元から心筋梗塞や脳卒中のリスクが高いのです。ただし、特に高血圧である患者さんに原発性アルドステロン症が多いことは分かっています。
健康診断を受ける対象者全員に原発性アルドステロン症の検査をするまではないにしても、ハイリスク群である高血圧の患者さんには原発性アルドステロン症の検査をするべきであり、ガイドラインにも記載されつつあります。(ガイドラインについては「原発性アルドステロン症の検査と診断―ガイドラインの確認を!」を参照)

 

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