インタビュー

冠動脈バイパス手術、オフポンプは人工心肺と比べると危険? 心臓の手術の気になる疑問

冠動脈バイパス手術、オフポンプは人工心肺と比べると危険? 心臓の手術の気になる疑問
南雲 正士 先生

池上みなみ内科クリニック 院長、川崎市立川崎病院 心臓血管外科 元担当部長、医療法人社団健育会...

南雲 正士 先生

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この記事の最終更新は2015年09月05日です。

心臓の急所に起きた心筋梗塞狭心症、心臓の血管のうち多数が狭窄や閉塞している場合に必要となる冠動脈バイパス術。心臓病の専門病院・石川島記念病院の院長であり心臓病(虚血性心疾患)の外科的治療のエキスパートである南雲正士先生に、気になる疑問を伺いました。

心臓バイパス手術の例
心臓バイパス手術の例

オフポンプ手術では、心臓が動いている状態で手術を行います。血管の根本をつなごうと思うと一時的に血流を遮断しなくてはならず、そのためには心臓を止めなくてはなりません。心臓が動いている状態で手術を行うために、必然的に、心臓にかかる負担が少なくて済む、血管の末梢(血管の枝の先の方)を選択してつなぐことが多くなります。

血管が細いので技術的に吻合(ふんごう:つなぐこと)が難しくなるのでは、と考える方も多いと思いますが、極端に細い場合をのぞいて、細いからといって吻合できないということはありません。心臓の外科医であれば「3mmの血管へなら吻合できるけど、1.5mmではできない」ということはないはずで、むしろ、「性状の悪い3mmの血管よりは状態のよい1.5mmの血管の方が吻合しやすい」と言っていいでしょう。

むしろこの、血管の末梢をつなぐということが、結果的には患者さんのメリットになると考えています。なぜなら末梢のほうがむしろ血管の状態がよく吻合が容易で、バイパスの流量も十分得られるからです。

昔は、オフポンプ・バイパス手術がまだ技術として確立されていなかったため、心臓の冠動脈で最も重要な左主幹部(冠動脈のうち左前下行枝、左回旋枝が分かれる手前の部分)の病変には行ってはいけないと言われていました。

また人工心肺を使用すると、患者がその負担に耐えられず危険な場合にのみ、やむをえずオフポンプ・バイパス手術を行っていた時代もありました。

ところが、人工心肺に耐えられないような合併症を持った重症の人も、オフポンプであれば安全にバイパス手術ができて、術後も楽だったのです。

やがて、人工心肺を使用して手術が出来る人に対しても、オフポンプ・手術が行われるようになりました。すると、人工心肺で手術を行った時とオフポンプで手術を行った時を比較した場合、オフポンプで手術を行った人の方が術後の回復もはやく、術後の合併症も少なく、いいことづくめであることがわかってきました。

オフポンプは人工心肺という、負荷の高い体外循環を患者さんに強いることがありません。このため今では、もともと患者さんが人工心肺装置を使っている場合や人工心肺装置を必要とする他の手術と一緒に行う場合を除き、バイパス手術は基本的にオフポンプで行っています。「重症者に限ってはオフポンプで手術をせざるをえない」という考え方をしていた時代とは異なり、人工心肺を回せる人でも回せない人でも、同様に、より身体への負担が少ないオフポンプ手術ができるようになったのです。

冠動脈バイパス術は大きな手術なので、出血や心機能障害、脳梗塞などの合併症を引き起こす可能性があります。

しかし研究によって、オフポンプ・バイパス手術の場合の方が人工心肺を使用する場合に比べ、いろいろな合併症が少ないということが明らかになってきました。脳血管障害(脳卒中)の合併症はオンポンプにくらべて明らかに低く、ほぼ回避できるようになってきています。 

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