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インタビュー

病理学とはなにか―最終決定を担う重要な病理診断

病理学とはなにか―最終決定を担う重要な病理診断
長村 義之 先生

日本鋼管病院 鋼管クリニック 病理診断科部長、国際医療福祉大学大学院 特任教授

長村 義之 先生

私たちが病気の治療を受ける際、治療に先立って医師が診察を行います。医師が診断を行う場合、実際に治療にあたる医師以外に、病理医と呼ばれる専門家が正確な病気の原因を特定する場合があります。我々が医師から治療を受ける際、病理医と直接会話する機会はほとんどありませんが、病理学は非常に重要な役割を果たしています。

この記事では、国際医療福祉大学病理診断センター・センター長の長村義之先生に、病理学とはなにかについて説明していただきました。

病理医は現状、患者さんを直接診察することは滅多にありません。しかし、病気の原因を特定する診断について重要な役割を担っています。患者さんに見えないところで、患者さんの病気の診断を確定し、治療法の重要な決定を支えているのです。

一般的には、患者さんから摘出された組織などをもとに病気を特定する作業を行いますが、病理診断の作業は多岐にわたっています。主には、生検・細胞診・術中迅速診断・手術摘出標本診断・剖検というものがあります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

病理診断の中で最も多いものです。

生検組織診断とはその名の通り、患者さんの組織の一部を切り取り検査する方法です。たとえば、患者さんが胃の痛みを訴え、医師の診察を受けて内視鏡検査を行ったとします。その結果、胃の痛みががんに由来する疑いがあると判断した場合、残念ながら医師であっても肉眼で病変を起こしている部位が「がんである」と診断できないことは少なくありません。

そのため、診察にあたった医師は、病変を起こしている組織(生検)を採取し、病理医に生検組織診断を依頼します。仮にここで生検を行わず単なる胃炎として処理をしてしまった場合、患者さんの生命に関わる重大な判断ミスとなってしまいますが、生検によりがんを見逃すことがほぼなくなります。

検体は針を刺す、または掴みとられて採取されます。採取された検体は固定(細胞が変化しないようにする処理)され、ヘマトキシリン・エオジンなどといった薬品で染色し顕微鏡で観察しやすい標本を作成します。その後慎重に、がんか良性の細胞かの診断を行います。
生検組織診断が行われる場合は、消化器、呼吸器、肝臓、甲状腺、唾液腺、皮膚、神経など、ほぼ全身をカバーしています。

細胞診断は検診(スクリーニング)レベルでの診断に大きく貢献しています。その最たるものが子宮頸がんです。子宮頸がんの検診は、子宮頸部を軽くこすって細胞を採集し細胞診断を行うことで、がんに変化する前の状態で発見できるようになっています。下の図を見てもわかるとおり、日本人の各がんにおける死亡率が高まる一方で子宮頸がんは減少してきており、細胞診断の効果は極めて大きいと言えるでしょう。

細胞診断では、患者さんから採取した細胞を染色(パパニコロPapanicolaou染色という方法が用いられます)して、顕微鏡で観察して病気の診断を行います。特にがんの診断でよく行われる方法です。病変が起きている部位を肉眼で観察しただけでは、がんかどうか判別がつかないことが少なくありません。また、がん自体に実に多くの種類がありますので、細胞診断を行うことによってがんの種類を特定することができます。

細胞診断が行われるのは、婦人科(子宮頸がん、子宮体がん)呼吸器(肺がん、気管支擦過など)、体腔液(胸水、腹水など)、尿細胞診(尿路がん)、乳腺(乳がん)、甲状腺、リンパ節などのケースです。

各種悪性腫瘍における死亡率の変遷

※出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka03.html)

【グラフの解説】子宮頸癌による死亡率が激減している。細胞診の貢献と思われる。最近になってわずかであるが再度増加の傾向にある。

細胞が組織を形成しているのですから、組織診の方が情報を多く取れるのは当たり前です。「では、なぜ全て組織診でやらないのか」と思われた方も少なくないのではないでしょうか。実際、組織診と細胞診の領域は大きく重複しています。

以下に組織診と細胞診の違いを説明しておきます。

  • 細胞診の方が簡単である(侵襲性が低い=体への負担が少ない)

組織診の場合は組織のまま採取しなくてはならないため、針を刺したり、大きく掴んで検体を採取しなくてはなりません。一方で、細胞診の場合は擦るだけであったり、液体を採取するだけであったりするので、身体への負担が少ないです。

  • 細胞診であれば胸水、腹水から診断ができる

胸水や腹水中の細胞からがん診断が可能です。組織診では不可能です。

  • 乳がん疑いの場合には必ず組織診を行う

乳がんの場合には必ず組織診が行われます。がんであるかないかを細胞診で診断することはできますが、組織全体の形がその後の治療法に大きく影響するためです。

病理医が肉眼で十分に観察してから、顕微鏡標本を作成したうえで診断します。この顕微鏡標本の作成は、資格を持った技術員しか行うことができません。

技術員が作成する臓器や組織の薄い切片はそのままでは無色ですので、通常ヘマトキシリン・エオジンという方法で、染色を行って観察しやすくします。(日本では、HE染色、外国ではH&E染色と言います)。

多くの場合、HE染色で確定診断がつきますが、中には確定診断ができない場合があります。この場合、免疫組織化学による検査や、電子顕微鏡による観察、分子病理に基づいた検査などが用いられ、確定診断を導きます。病理医の診断は患者さんから採取した組織を観察することが主体となりますが、このような場合は患者さんの臨床情報(経過、血液データ、画像など)も極めて重要です。

摘出された臓器や組織を検査するプロセス

先述したように、がんが疑われる病変は、医師といえども肉眼での判断はできないことが少なくありません。そのため、がんの外科手術を行う場合は病理医が待機し、外科医が切除した組織片を検査して悪性(がん)か良性であるかを診断します。

また、がんの手術においてはがん細胞を取り残さないことが極めて重要です。そのため病理医は、胃がん肺がん乳がん・膵がん・胆管がんなどの手術で臓器を摘出した場合に、切除した組織の断端に癌細胞がないことを確認しなければなりません。また、摘出した臓器に付随するリンパ節への転移の有無も併せて診断します。

一般的に、切除された臓器の標本を作製して診断することには1日以上時間がかかります。そのため、病理医は外科医によって採取された組織を急速に凍結し、薄い切片を作製し染色した後、迅速に診断を行います。迅速かつ正確な診断を行わなければ患者さんの生命にかかわりますので、病理医の役割は非常に重要といえます。

病理解剖とは、亡くなられた患者さんのご遺族の承諾を得て解剖を行い、臓器を確認することによって、患者さんがどのような病気で亡くなられたのか(病名や病気の進行状態)について診断をするものです。

病理解剖を行うことによって、生前受けていた治療が正確な診断に基づいたものであったか、また適切な治療であったかを裏付けるものとなります。生前の診断・治療の客観的な評価を行う最後の機会でもあるため、病理医の重要な役割といえます。

分子病理診断の詳細については、次の記事「チーム医療への貢献―病理学と医療の進歩」をご参照ください。 

 
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    長村 義之 先生

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