インタビュー

チーム医療への貢献―病理学と医療の進歩

チーム医療への貢献―病理学と医療の進歩
長村 義之 先生

日本鋼管病院 鋼管クリニック 病理診断科部長、国際医療福祉大学大学院 特任教授

長村 義之 先生

この記事の最終更新は2015年10月25日です。

患者さんが医師の治療を受ける際には、病理医と呼ばれる専門医が正確な病気の原因を特定する場合があります。正確な治療を受ける上で、病理医は非常に重要な役割を担っています。「病理医とはどのような存在か―『縁の下の力持ち』から臨床医へ」では、病理医の役割や仕事について説明しました。ここでは、国際医療福祉大学病理診断センター・センター長の長村義之先生に、病理学の進歩や病理学のこれからについて説明していただきます。

分子病理学とは、がんなどの遺伝子を調べることだけでなく、つまり診断だけでなく治療までに病理学を役立てる新しい領域です。

たとえば、採取したがん細胞にある特定の遺伝子があるかどうか調べることにより、その特定の遺伝子に効く薬を患者さんに選択的に処方することができます。トラスツズマブという抗がん剤は、乳がんの増殖に関連する特定の分子を狙いうちする分子標的治療薬ですが、がん細胞の「HER2遺伝子」を調べることで、トラスツズマブがこの患者さんに効果があるかどうか判断できます。無駄な治療を試す必要がないため、患者さんの負担軽減につながります。

病理学的な遺伝子検査には以下のようなものがあります。

  • 乳がん治療薬「トラスツズマブ」-HER2遺伝子
  • 肺がん治療薬「ゲフィチニブ」-EGFR遺伝子 
  • 大腸がん治療薬「セツキシマブ」—KRAS遺伝子
  • 消化管間質腫瘍治療薬「スニチニブ」—KIT遺伝子

この他にも分子標的薬と遺伝子の組み合わせは多くあります。国際医療福祉大学三田病院では、上に挙げた種類の遺伝子診断が短時間で行える機能を備え、また実際に分子標的治療薬が効くかどうかの助言も積極的に行っています。

国際医療福祉大学三田病院では、2014年にセカンドオピニオン外来を開設しました。ここでは患者さんが実際に標本を持ってくることによって、普段直接話すことのない病理医に直接診断を仰ぐことができます。これまで、病理医が患者さんに直接接する機会はほぼなかったといっても過言ではありませんでした。

患者さんも実際に自分の標本を見ながら病理医の説明を受けます。主に、診断が難しい腫瘍性(神経内分泌系疾患、乳がん前立腺がん)の疾患の病理診断を聞きにくる患者さんが多いです。

病理医が、診断のスペシャリストとしてこれからも各科の専門医と連携を深めていくことは間違いありません。また同時に、今後このように病理医が診断だけでなく一歩踏み込み、患者さんに直接治療までにコメントする機会が増えていくのではないかと考えています。

近年、「デジタルパソロジー」を進展させて遠隔に病理診断を行うシステムも積極的に導入しています。デジタルパソロジーとは、顕微鏡でみた標本をデジタル化することによって、顕微鏡で見るのと同じようにテレビ画面で標本を観察することができる方法です。この技術により情報共有が容易になり、病理医が不足している地方の病院や発展途上国の病理診断を支援することができるようになりました。

デジタルパソロジー

【写真の解説】デジタルパソロジー:病理医によるデジタル画像による顕微鏡標本の観察。臨床情報、遺伝子情報などを同時に見ながら病理診断することが可能となる。

 

今までを振り返ってみても、がんの早期発見における病理学の貢献には極めて大きいものがあります。子宮頸がん検診、生検診断、術中迅速診断など、病理医はこれらの診断を正確に行うことによってがん診断の要を担ってきました。これは過去も今も今後も変わらないでしょう。

近年、病理学は新たなページを開きつつあります。病理医が診断のみに関わる時代は終わり、治療にまで関わる時代に突入しました。これからの病理学のトレンドは「分子病理診断」「セカンドオピニオン」「チーム医療」であり、病理医が臨床医として「患者さんに触れ、チーム医療に参加し、治療を考える」という時代がすぐそこに迫っているのではないかと考えています。

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  • 日本鋼管病院 鋼管クリニック 病理診断科部長、国際医療福祉大学大学院 特任教授

    長村 義之 先生

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