インタビュー

無痛分娩とは

無痛分娩とは
坊垣 昌彦 先生

東京大学医学部附属病院  総合周産期母子医療センター 講師(麻酔科・痛みセンター兼務)

坊垣 昌彦 先生

この記事の最終更新は2015年11月25日です。

無痛分娩という言葉を聞いたことがある方は、まだそこまで多くないのではないでしょうか。無痛分娩とは、激痛といわれるお産の痛みをやわらげ、出産をサポートするための処置のことをいいます。無痛分娩を行うことに対して、日本ではまだ抵抗がある方もいらっしゃいますが、アメリカやヨーロッパなどの他国では積極的に取り入れられている分娩方法です。今回は無痛分娩について、東京大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター/麻酔科・痛みセンターの坊垣昌彦先生にお伺いしました。

無痛分娩とは、お産の時の痛みを和らげながら分娩する出産法です。お産の痛みは個人差がありますが、骨折の痛みや関節痛の痛みよりも強いともいわれます。この大きな痛みをやわらげ、妊婦さんの負担を軽くするための方法が、無痛分娩です。

無痛分娩では麻酔を用います(点滴やガスを用いた麻酔を行うこともありますが、硬膜外麻酔が一般的です)。

実は日本以外の先進諸国では、無痛分娩は一般的に行われている方法ですが、まだ我が国においては普及が進んでいません。その理由としては、産科麻酔に十分な知識がある麻酔科医を、分娩数の少ない施設に常時配置することが難しいという点が挙げられています。

近年は手術件数も増加し、麻酔科医は手術室業務で手一杯といった病院は珍しくありません。ですから、産科病棟での無痛分娩まで麻酔科医が担当するという体制が築けているところはまだ少ないというのが実情です。特に総合病院ではその傾向があるように感じられます。麻酔の知識を持った産婦人科医が無痛分娩を行っているという施設もありますが、産科の先生も忙しくて無痛分娩にまでは手が回せないといった状況も多いようです。

分娩に際して鎮痛薬を用いることはかなり昔からあったようですが、欧米で分娩時に硬膜外麻酔を使用するようになったのが1980年代ごろからであり、それに伴って無痛分娩も普及していったと考えられます。

日本で無痛分娩を選択する妊婦さんは、2008年のアンケート調査によると全分娩中2.6%となっています。アメリカでは6割、フランスでは8割といわれていますので、日本ではまだまだ普及率は低いですが、最近はもう少し増加していると考えられます。

なお、比較的小規模の病院やクリニック、診療所のほうが積極的に無痛分娩を行っている場合があります。

日本は「陣痛の苦しみに耐えて子どもを産んでこそ本当の意味での母親になれる」といった伝統的な意識が根強いことから、いまだに諸外国との無痛分娩率が開いているともいわれています。しかし、アメリカ在住の日本人は意外にも無痛分娩を選択している母親が多いことから、周囲の環境の影響が大きいこともわかっています。日本でも環境が整えば、多くの妊婦さんが無痛分娩を選択するのではないかと考えることもできます。

無痛分娩には、計画分娩(子宮収縮薬を用いて人為的に陣痛を誘発する方法)と自然分娩(自然に陣痛が始まるのを待つ方法)の2種類があります。以下に各パターンの流れを説明します。

陣痛が始まる前に「この日に産みたい」という計画を立てて分娩を行う方法です。ただし、人為的に陣痛を誘発する方法ですので、必ずしも計画通りに分娩できるわけではないことに注意が必要となります。入院する当日、内診を行ったあと、必要であれば前処置(子宮の出口に小さな風船など柔らかいものを挿入し、出口を柔らかくする)を行います。そして、次の日から点滴で子宮収縮薬を体内に投与します。お産の進行状況(例えば子宮口が3㎝以上など)や痛みの出現状況に応じて、麻酔薬の投与を開始します。

計画分娩ではあらかじめ麻酔薬を投与するためのカテーテルを留置しておいて、痛みが強くなってきたらすぐに麻酔薬の投与を開始できるようにしておくこともできます。ただし、計画分娩で無痛分娩を行うには、子宮頸部が十分にやわらかくなっていること(頚管熟化)が必要ですので、希望したらいつでも計画分娩ができるというわけではありません。

計画分娩は陣痛が始まらないうちに陣痛促進剤を投与するため、促進剤の投与量は多くなりますが、人手のある日中に対応ができるよう、東京大学医学部附属病院では基本的に計画分娩の方法を用いています。

陣痛が始まるまでは通常通りの生活をしていただき、陣痛が始まったと思ったら病院に来てもらいます。お産の進行状況を確認したあと、麻酔薬を投与するためのカテーテルを留置して麻酔を開始します。自然に陣痛が始まるのを待つため、必ずしも陣痛促進剤を必要とはしませんので、より自然なお産に近いといえます。

ただし、病院に到着してから麻酔の開始となりますので、痛みが出てから麻酔薬の投与を開始するまでに計画分娩の場合より時間がかかります。急速にお産が進行してしまったときは、すぐに分娩となってしまって「麻酔が間に合わない」こともあります。また、マンパワーの問題から夜間や休日には対応できない施設が多いのが現状です。

計画分娩と自然陣発では最初から陣痛促進剤を使用するかどうかという違いはありますが、痛みが出現してからの麻酔薬の使い方に大きな違いはありません。計画分娩のほうが痛みが出てきたらすぐに麻酔を開始できるというメリットはありますが、陣痛も来ていない段階から陣痛促進剤を投与するため、促進剤を投与したのに陣痛が起こらなかったというケースも生じます。

現状では産婦人科医・麻酔科医のマンパワーの問題から、計画分娩を中心に無痛分娩を実施している施設が多いと考えられます。

無痛分娩は一般的に硬膜外麻酔を使用するため、脊椎・脊髄に何らかの疾患をお持ちの方、出血しやすい方、麻酔にアレルギーがある方などは無痛分娩を行うことができない場合があります。無痛分娩が行えるかどうかは、まず主治医に相談してください。

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