インタビュー

無痛分娩のリスクと合併症

無痛分娩のリスクと合併症
坊垣 昌彦 先生

東京大学医学部附属病院  総合周産期母子医療センター 講師(麻酔科・痛みセンター兼務)

坊垣 昌彦 先生

この記事の最終更新は2015年11月26日です。

無痛分娩は画期的な方法であるようにも思えますが、麻酔を伴うため、一定のリスクが生じることも事実です。今回は無痛分娩に伴うリスクと、まれではありますが起こる可能性がゼロではない合併症について、東京大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター/麻酔科・痛みセンターの坊垣昌彦先生にお伺いしました。

なんといっても分娩時の痛みの緩和です。出産に対する恐怖心を取り除き、安心して分娩に臨むことができます。また、精神的・肉体的疲労感が少ないため、出産後の体力の回復も比較的早いといわれています。

妊娠高血圧症候群(PIH)の妊婦さんの場合、硬膜外麻酔によって分娩中の胎児への酸素供給量が増加し(痛みが軽くなり、お母さんがリラックスして呼吸できるため)、胎児への血流が増えたというデータもあります。そのため循環器系に何らかの疾患を持っている妊婦さんに対しては、無痛分娩が積極的に勧められます。

ただし、無痛分娩という名前から誤解されがちですが、完全に「痛みが全くない」状態にすることを目指しているわけではありません。誤解が生じやすいために、一部では和痛分娩と名称づけている施設もありますが、意味は同じと考えて差し支えありません。無痛分娩を考えている妊婦さんは、無痛分娩がどのようなものであるかしっかりと理解したうえで臨んで頂きたいです。

デメリットは、基本的に自由診療であるために費用が高いこと(ただし、施設によっては比較的低料金に設定しているところもあります)、また、体質によっては(痛みの感じ方や麻酔薬の必要量には個人差が非常に大きいです)そこまで痛みをやわらげられない妊婦さんもいることです。また、分娩時間が通常よりも長引き、鉗子分娩や吸引分娩などの機械分娩になってしまう可能性も高まります。

無痛分娩で用いる硬膜外麻酔は十分に安全な方法であり、重篤な合併症が起こる可能性は低いといえます。赤ちゃんに対して大きな影響が出る可能性もほとんどありません。そのため、ほぼ安全な方法ということができます。ただし、いくつかのリスクが伴うことも事実です。

具体的には以下のようなリスクが考えられます。

  • 分娩遷延

分娩遷延とは、局所麻酔(硬膜外麻酔)によって運動神経が麻痺することで、分娩時間の延長や、鉗子・吸引分娩を施す必要がある事態に発展する可能性が上昇することです。

  • 下肢のしびれ

麻酔によって痛みを取ると、下肢の神経も遮断されるため、足の感覚が鈍くなったり、足が動かしにくくなったりすることがあります。

背中の神経には尿意を伝える神経も含まれているため、痛みを感じなくなるのと関連して尿意が感じられにくくなったり、出そうと思ってもうまく排尿できなくなったりすることがあります。このような場合は、尿道に管を入れて排出させます。

ただしこれらは麻酔の効果が切れれば自然と軽快しますし、赤ちゃんに後遺症が残るようなこともほぼありません。基本的には、上記の症状は一時的なものだと考えて構わないでしょう。

分娩経過への影響としては、分娩に時間がかかってしまう可能性があり、結果として陣痛促進剤の投与量が増え、機械分娩となる確率も高まるといったことが挙げられます。なお、分娩に時間がかかってしまうからといって帝王切開になる確率は上がらないと考えられています。

無痛分娩には、その他にも以下のような硬膜外麻酔にともなう合併症が起きる可能性があります。

100人に1人程度が発症するといわれる後遺症です。硬膜外麻酔の際に硬膜を傷つけてしまうことで起きる頭痛を指します。硬膜に穴が開いてしまっているため、そこから脳脊髄液が硬膜外腔にあふれ出てしまい、頭や首の痛み・悪心などの症状が現れます。このような症状が見られた際には、硬膜外血液パッチという処置を施すことがあります。

非常にまれな後遺症ですが、永久的な神経障害が残ってしまう危険性があります。この場合には早急に手術を行い、原因物質を除去します。

これに対する科学的な根拠は一切ありません。しかしどうしてもそのリスクが気になる方は、無痛分娩はやめておいたほうが良いでしょう。

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