インタビュー

無痛分娩のこれからの課題

無痛分娩のこれからの課題
坊垣 昌彦 先生

東京大学医学部附属病院  総合周産期母子医療センター 講師(麻酔科・痛みセンター兼務)

坊垣 昌彦 先生

この記事の最終更新は2015年11月29日です。

無痛分娩はまだまだ日本では普及が遅れている分娩法ではありますが、一部の方々を中心に少しずつ認知されてきています。しかし、無痛分娩が夢のようなお産方法というわけではありません。いくつかのリスクも伴いますし、誰もがやらなければいけないというわけでもない分娩法です。それでも、お産の痛みが恐怖となっている方にとっては、その恐怖を軽減させる分娩方法となることが期待できます。

妊婦さんに無痛分娩という選択肢を広げていくためには、現状の課題を克服していく必要があります。今回は、東京大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター/麻酔科・痛みセンターの坊垣昌彦先生に、無痛分娩の今後の課題と将来的な展望についておうかがいしました。

無痛分娩は選択肢の一つであり、妊婦さんの誰もがしなければならないものではありません。しかし、無痛分娩をやりたい妊婦さんがそれを自由にできる環境は、これから整備されていくことが望ましいですし、ある程度までは無痛分娩を選択する方が増えていくと考えます。

また、無痛分娩は基本的には妊婦さんの希望に応じて行うものですが、医学的に無痛分娩が必要と判断するケースも生じます。たとえば妊婦さんが妊娠高血圧症候群(PIH)や心臓の病気などの合併症を持っている場合は、お産のときの母体へのストレスを軽減するため、医療従事者側から積極的に無痛分娩をお勧めすることもあります。

無痛分娩を選ぶか自然分娩を選ぶか迷うこともあると思いますが、妊婦さん側が無痛分娩のメリットとデメリットを十分に理解したうえで、どちらを選ぶか決めていただかないといけません。間違った知識のまま無痛分娩を行ってしまうと、予想通りにお産が進まなかった場合に「無痛分娩にしなければよかった」と逆に妊婦さんのストレスになることもあり得ます。

無痛分娩そのものが目的ではなく、あくまでも「元気な赤ちゃんを産む」という目的を達成するための補助手段と認識することが大切です。残念ながら、現状では産科医や助産師などの医療従事者側も無痛分娩に対する理解が不十分なこともあります。

今後、無痛分娩が普及していくにあたっては、医療従事者、妊婦さんともに正しく理解した上で無痛分娩を選択できる環境を整備していくことが必要です。

上述のように一部の合併症のある妊婦さん以外では、無理に無痛分娩を勧めることはありません。正常分娩と同様に無痛分娩は自費診療(保険適応外)で行われますので、経済的理由で無痛分娩は手が出しづらいという状況もあると考えられます。

ただし、経済的余裕のある妊婦さんしか無痛分娩を受けられないというのはあまり好ましいことではありません。また、前述した妊娠高血圧症の患者さんなど、医学的にやったほうがいいと判断した妊婦さんに対しても必ずしも健康保険が通るわけでもないのが現状です。無痛分娩に関わる経済的負担への対応は、今後の課題といえます。

さらに現状では、患者さんの希望通りに24時間いつでも無痛分娩ができる体制がとれている施設は多くはありません。妊婦さんにとっては24時間体制が望ましいことは言うまでもありませんが、産科医も麻酔科医も限られたマンパワーで運営している施設が多い日本の現状ではすぐに実現することは困難でしょう。今後どのようにして安定した実施体制を実現していけばよいのかも重要な課題となっています。

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