インタビュー

小児外科とは

小児外科とは
家入 里志 先生

鹿児島大学病院 小児外科 教授・診療科長

家入 里志 先生

この記事の最終更新は2016年01月16日です。

お子さんが病気にかかったら一般的には「小児科」を受診しますが、では「小児外科」はどのような時に受診するよいのでしょうか。「こどもは大人のミニチュアではない」と言われるように、大人に比べ単に体が小さいだけではないので、治療法ももちろん違います。この記事では鹿児島大学病院 小児外科 診療科長の家入里志先生に小児外科で診察する病気とその現状についてお伺いしました。

端的にいえば、子どもの内科的な病気を小児科の先生方が診るように、子どもの外科的な病気を診察するのが小児外科です。小児外科では生まれつきの形態異常や生まれた後にかかる病気、そして外傷等に対して手術を中心とした治療を行います。日本国内では診療対象は新生児から16歳未満の子どもたちとなっています。ちなみに欧米では18歳未満とする場合が多く、国によって基準が異なります。

小児外科で診察する疾患とは、例えば生まれつきの形態異常・虫垂炎十二指腸潰瘍胆道閉鎖症小児がんなどです。主に胸腹部臓器の疾患が対象となり、心臓・脳・感覚器・筋・骨格の疾患は対象外で、それぞれの診療科の専門医師が治療を行ないます。また日本では、施設によって守備範囲がことなりますが、泌尿器・女性生殖器を治療対象とする小児外科施設もあります。

小児外科の専門医は現在日本国内に500人程度いますが、小児外科施設を含めたその専門医の分布が問題となります。やはり大半が都市部に集中しており、小児外科という診療科が存在する病院そのものが、自治体の基幹病院・大学病院・小児病院などに限られているのが現状です。人口10~20万という地方都市に診療科はほとんど存在せず、小児外科医の常駐も無いのが現状です。ですから地方の場合、虫垂炎などの小児外科の簡単な疾患は成人外科の先生が担当されていると考えられます。

日本国内の医療システムでは症例の集約化が難しいので、患者さんが受診可能な施設で治療を完結せざるを得ません。ただあらかじめ出生前から形態異常がわかっている場合や、胆道閉鎖・小児がんなど難治性の病気の場合は、小児外科専門医がいて高度医療を行える施設で治療が行なわれています。

欧米の先進国では小児外科専門医の数が限られていることもあり、症例の集約化が進んでいます。例えば米国は人口が約3億人で、小児外科専門医が約800人います。その医師が各地に分散し各施設に小児外科疾患の方たちが集まります。一方、日本はそのようなシステムになっていないのが課題です。

先天異常の手術ができる病院を各地に何か所か置いてそこに患者さんを集約して治療を行い、さらにその周囲にフォローアップと救急疾患の治療を行なうような施設を構築するだけでも環境は改善するはずです。例えば全国の小児外科施設が、疾患や治療の難易度別に棲み分けをして、中心となるハイボリュームセンター(高難易度手術を多数行う施設)で手術をする方が医療レベルの向上や、医療資源の効率化を考えた場合は、よいと考えられます。日本はそもそも医療全体がシステム化できていないので、そこを改善することから始めなければなりません。

小児期に手術を受けた方で「ヒルシュスプルング病」や「鎖肛(さこう)」など成人にはない病気に対する治療の継続のために、小児外科に通院されている方がいらっしゃいます。そのように通常は小児外科でしか診療を行なわない病気もった患者さんを成人の診療科の医師にどのように引き継ぐのか、もしくはそのまま小児外科で診療を継続するのか。またこのような患者さんが同時に成人の病気(がんなど)に罹患してしまった場合はどのように対応すればいいのか。小児外科疾患で治療を受けた患者さんの長期生存が得られるようになった現在、これらが非常に難しい問題となっています。小児外科医はこのような方々のフォローアップも行っており、私自身も50代~70代の患者さんを担当したことがあります。

1980年代に小児病院が全国にできた当時、先天性心疾患の救命率が劇的に向上しました。しかしその患者さんたちが成人に到達してから、心臓の機能に問題を生じるケースが増えています。医療レベルが向上し、長期生存が可能になったからこそ埋められた問題で、このような患者さんに対して今後、どのように治療するべきかという問題に、心臓だけでなく小児外科も現在直面しています。つまり、成人になってからの治療法の前例が無いことがネックになってしまっているのです。

国立小児病院がこのような時代背景もあり、国立成育医療研究センターに名前を変えましたが、小児医療従事者は胎児から成人まで継続的に医療を行うことが求められていると考えられます。

「成育医療」とは、次の世代にバトンを渡すまでがフォローアップであるという考え方です。生まれる前・成長する・学生になる・社会に出る・結婚する・次の世代にバトンを渡す。このサイクルを見届けられれば、その患者さんに対し私たちが小児外科医として一定の責任が果たせたのではないかと思います。

私の前任地の九州大学にはトランジショナルケア外来(小児慢性疾患を持ち成人期に達した患者さんの成人科への円滑な移行をサポートする外来)が設立されました。これからはそのような外来を設けて成人の診療科の先生と一緒に診察したほうがよいと考えています。この件に関してはまさしく小児科と小児の外科系の学会で話し合いを行っている最中であり、良いモデルケースとなることを期待しています。

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