インタビュー

長引く咳の原因は副鼻腔炎なのか——そのケースは意外に多い

長引く咳の原因は副鼻腔炎なのか——そのケースは意外に多い
力丸 徹 先生

うえむら病院 非常勤医師

力丸 徹 先生

この記事の最終更新は2016年02月10日です。

咳が止まらない——長引く咳の原因は様々。放置は危険な場合も」では主な咳の原因と治療法についてお話しました。ここでは、鼻づまりや鼻水などさまざまな症状が出る「副鼻腔炎」が咳の原因として考えられる理由について力丸 徹先生にお話を伺いました。

私は咳嗽を専門として医師になり、診察をする中で一番多い疾患が慢性咳嗽(8週間以上続く咳)でした。記事後半でも改めてお話ししますが、日本と欧米ではこの慢性咳嗽に対する見解が異なり、一般に日本では副鼻腔炎逆流性食道炎による慢性咳嗽は少ないといわれています。しかし、実際に専門家として多数の患者さんを検査・診断したところ、副鼻腔炎が原因となっているケースが一般に思われているよりも遥かに多いのではないかという結論に行きついたのです。

慢性咳嗽をお持ちの患者さんには後鼻漏(こうびろう)や痰が出ておられる方が多く、副鼻腔のCTを1000例以上撮影しました。症状だけで副鼻腔炎と診断するのは難しいため、私は感度が高く信頼性が高いCTで診断します。すると、慢性咳嗽をお持ちの方の約30%に陽性反応が出ます(つまり副鼻腔炎である)。そのため、私は副鼻腔炎が慢性咳嗽の原因にもなりうると考えています。

副鼻腔に分泌物やがたまるにつれ、サラサラとした状態の鼻水が、粘り気を帯びた鼻水へと変わります。その鼻水が鼻から出る場合を「鼻漏(びろう)」、のどへ流れる場合を「後鼻漏(こうびろう)」といいます。副鼻腔炎の患者さんにはこの後鼻漏の症状がよくみられます。

夜間や早朝に咳が出てしまいがちなのは、寝ている間にのどにたまった後鼻漏を出そうとするからなのです。また、痰がからんで咳が出るという方もよくいらっしゃいますが、それは痰ではなく後鼻漏、つまり鼻水かもしれません。その原因が副鼻腔炎である可能性も高いので、上記のような症状のある方は、耳鼻咽喉科を一度受診されることをおすすめします。

主にマクロライド系の抗菌薬を服用します。その他、症状を抑える薬(消炎酵素薬、解熱鎮痛薬)、痰や鼻水を出しやすくする薬(気道粘液修復薬、気道粘液溶解薬、気道潤滑薬)などを適宜使用します。

私の見解ですが、副鼻腔炎をお持ちの方の肺機能はあまりよくないことが多く、副鼻腔炎はCOPDの原因の一つではないかと考えております。COPDの4人に一人は非喫煙者といわれていますし(※)、喫煙ではなく副鼻腔炎を原因としたCOPD患者さんが多いのではと考えております。

※参考文献<Lamprecht B. et.al. COPD in never smokers. Results from the population-based burden of obstructive lung disease study. Chest, 139: 752-763, 2011><Behrendt CE et.al. Mild and moderate-to-severe COPD in nonsmokers. Chest, 128: 1239-1244, 2005>

欧米では、咳喘息副鼻腔炎逆流性食道炎胃食道逆流症)が慢性咳嗽の主な原因となっています。一方日本では、咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(気管支炎慢性副鼻腔炎が同時に起こる病気)が主な原因となっており、欧米とは主な原因がかなり異なります。

そもそもガイドラインが欧米とは違うので定義の仕方が難しいという面はあります。例えば欧米には「アトピー咳嗽」という概念がありません。好酸球性(免疫機能を担う白血球の一種である「好酸球」が増加すること)の気管支炎はアトピー咳嗽と症状が同じ傾向にあるので、「非喘息性の好酸球性気管支炎」と捉えられています。しかし、人種によって咳の原因がなぜ違うのかは、まだ解明されていません。

日本では副鼻腔炎は慢性咳嗽の主な原因としてとらえられていませんが、欧米と同じ頻度で咳の原因となりうると私は考えています。日本のガイドラインに沿うと、「副鼻腔気管支症候群」がそれにあたるのだと思います。

これは医療方針の違いかもしれませんが、慢性咳嗽がある場合、日本では胸のCTを撮影します。すると気管支壁の肥厚などの所見が見られることもあります。日本では気管支壁の肥厚を慢性気管支炎と捉えますので、慢性気管支炎があり副鼻腔炎を持たれている方は副鼻腔気管支症候群と診断されるわけです。一方欧米ではCTの撮影を行わないので、副鼻腔炎の所見がある場合、副鼻腔炎であると診断されるのです。

日本では「副鼻腔炎」と診断されづらいことで治療が遅れてしまうデメリットがあります。まず、副鼻腔炎が原因の咳が数多くあることを理解することが重要ではないでしょうか。通常の診療では副鼻腔のCTは撮りませんが、喘息やアトピー咳嗽の診断のため、肺機能検査は比較的よく行われます。

先ほど指摘した通り、副鼻腔炎患者は肺機能で閉塞性障害(気道が狭くなっている状態)をきたしやすいと考えています。咳が長引く方で鼻水や後鼻漏があり、COPDほどではないが正常と比べ肺機能が悪い場合、副鼻腔炎からの咳を疑い、マクロライド系の抗菌薬の処方を試してみる価値はあると私は考えています。

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