鼻茸とは、鼻の粘膜が腫れ、きのこ状のポリープができる病気です。がんとは異なり鼻茸そのものはほとんどが良性ですが、物理的に鼻の内側をふさいでしまうことでさまざまな症状が現れ、進行すれば日常生活への影響も無視できないものとなります。今回は鼻茸の特徴をはじめ、鼻茸が及ぼす日常生活への影響や受診の目安、治療法について、おぎのクリニック京都駅前 院長である荻野 枝里子先生にお話を伺いました。
鼻茸とは、鼻の中にきのこのようなポリープができる病気で、鼻ポリープとも呼ばれます。なお、ポリープとはいえ、がんのように新しくできた腫瘍ではなく、あくまでも腫れた粘膜が軟らかいこぶになり元に戻らなくなったものです。鼻の中で炎症が起こると、鼻の粘膜の下が水ぶくれのようになったり、過剰に産生されたフィブリン*が鼻の粘膜下に蓄積したりします。一時的な炎症であれば粘膜の腫れは次第に治まりますが、炎症が長引いた場合は元に戻らないことがあり、こうして発生するのが鼻茸です。発生する鼻茸の大きさはさまざまで、複数個の鼻茸が発生する場合もあります。
*フィブリン:患部から出る体液(滲出液)などに含まれ、傷や炎症の治癒に関わる糊のような成分。
鼻の炎症はアレルギーやかぜなどさまざまな原因で起こりますが、鼻茸が生じるのは炎症が長期化し、副鼻腔炎を発症した場合です。副鼻腔炎とは、鼻の奥にある複数の空洞(副鼻腔)に鼻水や膿がたまる病気で、日本では200万人程度の患者さんがいるといわれています。そのうちの10~20%の人に鼻茸がみられるといわれているものの、炎症に関係するアレルギーの患者数が増えていることを考えると、実際はさらに多くの患者さんがいると予想されます。アレルギーの中でも特に喘息を患っている人は炎症が起こりやすい体質であることが分かっており、なおかつ治りにくい鼻茸が生じる可能性が高いため注意が必要です。
患者さんの自覚症状として多いものは、鼻づまりと“におい”が分からなくなる嗅覚障害です。鼻づまりについては、鼻茸が物理的に空気の通り道をふさいでしまうことにより起こります。また、鼻茸がにおいを感知する粘膜(嗅上皮)をふさいでしまうと、嗅覚障害が現れます。そのほかにも、大きくなった鼻茸が副鼻腔の出入り口をふさいでしまうことで頭痛が現れることもあります。
鼻茸による症状は日常生活にもさまざまな影響を及ぼし、QOL(生活の質)の低下を招く可能性があります。中には、長引く体調不良が鼻茸の影響だと気付いていない患者さんもいらっしゃいます。「こういうもの」「仕方ないもの」と思っている方も今一度、以下の症状に心当たりがないか確認してみましょう。
鼻茸によって嗅覚障害が生じた患者さんが悩まれる場面として多いのが食事です。たとえば、温かいご飯やお味噌汁などは舌で感じる“味”のほか“香り”も同時に味わっているため、嗅覚障害が生じると「おいしくない」「味がしない」と感じるようになります。また、味やにおいが分からないことで「料理がうまく作れない」と悩まれる方もいらっしゃいます。なお、コーヒーや紅茶、ワインなどの香りを楽しむ飲み物を好まれる方はそれらのにおいも分からなくなってしまいます。
鼻茸による鼻づまりは睡眠に影響を及ぼす可能性があります。息苦しさによりなかなか寝付けなかったり、夜中に何度も目が覚めたりすることで睡眠不足になってしまうのです。しっかり眠れていない日が続いた場合は、日中の居眠りや集中力低下にもつながるでしょう。また、睡眠不足によって頭痛が生じる場合もあり、これらの症状が仕事に影響を与える恐れもあります。
においが分からないことで、お子さんやお孫さんのお世話に不便さを感じる可能性があります。嗅覚障害になると便のにおいさえも分からなくなるため、誰かに指摘をされるか目で確かめなければオムツを替えるタイミングを判断することができません。実際、鼻茸の症状で当院を受診される患者さんにも「子どもの便に気付けない」「孫の面倒がみられなくて困る」という方が多々いらっしゃいます。
鼻茸による鼻づまりや嗅覚障害は、時に精神面へ影響を与えることもあります。体調不良が続くことでイライラしたり、人前で頻繁に鼻をかむこと・くさいにおいが分からないことに恥ずかしさを覚えたりする方もいらっしゃいます。
また、においが分からないことで寂しさを感じることもあるでしょう。「よい香りだね」という会話に対してなんとなく話を合わせることができても、実際はにおいを共有できていないのですから“寂しい”と感じるのも無理はありません。ほかにも「周囲につらさを分かってもらえない」「自分の体臭が分からなくて不安」と悩まれている方もいらっしゃいます。
嗅覚には危険を察知する役割があるため、鼻茸によって機能が妨げられることで身に危険が及ぶ場合があります。たとえば、ガス漏れや鍋の焦げなどに気付けなかった場合、火災の危険にさらされることになります。また、腐った食べ物に気付くことができず、食中毒になる可能性もあります。
中には症状を我慢してしまう方や「そのうち治るだろう」と考える方もいらっしゃるようですが、鼻茸が自然に治ることはまずありません。日常生活に支障をきたすような症状がある場合には、1人で悩まず耳鼻咽喉科にご相談いただくことをおすすめします。
鼻茸はそのほとんどが命に関わる病気ではないため、自覚症状がなく、特に困っていることもない場合はかかりつけ医と相談しながらそのまま様子をみることはできます。一方で、嗅覚障害の症状がある場合は早い段階で治療を行うことが大切です。においが分からない状態を放置してしまった場合、いざ治療を行ったとしても嗅覚が戻りにくくなる恐れがあります。においを感知する神経がはたらかなくなると、その機能は徐々に失われていきます。においの細胞(嗅細胞)も徐々に再生されにくくなり、結果治療をしても嗅覚障害が残ることになるのです。
なお、ごくまれな例ではありますが、鼻茸だと思って放置していたものの中に悪性の腫瘍が隠れていることもあります。
鼻の穴から鼻茸が確認できることもありますが、鼻の奥に発生する場合もあるため目で見るだけで確実に判断できるとはいえません。鼻茸のセルフチェックとしておすすめの方法は、調味料のにおいを嗅いでみることです。たとえば、醤油や味噌などであれば身近にあり、簡単に違和感の有無が確認できます。セルフチェックの結果、「何かおかしい」と感じる場合は、一度耳鼻咽喉科を受診してみることをおすすめします。
患者さんの症状に合わせて治療方針は少しずつ変わるため、受診をする際は“においが分かるかどうか”“鼻づまりがあるかどうか““頭痛があるかどうか”の3つを伝えることが大切です。また、鼻茸は喘息を患っている方に合併することが多い病気ということもあり、喘息の治療をしたことがある方は医師に伝えましょう。治療をしたことがない場合でも、夜に咳が出ることがあれば、その旨を伝えておきましょう。そのほか、仕事をしている患者さんにはその内容についても伺い、治療方針を決定する際の参考にする場合があります。
鼻茸を疑う症状がある場合、まず内視鏡検査とCT検査を実施します。内視鏡検査は鼻の穴から細いカメラを入れて、直接鼻の内部を確認する検査です。CT検査については、内視鏡では確認できないような、さらに奥の副鼻腔の状態を確認するために行います。
また、血液検査を行い、アレルギーの有無を確認したり、鼻茸が発生しやすい体質かどうかの目安となる項目を確認したりすることもあります。そのほか、問診で「においが分かりづらい」と訴える患者さんには、基準嗅力検査*や、静脈性嗅覚検査**を行い、嗅覚の状態を確認します。
*基準嗅力検査:においの強さが異なる薬液を順に嗅いでにおいの有無や種類を答える検査のこと。
**静脈性嗅覚検査:においのついた薬液を静脈に注射し、においを感じるまでの時間とにおいを感じなくなるまでの時間を測定する検査のこと。
鼻茸の治療には、主に薬物療法と手術療法があります。鼻茸の治療をしたことがない場合はまず薬物療法を行い、そして、薬物療法で効果がみられない場合は手術療法を検討します。また、手術療法を行っても再発を繰り返す鼻茸の場合は、生物学的製剤による治療も検討します。
まずは、温かい生理食塩水による鼻洗浄で鼻の中の清潔を保ちつつ、炎症を抑える効果のあるスプレー状のステロイド薬を使用して様子を見ます。症状によっては、抗生物質(抗菌薬)やステロイドの飲み薬を使用することもあります。ステロイドの飲み薬は治りにくい鼻茸にも効果があるとされる薬です。ただし、そのぶん副作用を引き起こす可能性が高いため、長期間の使用はおすすめできません。具体的には、感染症や骨粗鬆症、心筋梗塞、緑内障、糖尿病などの発症リスクが高くなるといわれているため、使用については医師とよく相談しましょう。
これらの治療をしても、鼻茸が小さくならない・すぐ大きくなる・症状が改善しないという場合には、手術療法を提案します。
手術は、鼻の穴から内視鏡を入れて行います。手術では、鼻茸だけでなく鼻茸が発生している副鼻腔の骨の一部も同時に切除します。鼻(副鼻腔)はもともと吸った空気を加湿したり、異物を排除したりする役割があり、複雑な構造をしています。ただ、鼻茸ができているような場合は複雑な構造のままにしておくと清潔が保てず、かえって症状を悪化させてしまう原因になるため、手術で簡単な構造に変える必要があります。イメージとしては、お掃除をしやすくするためのお部屋のリフォームと考えていただくと分かりやすいでしょう。
鼻茸は1回の手術でよくなる場合もありますが、中には再発を繰り返す患者さんもいます。再発した場合、これまでは再手術やステロイドによる治療が行われていましたが、近年では注射薬(生物学的製剤)を使う新たな治療法が登場しました。炎症の元となるアレルギー反応を抑える注射薬を2週間おきに投与し、鼻茸の縮小、鼻づまりや嗅覚障害の改善を目指す治療法です。基本的に注射を打ち続ける必要があり、それに伴って薬剤費がかかる側面はありますが、これまでの治療ではコントロールが難しいとされていた鼻茸への効果も期待できます。
なお、注射薬を使った治療は適応となる患者さんが限られますので、これまでの治療で症状が改善しないという方は、まず医師にご相談いただくとよいでしょう。
鼻茸は長い経過を辿る病気ということもあり、治療の継続はもちろんセルフケアが欠かせません。虫歯になりやすい方が歯のケアを入念に行うのと同じく、鼻茸の患者さんも日頃の鼻のケアが大切です。まずは鼻洗浄を行う習慣をつけ、鼻の中を常に清潔に保つことを心がけましょう。
また、再発した場合にすぐ気付けるよう、嗅覚が落ちていないかどうか時々確認しておくのもおすすめです。中には、自己判断で受診や薬を中止してしまう患者さんもいらっしゃいますが、途中で治療をやめると再発する可能性がありますので、医師が問題ないと判断するまでは継続的に通院いただくことをおすすめします。
「忙しいから手術はできない」「治療をしてもどうせまたすぐに鼻茸ができるから」という方や「昔から鼻が悪いから仕方ない」という方など、治療を諦めてしまっている患者さんも多い印象です。たしかに以前は、手術の際に1週間程度の入院が必要となることが多かったり、再発した鼻茸に対する治療法が限られていたりしたため、諦めてしまうのも無理はありません。しかし、近年では症状に応じて日帰りや1泊2日など短期滞在で手術可能な場合もあります。さらに、生物学的製剤という薬が新たに使用できるようになったことで、なかなか治らない鼻茸に対する治療も確立されてきています。
鼻茸の治療を行い、鼻づまりや嗅覚障害が改善すれば、ぐっすり眠ったり、食事を楽しんだりするなど当たり前の日常を取り戻せる可能性があります。治療は日々進歩していますので、自身の鼻茸がどのようなタイプなのか、新しい治療が行えるタイプなのかなど、あらためてかかりつけ医に聞いていただくことで、前に進むきっかけになればと思います。
おぎのクリニック京都駅前 院長
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2年程前から慢性的な鼻詰まりがあり、今日まで季節等問わず、点鼻薬が常に手放せない状態となっています。これまでは鼻詰まり、透明な鼻水が出る、突発的に連続したくしゃみが出るくらいしか症状が無く、鼻詰まりがあっても点鼻薬を使用するとしばらくは改善する為、それほど気にしていませんでした。 しかし、今年の1月中旬頃から上記症状に加え、眼の充血、多少の喉の違和感(イガイガするような)、顔の火照りが見られるようになりました。 特に困っているのが顔の火照り(特に耳)で、1月中旬頃から現在までで、計4回微熱(いずれも37〜37.5℃)が出ています。その際には熱から来るものなのか、軽い倦怠感や頭がふらふらするような違和感が生じますが、それ以外には何も症状が出ません。また、いずれも微熱が出た日の夜や翌日等すぐに平熱に戻り、倦怠感等も消失します。 また、体感では顔が熱く、熱っぽい気がするも、計測すると実際には平熱であるということもあります。 自分なりに調べてみたのですが、症状からこれは花粉症なのでしょうか。これまでに花粉症の診断は受けておりません。 微熱が出た際は仕事を休ませて頂いており、上記期間で既に4日も急な休みをとってしまっている状態です。 これ以上職場に迷惑をかけるわけにもいかないので、病院の受診を考えているのですが、新型コロナウイルスの関係もあり、病院に行くのを躊躇ったままずるずると現在までに至っています。 市販薬で何とかなりますでしょうか(そもそも花粉症かどうかも分かっていない状況ですが)。 やはり病院に行くべきでしょうか。もし受診するといたしましたら、この場合は耳鼻科に行けば良いのでしょうか。 お手数をおかけしてしまいますが、お応え頂けますと幸いでございます。
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