太い血管に血栓が詰まるなどの理由によって、脳に血液が行き渡らなくなるのが急性主幹動脈閉塞症です。脳梗塞が進んでしまってからでは手遅れとなりますが、その前に血管を再開通させる治療法は急速に進歩しつつあり、より多くの患者さんを救えるようになってきました。最新の血管内再開通治療について、東京多摩総合医療センター脳神経外科 部長の太田貴裕先生にお話をうかがいました。
血栓溶解療法とは、血栓溶解剤t-PA(tissue-plasminogen activator:組織プラスミノゲン活性化因子)という血栓を溶かす薬を点滴で静脈に入れる治療です。脳卒中治療ガイドラインにおいても、発症から4.5時間以内で治療可能な条件の患者さんに対してはこの治療が強く推奨されるということが示されています。
t-PA静注療法は点滴治療なので、特別な手技や設備が必要ないという利点があります。ただし、出血の合併症などがあるため、脳外科的処置が可能な施設であることなど、一定の条件をクリアした施設でなければ行うことができません。
※東京都では、t-PA静注療法による血栓溶解療法を実施できる脳卒中急性期病院(pdf)をウェブサイトで公開しています。
ただし、発症から4.5時間以内の投与が必要なので、朝起きたときに症状があったという場合にはこの方法は使えません。異常がないことを最後に確認した時間、すなわち就寝時間が起点になるためです。
このほかにもいくつかの条件があるため、実際にt-PAを使うことができた患者さんは全体の3〜5%程度にとどまっていますが、東京都立多摩総合医療センターでは脳卒中で搬送される患者さんの約15%にt-PA静脈内投与を行っており、平均をかなり上回った割合でt-PA静脈内投与をしている計算になります。
「経皮経管的脳血栓回収用機器を用いた血管内治療」とは、主にステントリトリーバーを使って血管内から血栓を回収することをいいます。
日本脳卒中学会・日本脳神経外科学会・日本脳神経血管内治療学会の3学会が2014年4月に「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 初版」を公開した後、相次いで5つの臨床試験の結果が相次いで発表されました。そのいずれにおいても、ステントリトリーバーなどを使った血管内治療の有効性を裏付ける科学的根拠が示されたことから、2015年4月に急遽「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第2版」が発表され、この治療が推奨されるようになりました。
ただし、治療を行うにあたってはいくつかの条件があります。具体的には下記5つが挙げられます。
●t-PA静脈内投与ができない(過去に脳出血を起こしたことがある、など)
●t-PA静脈内投与を行っても効果がない
●発症から8時間以内である
●実施する施設の環境が治療に適している(脳血管撮影装置を備えている、など)
●実施する医師が脳血管内治療専門医、またはそれに準じる資格を有する
国内承認され、使用可能な機器は下記のものがあります。
■ペナンブラシステム(ポンプで吸引する)
■Solitaire FR(ソリティア:ステントリトリーバー)
■Trevo ProVue(トレボ:ステントリトリーバー)
なお、従来使用されていたメルシーリトリーバーは、出血の合併症が多かったため、現在は使われていません。新しく承認されたステントリトリーバーはいずれも血栓を回収する率が高く、より短時間に行うことができて出血の合併症も少なくなっています。
これらの血栓回収用デバイスの進歩により、脳梗塞は内科的な治療だけでなく、血管内治療で積極的に介入するという流れに変わりつつあります。その結果、神経内科の医師もこのようなカテーテル治療を積極的に始めるようになっています。
先に述べた臨床試験はランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial)という形式で行われたもので、以下の条件下で血管内治療の有用性が示されました。
●内頸動脈や中大脳動脈など、中枢に近い血管が詰まっている
●比較的重症である
●脳梗塞の範囲が非常に狭く限定されている
●ステントリトリーバーなどの血栓回収デバイスが使われた
●再開通率(血栓がどれくらい取れたか)は66〜88%
つまり、このような条件の患者さんに限った場合には、t-PA静注療法のみの治療に比べて、90日後の時点で日常生活自立度が改善されたということです。
したがって、今後はこの条件に当てはまらない患者さんに対して、この治療がどれだけ有効かというところをみていく必要があります。すべての患者さんに行えるわけではありませんが、私たちが実際にステントリトリーバーを使って血管内治療を行った結果では、治療を受けた方のうち85〜90%の方は血栓が取れています。
また、さまざまな条件の患者さんをすべて含めた数字ですが、90日後(3ヶ月後)の生活自立度は全体のおよそ45%です。これは今までに比べると非常に良い成績であるといえます。
東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 部長
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