未破裂動脈瘤が発見された場合、破裂を予防するための治療として主に行われている方法は、開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術の2つです。今回は後者の血管内コイル塞栓術を中心に、開頭手術を必要としないカテーテルによる血管内治療について、東京都立多摩総合医療センター脳神経外科 部長の太田貴裕先生にお話をうかがいました。
血管内コイル塞栓術の最大の利点は頭を開ける必要がないということです。髪を切る必要もありませんし、脚の付け根の鼠径部(そけいぶ)に、カテーテルを入れる穴を開けるだけで済みます。
入院期間は1週間未満で、翌日から普通に食事をして歩いたりすることができる方がほとんどです。退院後すぐに職場復帰も可能ですし、美容(外見)的にも非常によいといえます。
またコイル塞栓術は途中で止めることもできますし、後からまた追加治療を行うことができるのもメリットのひとつです。
開頭クリッピング術にするか、コイル塞栓術にするかを考えるときには、治療によって大きな合併症が出る可能性(たとえば手足の麻痺・言語障害・高次機能障害など)はどちらもほぼ同じであるとご説明しています。逆にいえば開頭クリッピング術が特別危ないわけではないということです。
また、コイル自体は軟らかい金属でできていますが、血管を破って出血させてしまうことがあるため、血が止まらないと大出血になります。そのためコイル塞栓術の場合には、出血などの合併症が起きたときにより重篤になりやすいといえます。もっとも危険なのは術中破裂です。開頭クリッピング術では顕微鏡で動脈瘤を実際に見ていますので、出血してもその場で止血などの処置ができます。一方、コイル塞栓術の場合には、バルーン(風船)で血を止めることはできますが、出血している場所を直接つまんで止血するといったことはできません。
開頭クリッピング術とコイル塞栓術では治療のスタンスが若干異なります。クリッピング術では瘤の根本(ネック)のラインを狙ってきっちりと止めることができますが、コイルはそういうわけにはいきません。コイルの場合、動脈瘤の中に目一杯入るわけではなく隙間がある状態ですが、そこに血栓(血のかたまり)が溜まってきて、造影剤を入れても見えなくなった(隙間がなくなった)ところで終了です。一方、クリップはかけた時点で治療が完結します。
コイル塞栓術の場合、その時点では不完全閉塞でも、半年〜1年後にカテーテル検査を行ってみると造影剤が映らなくなり閉塞が確認されるということもありますので、ある程度治った状況に持っていくところで治療を終えることができます。
前述したとおり、コイル塞栓術は途中で止めることもできますし、後からまた追加治療を行うことができるところが利点です。クリッピング術は何度も開頭手術をするわけにはいきません。コイル塞栓術の場合には再発してもまた同じ治療ができますし、そのリスクが高くなることもありません。
破裂した動脈瘤の治療では出血を完全に止めることが目的になりますが、未破裂脳動脈瘤の場合は、破裂する可能性を低くできれば治療の目的を達成していると考えます。患者さんにご説明するときには、動脈瘤を完全に潰すことのみが目的ではなく、後遺症を出さないことも同じように大切なのだということをお伝えしています。動脈瘤はきちんと閉塞できても、手足の麻痺が出たのでは元も子もありません。
1回の治療で治してしまいたいという方には開頭クリッピング術がよいのかもしれませんが、今は海外でもコイル塞栓術が多くなっています。たとえば韓国では、脳動脈瘤手術のうち、90%がコイル塞栓術です。日本ではコイル塞栓術は3分の1から40%程度で、まだクリッピング術のほうが多く行われています。しかも地域差があり、東日本ではクリッピングが多く、西日本では逆にコイル塞栓術が多くなっているのです。
クリッピング術とコイル塞栓術のどちらが優れているかというと、違いはそれほどなくなってきています。治療をするにあたって何を優先されるかによって考えていくべきですが、私はおそらく今後はコイル塞栓術が増えてくるものと考えます。
動脈瘤の根本があまりくびれていない、開いた形状の場合は、中にコイルを入れても出てきてしまいます。このような場合はバルーンやステントを置く必要があります。
また、非常に大きな動脈瘤もコイル塞栓術には向きません。このような特殊なケースでは、2015年からフローダイバーターという新しいデバイスが使えるようになりました。ステントよりもさらに細かいメッシュのチューブを置くことで動脈瘤への血流が遮断され、動脈瘤自体がなくなってしまうというものです。
クリッピング術に使用されるクリップは長きに渡って同じものが使われていますが、コイルは各社からいろいろな種類のものが出ていますし、コイルを送り込むためのカテーテルもより使いやすいものに進化しています。さまざまなデバイスの進歩によって、より安全に治療が行えるようになってきました。
治療に正解はありませんが、たとえば脳の表面に近い場所であれば、カテーテルはより遠くなるのでクリッピングをお勧めしますし、深い場所にあるものに対してはコイル塞栓術が良いのではないかと考えています。担当医師がどの治療を得意とするのか、率直にたずねてみるのもひとつの方法です。
東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 部長
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未破壊脳動脈瘤の予防処置について
開頭クリッピング術とカテーテルによるコイル術の違いを教えてください
めまいで受診したところ脳動脈瘤が見つかり、経過観察と言われた
半年ぐらい前からめまいがひどく、横から殴られたようにぐらついたり、視界が揺れたりしていたため、 耳鼻咽喉科を受診したところ、異常なしと診断を受けたが、脳神経外科の受診を勧められた。 その後、脳神経外科を受診したところ、脳動脈瘤という診断を受けたが、めまいの直接的な原因ではないと言われた。 脳動脈瘤の方はまだ大きくはないので経過観察だが、若いので念のため半年おきにMRIを撮るという流れになった。 この場合、めまいに対しては何科を受診したらよいのか。 また、脳動脈瘤に関しては引き続き同じ脳神経外科でMRIを撮りに行った方が良いのか。それとも一度別の病院にかかった方が良いのか。
未破裂脳動脈瘤の治療に関して
10年ほど前に脳底動脈に脳動脈瘤を指摘され、高血圧、高脂血症の薬を内服中でございます。頸部の動脈狭窄もあるため、抗凝固剤も内服しております。 ここ数年で動脈瘤の大きさが2倍くらいになり、現在の大きさは5~6mmです。大きさはさほど問題は無いようなのですが、瘤の形が突き出ている角?のようなものが数カ所あり、それも大きくなっているとのことで、何らかの治療を勧められました。 しかし、動脈瘤の位置が開頭では確認しにくい位置にある為クリッピングは難しく、コイリングが最も良いだろうと言われました。コイリングに関しても、これ以上ネックが大きくなったら難しくなるとのことです。 一番問題なのが、ヨード過敏症があると言うことです。 40年以上前の腎結石の際の造影で、全身に湿疹が出来、ヨード過敏を指摘されました。そのため、どこの病院に行っても治療は出来ないと言われてしまいます。 何か良い方法はないものかと悩んでおります。 私の叔母が40歳代でくも膜下出血で、母が脳出血で亡くなっていること、高血圧の持病もあり、時々血圧が220以上まで跳ね上がる事もあるため、何とか治療できたらと願っております。 何か良い方法があればご教授頂きたく、ご相談させて頂きました。 よろしくお願いいたします。
クモ膜下出血はどのような人がなるのでしょうか?
先日、友人のお母さんがクモ膜下出血で亡くなったという話を聞きました。発見が遅く、発見されたときにはすでに亡くなっていたそうです。私には一人暮らしの母が地元にいるのですが、この話を聞いてから母が突然、倒れるのではないかと心配になることがあります。クモ膜下出血って、そもそもどのような人がなるのでしょうか?ならないように気を付けることができるのでしょうか?
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