未破裂脳動脈瘤は、もし破裂すると出血により脳に大きなダメージを受けることになります。将来の破裂を予防するための代表的な治療法のひとつ、開頭クリッピング術を中心に、治療に対する考え方を東京都立多摩総合医療センター脳神経外科 部長の太田貴裕先生にうかがいました。
関連記事『未破裂脳動脈瘤が発見されたときの注意点』でご説明したように、未破裂脳動脈瘤の治療は、形状や大きさだけで決定するわけではありません。患者さんの年齢・健康状態などの背景も考慮します。年齢的には75歳までがひとつの区切りとなります。
ただし、お元気な方であれば75歳を超えていても手術を行うこともあります。反対に年齢が一定以下でも、重い糖尿病の方や心臓の悪い方には、手術を行うことはリスクが高いと判断することもあります。そのうえで患者さんの希望、脳動脈瘤の破裂のしやすさ、施設や術者がその治療にどれだけ習熟しているかといったことを考えて治療を決定すべきです。
脳動脈瘤が大きい場合(5〜7mm以上)は治療が勧められます。また、内頸動脈や後交通動脈のそばには動眼神経(どうがんしんけい)という眼を動かす神経が走っていますが、動脈瘤が神経を圧迫して神経麻痺が起こると、まぶたが下がる眼瞼下垂(がんけんかすい)という症状が出ます。あるいは視神経を圧迫するなど、何らかの症状が出ているときは動脈瘤が小さくても治療したほうがよいでしょう。
それまでなかった症状が出るということは、動脈瘤が大きくなって神経を圧迫しているということですから、それだけ破裂に近づいているということになります。また、前交通動脈など破裂しやすい場所にあるときや、形がいびつなもの、ブレブという突出した部分があるものも危険であるといえます。
経過観察で様子をみる場合には禁煙して、多量の飲酒を控え、定期的に画像診断の検査を受けていただくようにします。未破裂脳動脈瘤の80%〜90%は経過観察中に大きくなることはありませんが、検査の結果、もし大きくなっているようであれば破裂の危険があります。数年前までは形と大きさだけを診て手術を勧めていたという風潮がありましたが、最近ではより慎重に適応を考えるようになっています。
開頭クリッピング術は、クリップで動脈瘤の根元の部分を閉塞し、完全に血流を遮断する外科治療です。クリップはチタン製なので、術後MRI検査も可能です。
開頭手術の際、典型的な方法では額から耳の前まで、髪の生え際に沿って皮膚切開をします。私たちの場合は切開するところだけを1.5cmほどの幅で剃髪します。髪が長い方であれば、前髪を下ろすとほとんど傷は分かりません。約95%の方は障害を残さず、安全に手術を終えています。しかし、手術に伴う危険性もゼロではありません。
どんなに完璧に手術を行っても、開頭手術で髄液が抜けると認知機能の低下を招くことがあります。もちろん数日で元気になる方もいらっしゃいますが、やはりご高齢の方は術後の回復の立ち上がりが遅く、元気になるまでに非常に時間がかかります。よほど大きくて危険な動脈瘤でない限り、基本的に80歳以上の方には手術はお勧めしません。
未破裂脳動脈瘤の手術は、将来の出血を予防するための手術ですので、手術をした時点では患者さんに何もメリットはありません。むしろ手術で頭に傷ができることで周囲の皮膚感覚が鈍くなったり、傷が痛んだりすることもあります。また若干のへこみなど美容(外見)上の問題もあります。つまり、手術前とまったく同じ状態にはならないということは理解しておいたほうがよいと考えます。
手術をしなくても破裂さえしなければ何も支障はありませんが、将来の出血を予防するためにこれらのデメリットを我慢していただく必要があるわけですから、手術が怖いと思われる方やリスクがある方には手術をお勧めすることはできないと考えています。
また、開頭クリッピング術では皮膚や筋肉を切って骨を外すというプロセスがありますので、手術後に出血する可能性があります。また脳を直接触るため、けいれん発作が起こってしまうこともあります。けいれんを止める薬を服用していると車の運転などができなくなるという制限もあります。
一般的な手術であれば3〜4時間で手術が終わり、10〜12日で退院できますが、退院後すぐに仕事に復帰することは難しいため、1~2週間程度は自宅で静養して体力の回復に努めていただきます。
したがって、患者さんが何を優先されるか、手術を受けることによるその方のメリットが何であるのかは非常に重要です。もちろん、将来の破裂に対する不安が非常に強い方は治療をしてもよいでしょう。また、海外赴任の予定がある方なども、日本で治療を済ませておいたほうが安心できます。
それとは反対に、たとえばお子さんの結婚式など大事なイベントが控えているのであれば、それが終わってから治療を考えていただいても構いません。私自身は未破裂脳動脈瘤の治療は、急ぐ必要はまったくないと考えています。
東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科 部長
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めまいで受診したところ脳動脈瘤が見つかり、経過観察と言われた
半年ぐらい前からめまいがひどく、横から殴られたようにぐらついたり、視界が揺れたりしていたため、 耳鼻咽喉科を受診したところ、異常なしと診断を受けたが、脳神経外科の受診を勧められた。 その後、脳神経外科を受診したところ、脳動脈瘤という診断を受けたが、めまいの直接的な原因ではないと言われた。 脳動脈瘤の方はまだ大きくはないので経過観察だが、若いので念のため半年おきにMRIを撮るという流れになった。 この場合、めまいに対しては何科を受診したらよいのか。 また、脳動脈瘤に関しては引き続き同じ脳神経外科でMRIを撮りに行った方が良いのか。それとも一度別の病院にかかった方が良いのか。
未破裂脳動脈瘤の治療に関して
10年ほど前に脳底動脈に脳動脈瘤を指摘され、高血圧、高脂血症の薬を内服中でございます。頸部の動脈狭窄もあるため、抗凝固剤も内服しております。 ここ数年で動脈瘤の大きさが2倍くらいになり、現在の大きさは5~6mmです。大きさはさほど問題は無いようなのですが、瘤の形が突き出ている角?のようなものが数カ所あり、それも大きくなっているとのことで、何らかの治療を勧められました。 しかし、動脈瘤の位置が開頭では確認しにくい位置にある為クリッピングは難しく、コイリングが最も良いだろうと言われました。コイリングに関しても、これ以上ネックが大きくなったら難しくなるとのことです。 一番問題なのが、ヨード過敏症があると言うことです。 40年以上前の腎結石の際の造影で、全身に湿疹が出来、ヨード過敏を指摘されました。そのため、どこの病院に行っても治療は出来ないと言われてしまいます。 何か良い方法はないものかと悩んでおります。 私の叔母が40歳代でくも膜下出血で、母が脳出血で亡くなっていること、高血圧の持病もあり、時々血圧が220以上まで跳ね上がる事もあるため、何とか治療できたらと願っております。 何か良い方法があればご教授頂きたく、ご相談させて頂きました。 よろしくお願いいたします。
クモ膜下出血はどのような人がなるのでしょうか?
先日、友人のお母さんがクモ膜下出血で亡くなったという話を聞きました。発見が遅く、発見されたときにはすでに亡くなっていたそうです。私には一人暮らしの母が地元にいるのですが、この話を聞いてから母が突然、倒れるのではないかと心配になることがあります。クモ膜下出血って、そもそもどのような人がなるのでしょうか?ならないように気を付けることができるのでしょうか?
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