インタビュー

鍵穴手術の方法

鍵穴手術の方法
森 健太郎 先生

総合東京病院 脳神経外科 脳卒中センター長

森 健太郎 先生

この記事の最終更新は2016年01月25日です。

時代とともに発展を遂げてきた脳動脈瘤の治療方法。この記事では安全性・有効性・永続性が高くかつ体への負担が少ない「鍵穴手術」の方法について、総合東京病院 脳神経外科 脳卒中センター長の森 健太郎先生にお話し頂きました。

未破裂脳動脈瘤の自然歴(破裂するリスク)から考えれば、下記の特徴がある病変は破裂の危険性が高く 治療等を含めた慎重な検討が推奨されます。

・大きさ5-7 mm以上の未破裂脳動脈瘤(前方循環動脈瘤部分における)

・上記未満であっても

a. 症候性(疾患の兆候がある)の脳動脈瘤

b. 前交通動脈、内頚動脈―後交通動脈部などの部位に存在する脳動脈瘤

c. Aspect(dome/neck)比が大きい・size比(母血管に対する動脈瘤サイズの比)の大きい瘤、不整形・ブレブ(動脈瘤表面にできた小さなコブ)を有するなどの形態的特徴をもつ脳動脈瘤

※一般社団法人日本脳ドック学会 脳ドックのガイドライン2014 (pdf) から引用し改変 

・70歳以下

基本的には上記特徴のある脳動脈瘤の手術は行います。私の場合は5-7mm以下の脳動脈瘤であっても70歳以上の患者さんであっても、患者さんの不安感が強くかつ治療を強く希望される場合は手術を請け負います。ただし鍵穴手術は開頭部が小さく、細かい作業に制限があるため、安全性の面から前方循環の比較的小型(10mm以下)で単純な動脈瘤に限っています。      

脳動脈瘤の発生部位

開頭部を最大で直径2~3センチと小さくし、ここから挿入する顕微鏡や内視鏡を用いて、正確にクリッピングを行います。鍵穴手術で最も重要なポイントは、「硬膜外の処理」です。硬膜とは骨の下にある膜で、この硬膜の外の骨を効率よく処理することが求められます。開頭部は小さくても骨の内部を十分に削除して、顕微鏡視野の邪魔にならないよう工夫しています。

現在まで約268例のクリッピング術を行っていますが、最近では前頭蓋底腫瘍(脳の深部)約28例に対しても鍵穴手術で腫瘍を摘出しています。

・まず術前に3D-CTとCGを用いて徹底的にシミュレーションします。鍵穴出術が可能か、可能ならどの部位にどのくらいの鍵穴開頭が必要か検討します(Tailor-made手術)。(図1)

・硬膜内における操作で一切出血をさせないことを理想としています。
・開頭部が小さいため、左手でクリッピング操作できる技術が必要です。
・鍵穴開頭部からでも深部の術野は従来の手術と遜色ないのですが、器具を操作できる角度が狭いため、手術の操作性に劣るという欠点があります。なので、それを克服する技術と手術器具が必要となってきます。(図2)

・鍵穴手術の最大の欠点は顔面部に皮膚切開が行われるので(主に眉毛の上)、手術前に十分に患者さんに説明する必要があります。また顔に傷が入るわけですから、私は開頭部を閉じることにもかなり注力します。創部は6か月ほどで傷はかなり綺麗になります。

図1:3D-CTとCGを用いたシミュレーション
図2:従来の開頭法と鍵穴手術の比較
図3:予定鍵穴開頭部位(青)と切開部分(赤)
図4:術前・術後の3D-CT。 動脈瘤がクリップ(緑)で消失している

 

私は現在のところ、268例以上という日本で一番の手術症例を、合併症約1%の障害率で手術しています。 術前の徹底的なコンピュータによるシミュレーションで安全・確実な手術を心がけている結果、このような数字が得られているのだと考えています。 

体に麻痺(穿通枝と呼ばれる細い動脈の閉塞による脳梗塞の合併による半身の麻痺 )起こったのは250例分の2例=0.8%で、永続したのはそのうち1例=0.4%のみです。また脳挫傷などの出血性合併症は0例です。慢性硬膜下血腫を合併したものが5%あります。

慢性硬膜下血腫はご高齢の方に起こりやすい傾向にあります。現在はその予防のため、術後に五苓散(ごれいさん)という漢方を投与する場合が多いです。

開頭範囲を小さくすることで手術による患者さんの肉体的・精神的負担を減らし、手術中の出血を抑え、体への影響を少なくしています。今まで担当した25%の患者さんが翌日には退院し、92%の患者さんが術後3日以内に退院しています。

なお、10mm以上の大きさの動脈瘤・複雑な動脈瘤に対しては通常の開頭術のほうが安全なので、通常開頭を行っています。「全ての脳動脈瘤を鍵穴手術で治療する」ということが目的ではありません。「脳動脈瘤の中には体への影響が少ない鍵穴手術で治療できるものもあるため、適切なケースに対しては的確に鍵穴手術を行う」ということが大切なのです。 

未破裂動脈瘤の破裂率が年1%であり合併症の発生率が5%以内であれば、70才以下の方に対して治療は有効です。 また破裂率が2%であれば合併症の発生率が5~10%でも65才以下の方に有効です。しかし合併症の発生率が10%を超える場合、治療の有効性はないとされています。先述しましたが 、70歳以上でも不安感が強い患者さんに対しては鍵穴手術を行っています。その結果を評価したところ、手術時の年齢は手術成績に差を及ぼさないことがわかりました。

現在268例に対して最長10年間経過観察していますが、くも膜下出血を来した例は、他部位に2mmの小脳動脈瘤があり経過観察後に破裂を来した1例のみです。また術後に、完全なクリッピングを3D-CTで確認した例に関しては、その後の経過観察でも再発例はありません。

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