心臓バイパス手術やその他の心臓手術の前には、医師が手術をより安全に施行するために、いくつかの検査を行います。
一般的な検査としては、呼吸機能検査と頸動脈エコー検査の2つが挙げられます。しかし、呼吸の問題もしくは脳卒中発症のリスクとなる症状がない限りは、これらの検査はおそらく必要ないでしょう。以下にその理由を記します。
呼吸機能検査では、肺に問題がないかを調べることができます。肺疾患やそれに関する症状がある場合は、呼吸系の問題や肺炎発症の危険性を評価するのに有用となります。もし問題が見つかれば、手術計画を変更することもあります。例えば、肺疾患の治療のために服薬することや、呼吸筋を鍛える運動が必要となる場合があります。
しかし、肺疾患の症状がない場合、呼吸機能検査により異常が見つかることはまれで、またその結果により手術計画が変更されることもほとんどありません。
頸動脈エコー検査では、首の主要な二本の動脈を調べるために超音波を使用します。この検査は脳卒中やTIA(Transient Ischemic Attacks:一過性脳虚血発作)の既往がある患者さんの、頸動脈の高度な狭窄を見つけることができます。そういった場合、動脈の狭窄を改善する手術を行うことで、脳卒中の再発を予防することができます。
しかし、脳卒中の既往がない人にとって、心臓手術による脳卒中発症の危険性は高くありません。頸動脈の手術が危険性を下げるという証拠はなく、そのため動脈の検査は必須ではないともいえます。
疑わしい症状のない人がこれらの検査を受けたときに、誤った警鐘(※実際には病気ではないが、検査で陽性と出てしまうことなど)が鳴ってしまうことがあります。すると、経過観察のためのさらなる検査、専門医の診察、不必要な投薬、そして手術の延期などにつながるおそれも生じます。例えば、頸動脈エコーに続けて行う検査が、脳卒中や死亡の危険もはらむ不必要な手術につながる場合もあります。
・呼吸機能検査は40ドルから800ドル(日本円で約4800円〜96000円)(*日本の保険診療では3割負担で1000〜1500円程度です)がかかります。どの検査をどれだけ受けたかで費用は異なります。
・頚動脈エコーは300ドル(日本円で約36000円)かかります。(*日本の保険診療では3割負担で1700円程度です)また経過観察のための検査や処置、入院となればさらに15000ドル(日本円で約180万円)がかかります。
・呼吸機能検査は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患がある人にとっては有用です。息切れのような症状がある場合にもまた有用となります。
・頸動脈エコーは、脳卒中やTIAの既往がある場合には有用です。
心臓手術の準備はどのようにすればよいか?
主治医や病院の術前チームが問診と診察をします。
・なにか検査をすることになったときには、その理由を尋ねましょう
・自分が飲んでいるサプリメントや薬、ビタミン類のリストを持って行きましょう。名称・用量・用法の明記が必要です。
・診察の後で、新たに症状が出た場合は報告してください。呼吸の問題や突然の激しい頭痛、顔面の片側の麻痺、発話や手足の動きの異常などは必ず申告するようにしましょう。
手術をより安全なものにするために、以下のポイントを押さえましょう。
禁煙が早ければ早いほど合併症の危険性は低下します。手助けを必要とする方は、ニコチンパッチの使用について医師に相談しましょう。
手術前に自分の血液を保存しておくことで、輸血が必要となった場合に自身の血液を使うことができます。これにより感染の危険や拒絶反応のリスクなどを減らすことができます。
・アスピリンや、その他血液をサラサラにする薬を止めるべきか聞いておきましょう
・イブプロフェンやナプロキセンといった出血を起こしやすくする薬は避けましょう
・鎮痛にはアセトアミノフェンを使用するのが望ましいでしょう
病院の送り迎えや、病院に一晩付き添ってくれる方を見つけましょう
手術後に心臓リハビリプログラムを受けることで、回復が早くなります
・健康保険証
・入れ歯、コンタクトレンズ、眼鏡ケース
・ミュージックプレーヤーやヘッドホン、写真、部屋着など、快適に過ごすためのもの
宝石やその他の貴重品は持っていかないようにしましょう。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 大阪大学医学部付属病院 佐竹祐人
監修:小林裕貴、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
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